詩: アップルパイがひらく
掲載日:2026/03/10
駅前のベーカリーで
焼きたてのアップルパイを買いました
紙袋の底から
ほのかに伝わるあたたかさが
わたしの心をゆっくりほどいていきます
近くの公園の
まだ冷たいベンチに腰をおろし
パイの端をそっと割ると
甘いりんごの湯気が
ふわりと空へ逃げていきました
ひと口ふくみ 噛みしめるたび
サクサクとパイ生地がほどけていき
その奥から
やわらかな甘さがあらわれます
ああ おいしい
閉じそうだった心の層も
ぱり ぱり と
痛みの気配もなく
ひらいていきます
食べ終えて
紙袋だけが残っても
指先にはまだあたたかさが
心にはやさしい満足が残っています
アップルパイひとつで
心がひらくのだとしたら
わたしの心は
思っていたより
ずっと単純なのかもしれません




