表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

千文字短編シリーズ

青くて遠い私の地球

作者: 夜霧ランプ

 今年も夏休みが近づいてきた。

「美術の宿題。どうする?」と言う話題で、私達はお喋りをする。

「絵にする」と、美術部の美佳は言う。

「だよね。私どうしようかな」と、柔道部の私も考える。

「組木細工とか?」と、美佳は例を挙げる。

「原理が分からんよ」と、私は答えて苦笑いした。


 高校一年生の頃。やけに絵が上手い子が居ると聞いて、文化祭の時に、その絵を観に行った。

 滑らかな肌のイルカが、碧みがかった透明な水の中を泳いでいる。写実的で繊細な絵だった。

 筋肉馬鹿の私でも、綺麗な絵だって分かった。

「気に入ってくれた?」と言って声をかけて来たのが、美佳だった。

 黒縁の眼鏡が、大きな瞳をさらに縁取っている。黒い長い髪が綺麗な、頭の良さそうな子だった。


 私から見ると、美佳は「才女」に見えた。

 容姿は整っていて、成績も良く、絵を描く才能があって、運動だって一通り出来た。

 その彼女の唯一の欠点が、近眼。コンタクトレンズのある現代では、些細な欠点だ。

 私は、彼女と友達になってから、度々口にしていた。

「美佳は将来、何にでもなれそう」

「そう?」と、気のない風に聞かれたので、「そうだよ。何でもできるじゃない」って答えた。

 そんな時、美佳はついと顔を横にして、空を見るのだった。


 放課後。夕陽の中を、二人で歩く。真夏の近づく空は、鮮やかすぎるほど青い。

「新しいロケットが宇宙に行くんだって」と言う話題が上った。

「何時かはまた月にも行くらしいし。その時に宇宙飛行士に成れた人はついてるよね」と、私が言うと、空にある月を見ながら、「宇宙飛行士に成れる条件って分かる?」と、美佳が言い出した。

「どんなの?」と聞くと、彼女は答えた。

「身長百四十九点五センチ以上、百九十点五センチ以下。色覚正常。聴覚正常。遠距離視力、矯正視力共に一点零以上」

 視力の規定を言う時に、彼女は眼鏡の縁を人差し指で抑えた。その指先は少し震えている。

「私、矯正視力、一点零、出てないんだよね」

 私は訳が分かって、「そっか」としか言えなかった。

 美佳は笑ってた。

「璃々。何時か、宇宙に行ってよ」と、美佳は言う。「それで、本当に地球が綺麗かを、私に教えてよ」

 その声は、ひどく真剣で、どうしても突き放せなかった。

 私は月を見上げて、「うん」と頷いた。


 そして私は、今、カウントダウンを待っている。美佳が夢に見た、青い地球が見えるはずの宇宙への。

 私は彼女に言えるだろうか。

「地球は青く美しかった」と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ