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スコティッシュ・テリアのドゥーガル

今回の時系列はシアンたちがこの地に到着したばかり、本編でネズミ退治があった45話『命の借りと弟分契約』の後のサイドストーリーです。

スコティッシュ・テリア。


地球ではスコットランドが原産の犬種。

ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアとは同郷の犬種であり、親戚のような存在。


この世界でも、同じようにスコッティとウエスティは同じエルデ村で生まれ、一緒に作業をする仲。


そのスコッティの一人、ドゥーガル。

今回はそのドゥーガルの一日を紹介する。


外では陽の光が闇を照らし出す早朝。

そこに一人の『少年』が目を覚ます。


黒く尖った立ち耳をピクピクと動かしながら起き上がった少年の顔は、口まで隠しそうなほど伸びた黒い艶のある髪に隠れて表情が見えない。


髪の間に手を入れ、瞼を擦る。


「んにゃ…もう朝?」


年相応の少年のような反応を見せ、汲んであった水で顔を洗い、髪を掻き上げる。


サラサラの黒髪から見えた表情は、(よわい)六つ、人間年齢ではまだ十二歳程度の少年の顔。


そう。

実はドゥーガルの年齢はシアンよりも年下であり、そして普段生えている黒い髭は…。


松脂(まつやに)で慎重に固定されたそれは、つけ髭である。


スコッティの象徴である立派な黒髭。

だが、ドゥーガルの肉体年齢ではまだ産毛すら怪しい。

彼は毎朝、自分の髪で作ったつけ髭を理想の形に整えて顔に貼り付けているのだ。


なぜ、そんな奇行に走るのか。

理由は至極単純。


「……ハードボイルドだぜ」


鏡の中の自分に酔いしれる。

ドゥーガルの憧れは、孤独を愛し、寡黙にして沈着冷静。

背中で語る説得力を持つ男。


彼に言わせれば、周囲の男たちは「男」であっても「ハードボイルド」ではない。


一番身近なウエスティのヘイミッシュは、見た目こそ紳士だが中身は泥遊び好きの変態。故に論外。


ジャック・ラッセルのアイヴィーは、リーダーシップはあるが熱すぎる。

ハードボイルドに「熱血」はいらない。


マンチェスター・テリアのグレーターに至っては、誰かにチヤホヤされたいだけの目立ちたがり屋だ。

孤独を愛する美学の対極にいる。


ドワーフの面々に至っては、髭こそ立派だが、ただの酒飲みで汗臭い塊だ。

「おい、テリアの連中はいつも儂らに喧嘩売っとるじゃろ?」


ここに住む仲間たち、皆個性的で良心的なものが多いがドゥーガルの理想とは程遠い。


理想という名の空席。

そこに座れるのは自分しかいない。

そして、彼がここまで急いで「男」になろうとするのには、もう一つ理由があった。


「おはようございます、ドゥーガル」

「……おう」


短く、低く。腹の底から声を出す。

挨拶をしてきたのは、ワイヤー・フォックス・テリアのラスティだ。


ドゥーガルの初恋の相手。

三歳年上の彼女は、人間年齢で言えば十八歳。


ぼやぼやしていれば、大人の男にさらわれてしまう。

焦るドゥーガルは、彼女のマシンガントークを前にして涼しい顔を作っている。

(本当は圧倒されて言葉が出ないだけなのだが)


「フッ、賑やかな女だぜ。こんな女と正面で話せる男なんて俺くらいのもんだ。」

と言いたげなクールな表情で耐え忍んでいるのである。


最近ラスティの話の中に、たくさんの男の名前が増えるようになった。


シアンという男はまだガキ(年上ではあるが)であり、少しおどおどしているところがある。

ドゥーガルの脅威にはなっていない。


マットという男はなかなかクールな男だが、妻子持ち。ラスティが気を向けるわけない。


他にも別の地から来た男たちが何人かいるが、皆いい奴ではあるがハードボイルドなタイプはないためラスティが恋するとは思えない。


ただ、一人の男を除いて…。


「なんだよ?」

ドゥーガルが凝視する先に立っているのはイースト・シベリアン・ライカのロドルフォ。


白髪混じりの銀髪の髪。剃ってない無精髭。

低身長族のドゥーガルでは目線が届きそうにない高身長。

あらゆる人を見下したような鋭い眼光。

誰にも隙を見せない孤高な態度。


ドゥーガルの理想的な姿がそこに立っていた。


(くそっ…かっこいい…)


もしかしたら、この男がラスティの理想の人物なんじゃないかと勝手に想像し焦るドゥーガル。


震える手で、ポケットにしまっていた葉巻に見たってた棒を口に咥えて息を吸おうとした瞬間。


「おい、ガキ。お前、あいつの真似してんじゃねえだろうな?」

とロドルフォが鋭い眼光で近寄ってくる。


ロドルフォが指す『あいつ』とは。

少し前、この地に来て、混沌という置き土産をしていった人物。


ネズミ騒ぎを引き起こした張本人の疑惑のあるリオンという男。


ドゥーガルの理想とは程遠い、軽薄さを持つ男だが、一つだけドゥーガルが見惚れてしまったところがある。


『スゥ〜ハァ〜。なんやおチビさん?君らからしてみたら『これ』は臭いやろ?あっち行きぃ』

と話しかけられると理想とは程遠い姿だったが、キセルを使った喫煙する姿は様になっていた。


見惚れてしまったのと。そしておチビさん扱いされたのが悔しくて思わずドゥーガルは牙を剥いて立ち去ってしまった。


その過去をロドルフォも聞いていたのか、ドゥーガルから木の棒を取り上げた後


「鼻が腐るから煙を吸おうなんて、真似なんてするんじゃねえぞ」


憧れのロドルフォに、ガキ扱いどころか「リオンの真似事」だと見抜かれた屈辱。


「ううううあああああ!」


背中を見せて去っていくロドルフォ。

その足の長さを、無意識に自分の短い脚と比較してしまい、ドゥーガルは地団駄を踏んだ。

牙を剥いて威嚇しても、出ているのは本物の牙ではなく、必死に押さえているせいでズレかけた「つけ髭」だ。


そしてドゥーガルが悔しがっている最中、シアンの家に訪れていたラスティはカーネとお茶会をしていた。


「そういえば、ラスティちゃんはまだ誰かとお付き合いしないの?」

「ええ…?」

カーネの質問に、少し顔を赤く染めラスティは困惑している。


「ラスティちゃん可愛いからモテると思うんだけど、ラスティちゃんはどういう男が好みなの?」


ラスティは少し考えた後、カーネにもわかりやすいように答えた。


「好みの男性と言われてしまうと困ってしまいますわ。この地にいる殿方は皆各々、素敵な部分がございますから。カーネさんのご子息であるシアンくんだって立派で素敵な男性だと思いますし…あっ!でもシアンくんにはアンナさんがいらっしゃいますから、わたくしなんて出る幕もございませんね。シュウさんも逞しくて素敵ですが、女性が苦手なのでしょうか?ほとんどの女性と話しているところを見たことがございませんので、わたくしも近寄らないようにしていますわ。ジャックは幼馴染ですからそういう関係になるとも思えませんし、ヘイミッシュは恋愛感情とかないのではないでしょうか?」


怒涛のマシンガントーク。

だがカーネは動じない。


「具体的にありがとう。けどどういう男が好きなの?」

そう言われて、ラスティは少し困ってしまう。

どういう男性が好みとかあまり考えたことがないからだ。


「カッコイイ男と可愛い男。どっちがいい?」

カーネの質問に、それなら答えられるとラスティは満面の笑みで


「可愛い殿方の方が好きですわ」

と簡潔に答えた。


少しだけ年齢の説明をしますと、シアンの年齢を基準にして

ラスティ +2歳

シアン、アンナ、シュウ、マコトが同い年

ドゥーガル −1歳です。


このサイドストーリーの時はシアンは七歳。本編の時が進む前の話です。


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