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神田直樹、出ます  〜その票ください〜  作者: 双鶴


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9/10

投票前夜

午後8時。選挙運動、終了。

町は、急に静かになった。

選挙カーの声も、握手の手も、格言の紙も、すべて止まった。


桜ヶ丘ニュータウンは、夜の公園にだけ、灯りが残っていた。

ベンチに座る町民たちが、ぽつりぽつりと話す。


「神田さんの動画、今日も沁みたな」

「田所さん、最後まで元気だったね」

「三輪さん、犬と読書してた」


誰もが、誰かのことを少しだけ気にしていた。

それは、選挙がもたらした、ささやかな変化だった。


---


神田は、喫茶店のカウンターで、最後のネルドリップを淹れていた。

豆は、選挙期間中に一番人気だった「トリビアブレンド」。

香りは、静かに町に広がった。


「選挙って、終わると、ちょっと寂しいですね」

そう言って、神田はカップを差し出した。


「でも、町の空気は、また誰かが淹れますから」


---


その夜、神田のLINE公式アカウントには、最後のトリビアが届いた。


【今日のトリビア】

「選挙運動は終わりました。あとは、あなたの一票だけです」


そして、喫茶店の窓には、手書きの紙が貼られた。


「その票、ください。

でも、コーヒー飲んでからでいいです」


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