静けさの中の一票
選挙戦もいよいよ終盤。
町は、静かに、しかし確実に、騒がしくなっていた。
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田所誠司は、ついに“24時間握手”を決行。
コンビニの前にテントを張り、「いつでも握手できます」と書かれたのぼりを立てた。
深夜2時、酔っ払いと握手。
早朝5時、新聞配達員と握手。
昼12時、配達の兄ちゃんとハイタッチ。
トリビア①:「選挙運動は“午前8時〜午後8時”まで。時間外の握手は“ただの握手”」
「ただの握手ならセーフ!」と叫ぶ田所。
町民の反応:「がんばってるけど、ちょっと怖い」
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三輪律子は、“町内一斉読書タイム”を提案。
午後3時、町内放送で「読書の時間です」とアナウンス。
町民の反応:「え、今?」「洗濯物干してるんだけど」
さらに、町内の子どもたちに“選挙標語”を募集。
優秀作は以下の通り:
• 「せんきょって なにかしら しらんけど」
• 「ままが いれろと いったから」
• 「こーひーのひとが すき」
トリビア②:「未成年の選挙運動は禁止。ただし“標語募集”はセーフ」
トリビア③:「選挙期間中、子どもに“投票を促す”のもグレーゾーン」
三輪は「教育の力を信じてます」と言ったが、
町民の反応:「ちょっと重い」「標語が正直すぎる」
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そして神田は、変わらず喫茶店でコーヒーを淹れていた。
動画は毎日更新。
タイトルは「選挙とコーヒーの共通点」シリーズ。
「どちらも、時間をかけて、じっくり抽出するものです」
「どちらも、香りが大事です。言葉の香り、空気の香り」
「どちらも、熱すぎると火傷します」
トリビア④:「選挙戦で“過激な発言”は逆効果。中庸な言葉が票を集める傾向あり」
トリビア⑤:「SNSでの“共感型投稿”は、拡散力が高い。怒りより、共感が強い」
神田の動画には、毎回コメントがついた。
「今日の一杯、沁みました」
「選挙って、こんなに静かでいいんだ」
「この人に町を任せたい……というか、豆を任せたい」
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選挙戦最終日前夜。
神田は、喫茶店のカウンターで、ひとり原稿を書いていた。
タイトルは——
「その票、ください」
「選挙って、お願いすることなんですね」
「命令じゃなくて、お願い」
「だから、僕は言います」
「その票、ください。
でも、コーヒー飲んでからでいいです」




