ネット戦術、始めました
「選挙カーはうるさい」
「ポスターは見ない」
「握手はちょっと怖い」
そんな声が、町のあちこちから聞こえてきた。
桜ヶ丘ニュータウンは、静けさを愛する町だった。
そして神田は、その静けさに最も馴染む男だった。
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神田は、まず映像チャンネルを開設した。
チャンネル名は『喫茶店からこんにちは』。
初回動画のタイトルは「選挙ポスターの顔写真、笑ってなくてもOKって知ってました?」
トリビア①:「選挙ポスターの顔写真は“笑顔じゃなくてもOK”。むしろ真顔が多い」
動画は、喫茶店のカウンターから始まる。
神田がネルドリップを淹れながら、静かに語る。
「町長選のポスター、見たことありますか?
あれ、笑ってる人、少ないですよね。
でも、心は笑ってるんです。たぶん」
コメント欄は、ゆるく盛り上がった。
「この人、町長より動画サイト向きでは」
「なんか、癒される」
「選挙って、こんなに静かでいいの?」
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次に神田は、SNS公式アカウントを開設。
名前は『神田町長(仮)』。
毎朝、「今日の選挙トリビア」を配信。
【今日のトリビア】
「選挙カーの音量は“85デシベル以下”と決まっている」
(参考:電車の車内アナウンスと同じくらい)
トリビア②:「選挙カーの音量は“85デシベル以下”。騒音対策として法律で定められている」
トリビア③:「SNS公式アカウントは選挙活動OK。ただし、選挙当日は更新NG」
町民たちは、朝のトリビアを楽しみにするようになった。
「今日の豆知識、来た!」
「神田さん、地味に勉強になる」
「選挙って、クイズ番組みたいだな」
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さらに神田は、画像投稿サイトで「町の風景と選挙トリビア」を投稿。
写真は、喫茶店の窓から見える公園。
キャプションは——
「この公園で演説してもOK。ただし、拡声器は申請が必要です」
トリビア④:「公園での演説はOK。ただし、拡声器使用には事前申請が必要」
トリビア⑤:「短時間動画で踊る候補者、実は増えている。若者票狙い」
神田は踊らない。
ただ、ネルドリップの音をASMR風に投稿した。
「町長選ASMR」として、なぜかバズった。
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こうして、神田の“静かな選挙戦”は、町の空気をじわじわと変えていった。
町民たちは言った。
「なんか、選挙って……好きかも」
そして神田は、次の動画の準備を始めた。
タイトルは——
「供託金って、没収されるんですか?」




