候補者、三つ巴
神田が「出ます」と言った翌日、町の空気は妙にざわついていた。
スーパーのレジ横には「神田さん、町長になるってよ」と書かれた手書きのメモ。
保育園の送迎口では「神田さんって、誰?」という会話が飛び交い、コンビニでは——
「俺も出るわ」
田所誠司、コンビニ店主。自称“町のライフライン”。
「選挙カー? うちの軽バンで24時間回せるし。ポスター? レジ横に貼るし。演説? レジ前でやるし」
「町を眠らせない男」として、立候補を宣言。
その翌日——
「私も出ます」
三輪律子、元教師。教育改革を掲げ、「朝のラジオ体操義務化」「町内読書週間」「公園でのスマホ禁止」を提案。
「町を正しく導く女」として、立候補を宣言。
こうして、桜ヶ丘ニュータウンは、喫茶店店主・コンビニ店主・元教師による三つ巴の町長選へ突入した。
トリビア①:「町長選は、政党の推薦がなくても出られる。無所属候補が多いのも特徴」
トリビア②:「選挙カーは“自家用車でもOK”。ただし、助手席に乗れるのは候補者本人だけ」
トリビア③:「選挙ポスターは“掲示板に貼るだけ”。町内の電柱や壁には貼れない」
神田は、喫茶店のカウンターで静かに言った。
「……じゃあ、俺はネットでいくか」
その言葉に、町内会副会長が目を輝かせた。
「ネット選挙、いけるぞ。SNS、ブログ、動画、全部使える。2013年から解禁されてる」
神田は、元編集者としての血が騒いだ。
「じゃあ、“町長選トリビア”シリーズ、始めようか」
こうして、神田の選挙戦は、ネルドリップとネットとトリビアで幕を開けた。




