神田、出るってよ
「町長って、誰がなるの?」
「立候補すれば、誰でもなれるんじゃない?」
「じゃあ、神田さんでいいんじゃない?」
午後3時、喫茶店「珈琲 神田」。
カウンターには、町内会の副会長、スーパーの店長、保育園の園長、そして“暇そうな人代表”の神田直樹が並んでいた。
「いやいや、俺、政治とか興味ないし」
「でも、喫茶店やってるってことは、人の話を聞くのが得意ってことでしょ?」
「あと、顔がなんか町長っぽい」
「あと、暇そう」
神田は、ネルドリップの湯を注ぎながら、静かに言った。
「……やるなら、勝ちたいけどね」
その瞬間、町内会副会長がスマホを取り出した。
「じゃあ、選挙のこと調べるか」
トリビア①:「町長選は、告示から5日間が選挙運動期間。短期決戦が基本」
トリビア②:「立候補には“供託金50万円”が必要。落選すると没収」
トリビア③:「選挙ポスターのサイズは“縦42cm×横30cm”と決まっている」
「ポスターって、そんなに小さいの?」
「供託金って、没収されるの?」
「ていうか、神田さん、写真撮ろう。ポスター用」
その場でスマホを向けられ、神田はコーヒーカップを持ったまま微笑んだ。
「……でますか、俺」
その夜、町の掲示板に貼られた手書きの紙には、こう書かれていた。
「神田直樹、町長選に出ます(予定)」
そして、町の空気が、少しだけざわつき始めた。




