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白の英雄譚  作者: 東の店
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ないなら"そうぞう"すればいい。

 震える手が自分が恐れていることを自覚させてくる。勝ち筋だって思い浮かばなかった。


 それもそのはず。あの1撃で仕留めきれなかった時点で自分が思い描ける勝ちはなくなっていた。


 だから間違いなく自分は絶望しかけていた。


(勝てないけど……)


 仕舞いには自分で勝てないとも思った。

 

 だが勝てないという言葉がいざ自分から出てくると、手の震えは止まり心に引っかかっていた重い何かが消えていった。


 そして案外自分が怖がっていないことに気がついた。


(あれ案外行けるか?……なら…今勝てないならまず利き腕からか?)


 さっきまでの焦りや恐怖や不安は突如としてスンッと消えていき、自然な流れですぐ次にすることを考える。


(なんか急に怖くなくなったな。なんでだろう?)


 見えないものだったりわからないものは怖い。勝てるかわからないという不確定で見えないものが勝てないとわかることで姿を現したのだ。


 だから怖くはなくなった。


(勝てないってわかったからかな?まあいいか)


 理由は自分でもわかっていない。この英雄の身体のおかげでもない。


 生前からの自身に刻まれていた習慣だった。いざ現実になれば簡単に受け止めることができる。


 受け止めて、悪態をついてきた。


"うるさい"

"お前らが悪い"

 

 応募したときは怖かったけど、結果がでると怖くはなかった。むしろイラついたぐらいだ。


(現時点では勝ってる絵を描くことは不可能だ。ムカつくけどな。だからまずは勝ちにつながる道を描く。どこでもいいが…まずは腕を斬る絵を描けばいい。描くことができたら次に繋がる)


 現段階では自分が奴に勝っている絵を描くことは不可能だ。ただそれは奴が今の状態ならの話だ。


(捨て身覚悟で突っ込んでフェイントからの腕、かな?

まずはそこからか。)


 木に鉛筆で絵を描くことはできない。だけど彫刻なら掘ることで絵を描けるかもしれない。


(なんだ今までと何も変わらないな。一撃に全てを賭ける必要なんてなかった。なにより…)


 自分では気づいてないけれどこれは経験だった。

嫌な説得力だが失敗なんてものはいっぱいしてきた。だから落ちることには慣れていた。


(俺なら…できる!)


 失敗するたびに誰よりも自分を評価していた者。


 周りはクソで自分が正しいと言い続けた者。


 約20年間言い続けてきた言葉がそうそう変わるわけがない。刻まれたものは消せないから。


「フッ!」


「来るか…」


 ゼノスめがけて何の工夫もなしの正真正銘真っ直ぐと突っ込んだ。


「とうとう投げやりになったか?」


(いちいちイラつく声だな)


 余裕の声音が耳から入ってきて自身のプライドを逆撫でしてくる。実際に、振りかざした剣は簡単に受け止められてしまったため何も言い返せない。


「それともまた何か小細工を企んでいるのかッ!」


 ビュン!と受け止めていた槍でゼノスは相手を吹き飛ばした。


 それをちゃんと剣だけで受け止めてノーダメージでとりあえずは済んだ。


(油断はしないがやはり汚い。英雄ほど警戒はいらないか。しかし…近づかれるのはまずいか)


 簡単に反応はできたがその力までは無理だった。受け止めた手が少しばかり痛んでいたのだ。


 ゼノスは先のように上昇していき。今度こそ簡単には近づけない高さになった。それでいて自分からは攻撃できる距離を取っている。


(やっぱ空飛んでるのが1番キツいな)


 どんなに自分が高く飛んだとしても、奴と空でまともに戦えるのはせいぜい数秒間だけで圧倒的に不利だ。


(さっきのは一回限りだし。どうする?)


 ババッと弧を描かない数々の雷のような矢が一斉に自分めがけて飛んでくる。


 それを避けるため、奴からは視線は外さずに横に走った。避けるだけなら余裕が生まれてきていることで攻撃には当たらずに済んできている。


(…………)


 終わりの見えない飛んでくる無数の矢を避け続ける。


(近づけないッ!)


 少しでも近づこうと意識を向ければ隙が生まれることになる。近づくことができないならこっちからは何もすることができない。


(もう近づけさせないつもりか?)


 上どころか近づくことさえもさせない。そんな殺人予告というか、殺人をしてきている。


(魔法の使えない貴様には近づく術などあるまい。

それは貴様の行動からでもわかるわ。何を企もうと近づけさせなければ脅威にはならんな)


 ゼノスはじわじわと時間をかけて標的を狩りとることにしたのだ。


(必ず我が殺してやろう)


(しかし、記憶喪失か。はたまた別人か。フッ……ダメだゼノスさっき笑ったばかりではないのか?気を緩めてはいけぬ)


(…いけぬがあのような者だと仕方もないか)


 ゼノスの口角はプルプルと笑いを我慢し震えていた。それも当然。相手を完全に見下していたのだ。


(あの英雄が、か)


 ゼノスは目を細めてしっかりと英雄だった者を目据えた。


 それによってますます笑いの塊が膨らんで爆発しそうになった。


 あの英雄があんな雑魚同然になったことが我慢できないほどの笑いを起こしてくる。


(ははッあのようなゴミになるとはな)


 ゼノスは笑いを堪えてながらも攻撃を続けた。兜を頭に被っているおかげでニヤついていた顔を誰にも見られずにすんでいる。


 だからこれはゼノスだけが知っていることだ。


(ちくしょう次だ!)


 何度も何度も勝ちの可能性が出てくる絵を描き続けるが、どれもこれも奴の近くに自分がいる絵だ。


(もう上を取れないのは勝てないってわかった原因の一つだから気にすることじゃない。ただ)


 勝っている絵はまだ描くことはできない。それはさっきわかった。だけど…


(近づくこともできないのは流石にちょっと)


 攻撃している絵でさえも描くことができない。


(さっきの二撃目で攻撃の可能性も消えたのか?)


 簡単に弾き返されたあの攻撃から奴は近づけさせることもさせないようにしている。


(てかアイツさっきから空からチクチクうっとしいな!さっきの高笑いだって見下してきやがって。なにより俺の描いた絵を台無しに。あのゴミが!)


 自分の描いた絵を奴によって失敗作にされてしまったことが今一番イラついたことだった。


(いやまあ俺も描いてた時は自信なかったけど…)


 オーディションに出すまではいつも自信と自虐が交互に来ていた。ただ、いざ落ちると自信が圧勝していつも悪態をついてる。


(…やっぱ何も描けない。)


 腕を斬ればいいなんてマジで思っていたことを、思い出して呆れたようにもとれる恥ずかし笑いがでてくる。


(こんな状況を覆すには)


(やっぱり魔法か?)


 絶望はしていないにしろこんな案しか出ないことに

呆れの冷笑が湧いてきた。


(けどまだ使えないし…だからさっき上を取りに行ったのに……魔法かあ)


 考えながらも奴からの雷の矢を避け続ける。


 もし自分が魔法を使えた場合のことを頭で考えると、1つ2つ3つと攻撃の絵が描くことができる。


 だが結局はため息しか出てこない。


(ほんとどうやったら使えるんだ?)


 昨日の夜にハルに教えてもらった時以外にも何回か魔法を使おうとしたが一回も掠りさえもしなかった。


 "コツはイメージするんです"ハルが言っていた言葉がアドバイスかのように出てくる。いや実際アドバイスだったな。


(イメージか。)


「水よ!……」


 使えない。


(もしかして俺じゃ無理なのか…)


 "君じゃ無理だよ"


 いつかどこかのゴミに言われた言葉が流れてきた。


(無理じゃない。俺が想像できないはずがないんだ。うん。)


(ならそもそも一生使えない身体なのか?)


 今まで絵を何枚も何枚も描いてきた。だから想像力はかなりあるはずだった。


 そこに疑問は持たないようにしている。だったらそもそも魔法が使えないと考えるのは道理だった。ただ想像力は見るだけじゃ育たない。そのことに気づいていなかった。


(イメージか…イメージ…想像、それなら俺ができないはず…)


(そうぞう?)


 魔法、イメージ、そうぞう、絵。


 一つ一つの単語が集まって一つの答えを作ろうとしている。


 今までの自分が絵を描いてきた時を上映が開始する。始まりはどんな時だって何かを見てからだった。


ただ、見るだけじゃリアルは描けてこなかった。

 

(創造!そうか本当に描けばいいんだ!)


(よしさっそく!試してみ、いや待て落ち着け。一旦整理)


(それだけじゃ使えない理由の解決になってない。

だから魔法を使おうとしたらダメだ。同じことの繰り返しになるだけだからな。初めて何かを描く時はいつだって何かを見ながら描く。見本がある!)


 二次元の中にリアルを落とし込むのが絵だ。


 だがそれを逆にするのは不可能なんじゃないか。


(そしてその見本は何回も見てきた。今だって見てる。

なら現実に二次元を持ってくるにはそれだけじゃまだ足りないってことだ。なら)


 今からするのは想像じゃない。創造だ。

 

 空に絵を描く。


 二次元から現実に絵をもってくる。


 その絵の中に魔法を描く。


(触れるんだ。普通の絵でも立体にするためには。よりリアルにするときは触れるなら触ってきた。ほんのささいな凸凹も触り心地も描き忘れないように)


(俺はまだ魔法に触れてない)


 この世界に来てから運が良かったのか一度も魔法には当たっていなかった。


 走りながら自分の手と目を合わせる。


 行けるか?と聞くように。


(よし)


 返答は待たない。


(穴だらけで結構!俺ならできるからな!)


 勢いよく自ら殺しにかかってくる魔法に当たりに行った。


(自ら?まあ良い。ならば…だ)


 ゼノスは矢に当たりに行く動作をとった瞬間に完全に仕留めるために大技の構えをとる。


 自ら手を雷に当てるとバチィ!!とした音がした。


(いッ!!)


 バチィバチィ!!一度当たると次々に矢が降り注いできた。数百の矢が殺しにくる。


「ッッ!あああ!」


(ッッ!しっかり触れるんだ!)


 雷に触れた。


多分だけど雷に触れた自分がこの世で一番上手く雷を表現できるんじゃないかと思いたいぐらいだった。


 魔法を描くことは無理じゃない。魔法が使えないなら魔法を描いて出せばいい。現実ならそうしている。


 現実では魔法が使えないし使った人もいない。なのにみんな魔法がどんなものかは"そうぞう"できる。魔法なんて言葉が出た理由は知らないがここ数十年ではそうだったはずだ。


(これが魔法なんだ!)


 手のひらだけでなく全身に魔法を浴びることで痛みと共に魔法の感覚の形がが伝わってくる。だがすでに触れていたのは雷なのではなかった。

 

 身体中の神経から脳に何かが血管を通って伝わってくるような覚醒する一歩手前。とでも言える状態。


 刹那の瞬間だけ攻撃の嵐が止んだことで痛みを通して触れた魔法を想像する。


(創造。…クソッ!まだ足りない!)


 作れないものを創るにはまだ足りない。


 するとビュンヒューン!!とゼノスが会心の一撃である大技を繰り出した。


(散れ英雄だった者よ)


 ゼノスはもはやただの作業としか思っていなかった。竜巻が雷を纏い本来向くはずのない方向を向きながら迫ってきていた。


「はぁはぁーッ!」


(これで!掴む!)


 迫ってくる竜巻に両手をかざして真正面から受け止める。後戻りなんてしない。


"えっと、誰だっけ?"


 だけど弱音が記憶として姿を現した。


「ーーーッ!」


 ドリルのような音を出した竜巻を手のひらで触った。


"もっと自分を出してみたらどうかな?"

"もっと想像力を豊かにしてみたら"

"個性がないんだよ"


(他人が何言おうと関係ないんだ!俺はさ!)


 水面に見た一つの誓い。


 なんてカッコよく言えるものではないけど気付けたことはあった。


(でも!)


"ありがとう"



 あの言葉が勇気になることをまだ知らない。


 知らないけどその言葉は優しくて気づかない強さで後ろから背中を押してくれる。


 黒くなった心に白を灯してくれた。


(俺は…できるんだ…。うん!)


(俺は描けるんだ!)


ブツン、シュッドォン!!「なに!?」


気がつくと竜巻が一瞬にして姿を消していた。


(見えなかったがまさか?)


「貴様魔法を!」ブュン!


「な!」


 カン!と鉄と鉄が当たった音が空中で撒き散らされた。空には何も遮るものはなく澄んだ音が重く鳴る。


「ッ!まあよい!それも想定内よ」


(落ち着けゼノス。何も焦ることはない!)


 魔法を使ってきたからなんだ?想定内なことに変わりはないと言い聞かせてはいるがこれは詭弁だった。


 あのスピードに魔法が加わると手をつけれるかがわからない。

 

 ただ不幸中の幸いなのか、魔法の威力はやはり英雄の頃に比べるとかなり弱かった。


「近づければとでも思ったか!」ギィ!!ガッ!


「いっっ!てーな!」


 ゼノスが薙ぎ払いにつなげた大きく一瞬鎌にも見えた攻撃をなんとか受け止める。


(吹き飛ばす!)


「なに!」


 ブュン!!ゼノスが得意とする風の魔法に似たような風でゼノスとの距離を一度あけることにした。


(今のはなんだ?なにかおかしいぞ!)

 

 今当たった魔法と今まで自分が受けてきた風魔法と自分が出してきていた風魔法との違和感。


「ハアハア、ふぅー」


 ゼノスと少しの間のお見合いになった事で息を整えることができた。


(途中から何も考えてなかったけど)


(使えた……魔法が使えた!)


 口が自然と緩くなっていきニヤついてしまっている。気持ち悪いですねー。


 あの時思い描いたものは相手と同じ雷魔法だった。自分が雷を操っている絵を描いた。雷の魔法と風の魔法に触れたことによって雷で粉砕した後勢いのまま風魔法を使うことができた。


(ただまだちゃんとは)


 はじめて自転車を漕げた時のような感覚に似ていて、まだグラグラとするぐらいには魔法が途切れどだった。


(慣れるまでは意識し続けないとな)


 当然そんなものを待ってくれる敵などいるはずがない。速く魔法に慣れなければならない。使えたと思えたらすぐに次の課題が出てくる。余裕なんてあっていいはずがない。


 なのに興奮が止まらなかった。


 口がずっと緩んでいて閉じなかった。


「………」

「………」


 ドン!!と空間が揺れた。


 瞬きする間もないほどの研ぎ澄まされたヒトツキをゼノスは繰り出した。


 それに当然のように反応してグダグダな剣技で受けてたった。


「ふん!」


「ぃッ!」


 ゼノスは顔、胴、首、腕、と一撃一撃ずつ狙い所を変えていくとプラス雷と風魔法を並行して使ってくる。


 まだなんとか攻撃を防ぐが、後ろに段々と下げさせられている。目を閉じることさえもできない。


 ずっと一点を見ている。目に血が足を持って走り始めている。


 カン!!バシャ!!ザン!

 避ける。防ぐ。魔法を使い続ける。


 この数秒で何度の魔法を使ったかはわからない。それほどの攻防をしていた。


 まだグダグダな風魔法で速く、そして広く避け続けた。焦点が合わない雷魔法で正確に強く使い続けた。

 

 現実での戦闘機が今の自分と同じ軌道で動けたなら最強だなと確信できるほど動きまわった。


 少しの気も許せなかったが、この攻防は魔法に慣れるための濃密で極上な時間だった。


(まだだまだ違う)


 少しばかり芽を生やしてきた攻撃したい気持ちを、それ以上の集中力で押さえ込む。


(どいうことだ?なぜこのような剣技に防がれるのだ!)


 ビュン!ババッ!「すぅ!」


 槍に受けて立ちながら四方八方から飛んでくる龍のような動きをする雷を同じく雷で粉砕する。


(それに!なんなのだこの魔法!何かが違う)


この世界で魔法は手や足に近しいものだ。


 何がとはわからないが日頃の感覚がこの現実を否定している。これは何か変だ。と


(それにだんだんと精度が上がっ(ここだ!)


「なに!?」キィィィィィ!!!とゼノスの胴を刺した。(しまっ!


「らっ!」


ガコン!


「がっッ」


ヒューン!!とゼノスは蹴り飛ばされ敵を見上げる形になった。


少しだけの距離だったが、相手のことがよく見えるため屈辱感は山のようにどでかく見えてしまった。


ゼノスは見下していた相手に確実にこの瞬間だけは敗北した。


 どれだけ御託を並べようと事実はこうだ。


 舐めプしてたら相手が覚醒してしまいました。


 どうしよ?と。


「………」(ゼノスよ…油断したな。)


(なんだこれ…)


「…………」(この一撃は一生の恥として背負ってゆけ)


(なんなんだこれ!)


(今ならしたいこと全部できる気がする!!)


 顔が最高の笑顔だった。最高潮の興奮。パチンコで10万勝った時よりも逝きそうだ!


「ははっ!」


(アイツ悔しくてしょうがないだろうなぁ。俺には分かるぞ。散々馬鹿にしてたからな俺のこと。ダサいなーうんダサい!俺をちゃんと評価しないからだぞ!)


「チッ!何を笑っておる?」


「いや別に、ハハっ」


「ッ!貴様!」


 ブワッ!!


 山のような竜巻が何個もゼノスの周りに出来上がり雨はより強くなっていった。雨粒一つ一つが一回り大きくなる。


 そして雷鳴がコングの代わりだ。


ゴン!!


「…行くぞ!!」


「こいよ雑ぁ魚!俺のが上だけどな!!」


「ほざけ!!」


 ゼノスから受けた全てを根に持っていたので、根からなった実を全力投球で返してやった。


 たった一撃だろうと自分はお前の上に行ったんだぞ、と。









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