会話
今日のこのぐらいの寒さなら、簡単に人を殺せるぐらい寒い日。カップルやら、家族やらが一斉に祭りみたいに騒ぎ出す日。
人混みが、本当にゴミみたいに見える今日この日。隠れるなら、こんな日が最適だ。
馬鹿みたいな奴らは綺麗だの言ってる、キラキラと光ってる人工の光が、人を上に向かせている。
こんな日の夜中、わざわざスーパーに来るやつなんてほとんどいない。来ているやつは、馬鹿だ。
スーパーにいる、可哀想な奴らをみる。人は少ない。クリスマス色に塗られている店には、自分と数人のサラリーマンぐらいしかいない。
じっくりと、ただバレずに、数少ない周りの人を警戒して見る。よく見ると、いやよく見なくても、本当にしょうもない連中だ。
しょうもない連中だとわかったら、目の前にあった菓子パンを慣れた手つきでスッーと持った。誰も気がついてない。それもそうだ、しょうもないからな。
俺は自分に問題があるとか、自分が凄くないなんてまったく思わない。
俺が何かミスをしたとしても、それは他の誰かが悪い。
俺と会話している相手が気まずそうにしてどっかに行ったとしても、それは俺に合わせれなかった奴がゴミで悪いだけだ。
つまり、俺は凄い。ゴミとは違う。
絵は上手いし、個性も豊かだし、普通の奴らとは違う。
俺を何故か落とした審査員達が、センスの塊もないカスなだけだった。
俺は1人じゃなにもできないゴミ達と違って、今まで1人で全てやってきた。だから、友達なんていらない。
俺は唯一の人間で、替えのきく普通な奴らとは違う。
「替えのきく人間なんていない」
こんな言葉は替えのきく人間の、負け犬の遠吠えだ。
実際どうだ?
もし、あそこにいる奴が今急に死んだとしたら?
そりゃあ一ヶ月は悲しまれるだろうよ。職場でも急に空いた穴は埋まらない。
ただ、急にってだけで一年後にはすぐに埋まってる。
もっと言えば、死んだやつより優秀な奴かもしれない。
そして、代わりに入った奴も同じだ。死んだとしても、遅くて一年でその穴は埋まる。
ほらな、無価値だ。
俺はそんな意味のないゴミとは違う。だから、俺の良さをわからない奴らは全員無価値のゴミだ。
そのまま、俺は手にバレずに持っていたパンを、流れるみたいに鞄に入れる。一つ入れるとまた一つと、入れていった。
「はぁはぁ、クソッ」
俺は支払いをしていない菓子パンを手に持って、全力でスーパーの店員から逃げていた。
「オイッ!待てこら!!」
「はぁはぁ、チャリは、せこいだろ!」
別に、パンの一つや二ついいだろうが!このゴミが!
ー君の絵ね、才能ないよー
周りのゴミどものうざったい視線を感じていると、同じくゴミから言われた言葉が、脳裏に浮かんだ。
クソ!なんで俺ばっかこんな
「ははっ、あはははは!!!」
「終わりだあー、あはは!!」
走っていると自然と笑えてきていた。これは絶望したりヤケクソになっているわけでもない。
こんな世界に対しての、呆れた笑いだった。
こんな世界はゴミで、生きづらい。
そんなことを考えながら走っていると、横から光が見えてきた。
なにかの希望の光りかとも思ったが、違ったらしい。
「え?」
ドン!!と俺は飛びだした道で、トラックに無情なまでに吹き飛ばされてしまった。
さらに酷いことに、俺は即死ではなかった。
「あ、ぁぁーぃたぃ」
走馬灯というものが雨のように、ポタポタと勝手に落ちてきた。傘などあるはずがなく、見るのは嫌だったが止めることができなかった。
嫌な記憶だ。俺は悪くないのに、この世界は生きづらい。
「、、、、」
自分の口がもう動かないことに気づくと、だんだんと意識も薄れていった。
そんな最悪な状況の中、最後の力で言葉が勝手に出ていった。
「もう一回だけ、」
ー死ぬって時に普通の人は何を思うんだろう?後悔か懺悔か満足か、はたまたそれ以外の何かかー
ー断言する。普通の人なら後悔しか出てこないだろうー
こんなんじゃ………、これでおわ
この瞬間俺の人生は終わった。
はずだった。
「!あ…れ?」
耳にはポツポツと、どこからか水が地面に落ちる音が聞こえてくる。
自分の視界に広がる景色は、瞬きの間にパッと、変わったように、全然知らない景色になっていた。
「これって、もしかして」
声を出すと、耳に聞こえてくるのは自分の声ではなく、まったく聞き覚えのない声だった。
「!!」
辺りを見渡していると、自分の体が視界に入ってくる。これも、まったく見覚えのない見た目だった。
誰だこいつは?
少し古い西洋風の服に腰についている剣、そしてオレンジが混ざった長い黄色の髪。
ここまで、条件が揃うと導き出せる答えを、俺はひとつしか持っていない。
これは「異世界、転生?」
「マジで?」
寝転がっていた体を起こして、なんとなく、明るい方に歩いていくと、自分の体がものすごく軽くて驚いた。
異世界に来たことをこの体が実感させてきた、と思ってしまうほどだった。
けど、洞窟の中だったから、まだ信じようとはしなかった。俺はこの目で見るまでは、何があっても信じない。
俺は何も言わずに、明るい方に夢中になって歩いていくと、すぐに外に出ることができた。
すると、ファンタジーの世界が俺を待っていたかのように、豪華に出迎えてくれた気がした。
そこには現実離れした、いや、今はもう現実になった世界が俺を待っていてくれていた。
「ッッッッッ!やったー!!!!!!」
高い山の洞窟だったため、新年の初日の出でも見たかのように、爽快で謎の達成感を味わうことができた。
「異世界!間違いなく異世界!剣魔法無双の世界」
「あ!そうだ」
先ほどから、自分の腰に存在を感じていた腰の剣を抜いてみることにした。
手を腰に伸ばし、俺は味わうようにその刀身をゆっくりと出していった。
一目でわかった、これは普通の剣ではないと。実物なんて今まで見たことなんてないけど、俺はこの刀身の美しさに、思わず声が漏れていた。
「すごい……」
すると、バァン!!と、爆発音のようなものが、俺の耳に聞こえてきた。
「!?まさか、魔物?!」
剣があったとしても、使う相手がいないなら無双はできない。
だから、魔物がいることは正直かなり嬉しい。
俺はすぐに音のした方に体を向けた。
すると、かなり遠くから聞こえたそれは、目を凝らして見るとかなりはっきりと見えた。
「!?ほんと凄いなこの体。かなり遠くのはずだけどな、と見えた!」
けだ、見えたはいいものの、少し残念な気分になった。
なぜなら、初めて見たはずの魔物は創作物で見ていた魔物と既視感があり、見分けがつかないほどだったからだ。
「なぁんだ、普通じゃんか。けど…まいっか」
残念だけど、異世界といえばはそれだけじゃない。だから、すぐに俺は気持ちを切り替えることができた。
「こいうのは、だいだい女の子が襲われてるんだよ。で、俺が助けて一目惚れだ。現実世界の奴らとは違って、バカでクズじゃないだろうなー」
魔物が襲っているであろう方向を目で追っていくと、そこにはやはり、目を引いてくる美人がいた。
「やはり、可愛いじゃないか。ならいく!」
と、ここで俺は一つの問題に気がついた。
どうやって行くんだ?
ここはかなり高い。昔登ったスカイツリーレベルみたいに高い。
こんなところから降りたら、間違いなく死ぬ。しばらく、俺は無言で考えることにした。
すると、そんな暇を与えないみたいに、ドン!!バンドンバン!!!と魔法のようなものが音と共に、俺に伝わってきた。
「はぁ!?」
「ふざけんな!初めての魔法なんだぞ!」
この世界に来て、最初の魔法があんな煙まみれの爆発?そんなのは嫌だ!
ただ、嫌なことでも、俺はこれをきっかけに1つの気づきを得れた。
「…そっか、魔法か!」
流石俺、天才だ。
「風魔法だったりならいけるはず、よし!!」
どうやってだすんだ?
魔法の存在を思い出したとして、俺は魔法の使い方について、これっぽっちも知らない。
まあ、こいうのはゲームみたいに、チュートリアルを飛ばしたと思って、色々と試すことにしよう。
そのうち、できる…はず。
「とりあえず、ウィンド!!」
バッと手を空にかざしたが、何も起こらない。ただ空に手をあげているだけで終わった。
「風よ!?そよ風?!疾風?!とべよーー!?」
「……え?」
俺は翳した手に問い詰めるみたいに、手をゆっくりと自分の目線と合わせた。
は?
とりあえず、降りれそうなとこ…探すか。
今の自分が、どれだけ恥ずかしいかを自覚する前に、降りれそうな所を探しに行くことにした。
魔法がない異世界なんて、流石にないよなぁ?
俺がちょっぴりと不安を感じていると、カッーー!!とカラスみたいな鳴き声が、遠くから聞こえてきた。
「ん?なんだ?魔物か?鳥か?」
少し落ち込んでいたからちょっといいかもな。
なんて、思っていると、その魔物はさっき遠目で見たやつよりもずっと大きく感じた。
「………あ無理だ。やばい!」
俺は逃げることにした。万引きした時みたいに、後ろを振り返らず、全力で走った。
「いや待てぇ!」
俺は自分で自分を止めた。
俺って今、この見た目からしても、おきまりからしても、たぶん最強だよな?
ならさ、逃げる必要なくね?
「ほぉら!こいよ!人生初の魔物退治だ!」
逃げる足を止めて、俺はその声のする方に振り返り、最強の体を向けた。
すると、その生き物は、カァー!カァー!!カァーーーー!!!と、止まる気配がなかった。
正直、近づいてくるとより大きく見えてきて、心臓が救援信号みたいに、ドクドクと早くなってくる。
だだだ大丈夫さ、異世界転生は最強なんだ
カァーー!!!!!!
一応言っとくとだ。我慢はした。けど、とうとう魔物が50メートルあたりにきたところで、三倍になったみたいに大きく見えたら、逃げるだろ?
「やっぱ無理!!とばっ!」
俺は急いでまた逃げようとしたけど、つまずいて転んでしまった。
俺みたいに、どんなに凄い人間でも失敗はあるんだから、仕方ない。
「あぁー!あー!!!!」
とりあえず、俺は無我夢中でも腕を振ったりしてみた。すると、ドン!とした音がすぐに横から聞こえてきた。
「あ、れ?」
目を開け見てみると、そこには魔物だったものがいた。俺とこの魔物しかいないんだ、すぐに自分がやったんだと確信した。
「あは、あははは、なんだやっぱそうだよな」
「この身体は、いや」
「俺は強い!」
拳を握り、殴った感触を味わった。かなり気持ちのいい感触で、ストレス発散におすすめしたいぐらいだ。
ただ難点は、俺みたいに強くなかったらできないってとこだ。
さっきまで、少しだけ感じていた恐怖はちゃんと消えていた。まあ、ほんの少しだけ感じてた、な。
「ふっ、俺ー、なんかやっちゃいましたー?」
そして、俺は温存していた、異世界転生定番の決め台詞を決めに行った。
………………………
けど、シーンとした反応しか返ってこなかった。それもそのはずで、俺以外誰もいないからな。
やっぱ、誰もいなかったら意味ないな。
ふっ、現実にいたゴミ共が見たらなんて言うかなー。いや、たぶんビビって何も言えないな
「うんうん。なら!」
「高くから飛んでも大丈夫だよな最強なんだし。さっきも全然手痛くなかったし」
「いっっやっほー!!」
俺は助走をつけて、力一杯にジャンプした。
そのため、かなり高くに飛ぶことができた。人間コンテストなら、殿堂入りの伝説の鳥人間になっていて、万バスしているだろう。
「すげー!!ははっ」
高く、爽快に、劇的に、空を落ちていた。
「気持ちいいーー」
笑いながら落ちていく。体は落ちているのに、心は月をも突き抜けるロケットみたいだった。
上を見ると、雲ひとつない青空、下を見れば、自然豊かな森に光る石に大樹。そんな最高の景色だった。
「これが俺の!世界だ!!」
トスと、地面についた。当然、痛みはなかった。
やっぱ、大丈夫だったな。よし!
ドォン!!と足に力を入れて、まだ音の聞こえる方向に走っていった。
今思えば、走る速さもめちゃくちゃ速いな。
全走力で走っていると、かなり遠くから聞こえていた音は、すでに目と鼻の先にまで聞こえてきた。
「見えた!そして!」
地面を足で押し、そいつめがけてジャンプした。
豚が二足歩行で立ってるようなデカい魔物で、正直気持ち悪いが、さっきの経験と興奮で、怖さは感じなかった。
「ふん!!」
俺が全力で殴ると、そいつは遥か遠くに飛んでいった。たぶん、死んだろう。
「あははは」
そして、俺は誰かいるであろうため、決め台詞をあらかじめ言っておく。
「えっとー、僕なんかしちゃいました?」
………。
「あれ?誰もいない?」
さっきは確かにいたのにな。
さっき遠くから魔物を見た時に、見えていた集団、特に美人な人がいなかった。
だから、なんとなく足を動かして周りを見渡すことにした。
すると、この世界に来てからワクワクしていた心は、たった1つの色に染められた。
「ッ!」
顔は青ざめ、吐き気が一瞬で襲ってきた。世界の重力が倍になったみたいに感じて、とにかく気持ち悪かった。
仕方がないことだと思う。
だって、そこに広がっていたのは人の死体だった。それに、ただの死体じゃない。
体の中から色んなものが出ていて、人と呼ぶにはとても、人の条件を満たしてはいなかった。
「ーーッはぁはぁ」
恥ずかしいことに、しばらく息ができていなかった。
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
俺はわけもわからず、ただ歩き出した。
別に聖人でもなければいいやつでもないが、誰か生きている人を探しに行くことにしたんだと思う。
嘘だろッ?回復魔法とかないのか…
そんな、俺の考えとは裏腹に、目に見えてくるのは死体だけだった。
こんなものは、俺は異世界に望んでいなかった。
「はぁはぁッ!」
こんなのは…。
俺は必死に吐くのを我慢しながら、歩き続けた。
もちろん俺はすごい奴だ。けど、流石にこれは無理だった。
歩いても、歩いても、目に見えてくるのは
死体。死体。何か。死体。死体。何か。死体。
嫌なのに、見たくないのに、見てしまう。
そんな状態でしばらく歩くて行くと、道を少し外れて、木に衝突している荷台のようなものが見えてきた。きっと、先程の人たちのものだろう。
見てみると、そこには血がついていなかった。
血がついていない…なら生きてるかも。
俺は微かな希望を手にするために、未だ吐き気がする自分を我慢して、声を出して呼びかけることにした。
「おい!誰かいるのか?」
「………どなたでしょう?」
すると、荷台の中から小鳥のような声が、芯を持って真っ直ぐに聞こえてきた。
生きてる!?
すぐさま、荷台の扉を開いた。中を見てみると、案外散らかってはいなかった。
すると、そこにいた車椅子?のようなものに座っていた、中学生ぐらいの女の子が、静かにじっと座っていた。
「あ…」
"インキャ君もしかしてデビュー?"
"あの、もう行っていい?"
俺は言葉に詰まった。
ただ、またすぐに死体のことで、頭がまたいっぱいになったことで、少しは考えを逸らすことができた。
そして、この子に何を言うべきなのか、それとも、何を言わないべきかを考えた。
見たことを、そのまま言えばいいのか?
けど、それじゃあ悲しむかもしれないし…。
死体のことを思い出すと、また吐き気がしてきた。
この吐き気をこの子もするかもしれない、そう考えるとまた、言葉が喉に詰まってしまう。
「あの、もしかして助けてくれたんでか?」
俺が黙ったままでいると、あっちから話しかけてきた。誰かに業務以外で話しかけられたのは、久々だった。
だから、今度はさっきまでとは違う理由で言葉が上手く出てこなかった。
「え?あ、いやその」
話しかけられただけなのに、額に雨の日に高速道路を走った車の窓についた、雨粒みたいに滲んできた。
「その…どうしたんですか?なんで、あなただけここにいるんですか?」
意図してない、敬語が出てしまった。
「大都市リールに行く途中のキャラバンだったんですが、途中で魔物に襲われて。私は見ての通り目も見えませんし、足も動きません。だからここで死ぬのを待っていたんです」
目が見えない?
俺はやっと顔を上げて、相手の目を見ることができた。見れば、確かにこの子の目の色は薄かった。
そして、気がついた。この子の独特な雰囲気に。
なんだか不思議で、どこか達観しているかのような。誰もいない街で、ただ1人生き残ったみたいに凛としている。
なんか…きれいだ。
死体を見た後だったからか、この子の姿がより美しくみえた。
「もしかして、魔物はあなたが?」
「あはい。倒しときました」
聞かれると、俺は目をもう1度離してしまう。
別に、目が合わせられないのではないけど。
自分から、あえて合わせないだけだ。
「お強いのですね…あの、もしよければなんですが助けてもらえないでしょうか」
「もちろんいいですはい!」
あ、
"これよろしくね"
"えっと、じゃあね。ありがと"
"だれ?"
何度目かわからない、またしても過去にゴミ達に言われた言葉が、頭に浮かび上がってくる。
いつものことだった。
またかよ…せっかく異世界に来たのに、またこうやって都合のいいように…。
そして、いつものように空っぽなお礼を言われて終わり。
「ありがとうございます」
「え?」
自分でも意図していなかった声が漏れた。ただのありがとうなのに、なぜか自分は驚いていた。
「?どうしたんですか?」
「いやその」
言葉がさっきよりも、いや、今までで1番上手く出てこない。
ただ、この出ないはいつものじゃなくて、別の…。
ありがとう?
いままでだって、たくさん言われてきた。
それで、いつもいつも都合のいい言葉だった。
けど、今のはなんだか違う。
同じ言葉のはずなのに、嬉しい…なんて。
「いやこちらこそありがとございます」
「?えっと…ありがとう?」
「え、ありがとうに対してのありがとう?ですかね…」
やっべ!なに言ってんだおれ!
「うふふ、なに言ってるんですか。おかしな人ですね」
「案外辛辣!」
「あ、いえすいません。馬鹿にしてるわけではないんです!」
「はい!こちらこそすいません!」
目、見えてないのに…。
こんなにも見られたのは初めてだな。
なんか、不思議な気分になるな。さっきまでは、吐きそうなぐらい気持ち悪かったのに。
いや、ありがとうなのかな…。
あ…早く話題ふらないと!
「あの、助けるって具体的になにすればいいんですか?」
「私をリールまで送ってください。承諾を得たとはいえ、図々しい頼みとはわかっています。ですが、改めてお願いします」
「さっきも言ったとおり、良いですよ」
「ありがとございます」
笑顔か。
今度は落ち着いている。
かと思ったらオドオドもするし。それになんか、意外と申し訳なさがないというか、きっちりというか、なんだろう。
暖かい?のかな。
「それじゃあ、歩きでいいですか?」
「もちろんです。本当にありがとうございます!」
律儀だな。なんか、トギッてするし。心臓にわるい。
「リールって、どっちに行けばいいんですか?」
「そこの道を北に向かってください」
「わかりました。それじゃあ行きますか」
「はい」
「そういえば、最初にお聞きしようと思ってたんですけど、名前はなんて言うのですか?」
"誰だっけ?アイツ"
「なまえ…?」
「はい。私はハル・アンダラです。あなたは?」
「なまえ、」
…いやだ。
どうせ忘れられるくらいなら、いやだ。
リールってところに送り届けて、それで終わる関係なんだし、たかだか数時間程度の付き合いになるだけだし。
どうせ覚えてもらえないなら…はじめから。
けど、この人なら…いや、何考えてんだ。
「それがですね、俺記憶なくて。そのー、わからないんですよ。名前」
「!それは申し訳ございません。悲しいことを思い出さして」
「いえいえ、全然いいんですよ!」
そんな真面目に返されたら罪悪感が。
「だから、俺の名前はあなた、でいいですよ」
けど、別にいいや。どうせすぐ忘れるだろうし。
うん…どうでもいい。
「よろしいのですか?」
「はい。」
「………………」
そんな本気で悩むなよ。どうせ名前を聞いたとしても忘れるくせに。
「いやほんと、そんな気負わなくていいですよ」
「……本当にあなたでいいんですか?」
「はい。」
「……わかりました。ならあなたさんですね」
「はい。あなたさんです」
これでいい。これで。
「それじゃあ、あらためて行きますか」
「はい。よろしくお願いします」
期待なんかしてないけど、聞かないといけないから。うん。話したいわけじゃない。
俺は一つ必要事項として、ハルに話しかけた。
「そういえば、リールってどれくらいかかるんですか?」
「えっとですね、4ヶ月ぐらいですね」
え?「え?4ヶ月!?」
「はい、なんでそんなこと…!すみません、記憶がなかったんですね。知っているものとばかり思っていたので、全然今からでも断ってくれて」
「いえ、全然いいですよ」
ここで断ったら、流石に罪悪感が…。
「ありがとございます!」
すると、ハルからは小学生みたいに純粋で、元気いっぱいなお礼が返ってきた。
あれ?やっぱりこの子意外と図太い?
「それじゃあ行きますか」
「はい!よろしくお願いします」
この子と4ヶ月一緒か……ふーん。
行こう!と意気揚々と言ったはいいものの、4ヶ月の旅ともなれば食糧は必要だと気づき、一度荷台の中を調べに戻った。
恥ずかしい気持ちを抑えながら、まだ使えそうな物を探した。食料を積んでいたラシアから、たぶんあるふずだ。
ガサガサと散らかったものを組み分けていくと、いかにもそれらしき物を見つけた。中を見てみるとパンだったりが入っていた。
「あ、あった!ありました!」
「よかったです!それを入れるカバンも近くにあると思います。非常用にと」
「えーと、これか!」
よしよし。これを鞄に入れてっと。
なんだか、俺はワクワクとは違った楽しさを感じはじめていた。たぶん、旅の始まりを感じていたからだと思う。
高校の時に山ほど見てきた、アニメラノベゲームの世界みたいで、というか、ほぼモデルの地に来ているから、どんなに否定しようとしても楽しい。
そのまま、ウキウキしながらもっと色々と調べていると、1番大事なものがないことに気がついた。
あれ?水が一個もないぞ?
「あのー、水がないんですけど?」
「水は魔法で出せるので、必要ないです」
「なるほど……」
そういえば、結局まだ一度も魔法を使えてはいないことを思いだした。
魔法か…。あとで聞いてみようかな。
ある程度見たら、食料をなるべくデカい鞄にいれて、他にも何個か必要そうな、料理に使いそうなものだったり、個人的に必要な鉛筆ぽいものだったりを入れて、荷台をでた。
かなりパンパンで、現実にあったら絶対に背負えないレベルで大きかった。
「よっと!」
それでも、この体では楽々に持ち上げて、背に背負うことができた。
やっぱりすげーな、なんて思ってしまうほどだ。
「改めて、行きますか」
「……あの、少しだけいいですか」
「?いいですよ」
「食料のことで、少し嫌な予感がして。もしかしたら、私以外はもう死んだのかなって」
「!…どうしてそう思うんですか?」
聞かれて、俺は死体のことを言うか言わないかの、選択肢がすぐに出てきた。
正直、あのことは別に言わなくても……。
「うまく逃げれたと思っていたんですが…あなたが魔物を倒してくれているなら、食糧を取りに帰ってくると思うんです。ですが、食料がかなりあるということは…」
この子は死んだ。とは言わなかった。
「……」
言うべきか言わないべきか。どうしよう?
「もし本当にそうなら、祈りたいんです」
「祈り?」
「はい。自然の中で死んだ人は埋葬できないんです。自然の力になるため、女神様に祈るんです。ちゃんと自然の力になって、女神様に天国に連れていってもらうために」
俺にはよくわからない考えだから、少し考えてから聞き返すことにした。
「……なんで、自然に返すんですか?」
「私たちも生物ですから」
「街で死んだ時はどうするんですか?」
「その時は、教会で焼いてもらうんです。そして、そのまま女神様が天国に連れていってくれんです」
いまいちまだわかんないな、正直。
ただ、それが決まりなら祈るべきなのか?
たぶん、死んだ人たちもそれを望んでるだろうし。なら、もう嘘をつく必要もないな。
「わかりました…そうです、あなた以外はたぶん全員死んでました」
「そうですか」
ハルはその事実をしっかりと受け止めたのか、少し表情を硬らさせ、噛み締めたみたいに言った。
「はい」
…………うーん。
どんなことを言えばいいのかがわからず、俺はこの子を見ることができなかった。
「あの、方向を教えてくれませんか?」
「えっとあっち……あなたから少しだけ左に顔を向けた方向です」
あっち、と指を刺して教えようとしたけど、途中でこの子は目が見えていないことを思い出し、俺はちゃんと言葉で説明した。
「ありがとうございます」
そう言って、ハルは両手を握り、空を見上げた。
これも見覚えがあった形だけど、あっちの世界で見るよりも、空気感が違った。本物というやつだと思う。
これが祈りか
とりあえず、俺も見よう見真似でしてみることにした。
俺も一度は死んだんだったんだよな…。さっき。
俺の時はこんなふうに思ってくれた人は…いないだろうな…
俺がしょうもないことを考えていると、ハルは祈りが終わり、顔を下げて手を解いた。
「ありがとうございます。終わりました」
「はい。なら行きましょうか」
「はい」
少ししんみりとした雰囲気が、無理やりくっつくるみたいに、ずっと漂っていた感じがした。
それでも、俺は車椅子を押しながら、歩いた。
ふと、ハルを見てみると、悲しいことではあったとは思うけど、特段珍しいことではないらしく、意外と普通だった。
だから、たぶんこの雰囲気は勝手に俺が感じているだけ。
自分が凄くないなんて、まったく思わない。
戯れることが、良いとも思わないし、羨ましいとも思わない。俺は友達なんていらない。いらない…。
ただ、自分が死んだことと、ちょっとだけ比べてみただけのこと。
俺は、ハルと死んだ人達がどういった関係だったかなんて、わからない。
でも、少なくとも、天国に行ってほしいって思うぐらいの関係ではあったんだろうな。
あこ人たちを覚えてる人は、いるんだろうな。
……何くだらないこと、考えてだか俺は。
「………」
「あの…どういった関係だったんですか?」
なに聞いてんだ、俺。
「関係?そうですね。難しいです、いざ聞かれるとみると」
「いやすみません全然答えたくなかったらそもそも特に意味のない質問でしたすみません」
「??」
早口すぎた!
早口すぎて聞き取れなかったハルは、戸惑いはせずとも、きょとんとした顔でこっちを見ていた。
その顔が気持ち悪いくらい優しくて、やるせない気持ちになる。
「とりあえずなんでもないです」
「はあ?」
今度は本当に、戸惑いの色一色になった顔に変わっていった。
やっばい!めちゃくちゃ引いてる!今のは確かに俺が悪かった!よし話すのやめよう!
では、反省会をここに開催します!
今のは俺が悪い。うん。この子はあんなゴミどもとは違うんだから。たぶん、まだというか、まったく知らないけど……、そうだよ忘れてた、俺が話したとしてもどうせ上手くいかないだしうん。もう話さないでおこう…、うん。相手が俺についてこれないんだし。
期待するだけ無駄だ
「……………」
「……………」
俺たちは、無言だった。
無言になってから、俺たちの間にはこれっぽっちの会話もなく、ただ時間が決まった動きで進んでいくだけだった。
気まずい…やっぱなんか話した方がいいのかな。けどあっちから話しかけてこないってことは話したくはないってことだろうしそれに期待するだけ無駄だし。でもこの子はあんなゴミどもとは違うかもだし。
こんな自問自答を延々と一人で繰り返していたら、そんなことに気がつくわけもないハルが、無言なんて気にしていなかったように、すんなりと話しかけてきた。
「あのー」
「はい!」
急に話しかけられたことで、少しばかりビックリしてしまった。これは、仕方ないだろ。
「そろそろ日が暮れるので、どこかでキャンプを作りましょう」
「キャンプ?ってつまり寝るところですか?」
「はい。ここの森は魔物が多いので」
夜になると魔物が活発になるとかかな
「けど、それこそ止まるのは危なくないですか?」
「だから、結界を張るんです。動くことはできませんが魔物でも入ってくることはできません」
なるほど。こんな疑問すでに解決してるのか
「どんなふうな場所がいいとかって、あるんですか?」
聞くと条件を色々と話してくる。
要約すると視野を確保できて道からそれたところ。
「わかりました。探してみます」
少し道を外れて、森の中に入っていくが、森といっても少し歩くと川が見えるぐらいだった。
それこそ、ジャングルのようなそこらじゅう木!草!葉っぱ!な所ではなかった。
「やっぱ、あったな」
俺は最初の高台から見えていた川を目指していた。 そして、それはちゃんとあってくれていた。
「よかったです」
「近くが川なんですが、問題ないですか?」
「大丈夫です。なら結界をお願いします」
「え?」
「……あ、すみません!もしかして…魔法も?」
「すみません」
「いえ!気づかなかった私が悪いんです。確かにさっきも水のこと言ってましたし!記憶喪失のことも言ってましたね。すいません!そうですねーそれじゃあ私が今から言うように書いてくれませんか?私の荷物の中に書くものがあるはずです」
ハルが慌てて早口で言ってくるから、俺も、はい!と、慌てながら荷物の中を確認した。
何かを反省しないとだけど、そんなこと考える暇もなかった。
「ありました。これでいいですよね?」
手に持っていた物をハルの手にそっと当てて渡すと、はい、とハルは短く答えて、では、と着々と作業を進めていった。
「まずは、円を開いてください。だいたい荷物をおいて寝ることのできるぐらい」
下は草むらだったが本当にかけるのだろうか?そんな疑問がまだ出てこようとしている。
けど、流石に俺もそろそろ慣れてきた。半信半疑と好奇心で、さっそく地面に筆をおいた。
すると、筆先から描かれる線は、本当に宙に浮かんでていたのだ。
本当に、映るのか?これ。
「すごい」
俺は絵を描いてきた。だから、この奇妙な筆に簡単に魅了されていっていた。
そのまま、俺は夢中になって円を書いて行った。少々膝が痛くなる書き方だが、しかたない。
絵を描く時に、こんなことはどうでも良かった。集中の邪魔だ。
……すごい。俺は何度も心で呟いた。
「書けました」
「ありがとうございます。それでは結界をはります。
円の中に入ってください」
「入りました」
「では…守りよ」
そう一言ハルが言うと、地面に書いた円からだんだんと、結界らしき青い光のカーテンが、下から伸びてきた。
しまいに、360度をおおい隠して、自分たちに外と内との境界を作ってくれた。
「できました」
やっぱ魔法すげー。
これだよこれ!これこそが異世界だよ!俺も早くやりてー、火とか雷とか!
改めて見た魔法は、まったく慣れることなく、俺の感動を軽く超えてきた。
当たり前だった。たぶん、全ての男の夢が、文字通り広がっていった瞬間だったからだ。
これを否定する奴は、ゴミだ。
「魔法って、そんな一言だけでいけるんですか?」
俺は、そんなに簡単なら俺もすぐできるかも、と言った、期待に満ちた声で言った。
「はい。むしろ私は苦手なので普通の人たちでも水、火、風、なら何も言わずに出せる人はそこそこにいます」
「マジでですか?!」
「マジでです」
「もちろん最初はみんな口に出してからじゃないとできません」
ならなら!俺にも魔法が!
「あの!教えてくれませんか!魔法」
「私でよければ」
「ならまずは、簡単な水からですね」
「はい!」
「水よ、と言って手から水が出るイメージをするんです」
「水よ!」
ブツンッ!!!!と、瞬間、俺の視界が全然知らない、別のところにいった。
知らない記憶が流れ星みたいに、流れてはすぐにどこかに消えていく。
誰かと誰かが話していたり戦っていたり、魔法みたいなのを使っていたり、暗いところをヨロヨロと歩いていたり。
途切れ途切れで、理解なんてできない。
わかるのは、この体の価値だけだった。
そして、もう一つ。一言だけわかったのだ。
「英雄…」
ポツリと自然と出た言葉、英雄。そう誰かに言われていた。それ以外は、何もわからなかった。
「あの?どうかしたんですか?」
「え?」
手をかざしたままボケッとした顔で、俺は座っていた。
ハルは、焦点は当然あってはいないが、心配そうな顔を向けてくれていた。
「数分間何も言わなかったので」
「数分?」
今のはこの体の記憶だよな…。
考えてなかったけどこの体の持ち主はどこに行ったんだ。俺と入れ替わりで…それとも、俺と同じで死んだのか。
楽しく川で遊んでいると、グッ!と川の深さに足を取られるみたいに、急に現実に引き戻された。
現実に戻ると、途端に疑問と若干の恐怖感を覚えていた。
それに、魔法も結局でてないし
英雄なら使えてもいいと思うけどな…それとも中身の問題なのか…いやそれはないな。
「あの、魔法はいいんですか?」
「あ!いえあはは」
「よければ、もうちょっとだけやってみたいです」
「なら次は炎の魔法にしますか。寝る時に必要ですから。夜は冷えますので」
「位置を教えてください。炎をつけます」
「すみません木とかまだ準備してないので今からとってきますね」
「木?大丈夫ですよ。なにもいりません」
「…なるほど、えっとじゃあ、そのまま手を翳して少しだけ先でお願いします」
色々と起きていて、焚き火の材料がいらないことにもすぐに納得できた。現実は現実として、すぐに受け止めるのが大切だと思う。
「炎よ」
野球ボールぐらいの炎が、流れるように下に落ちていった。線香花火みたいで、綺麗だった。
だから、なおさらなぜ自分が魔法を使えないかで、頭がいっぱいになっていった。
魔法魔法魔法魔法。
「………」
「できましたか?」
「はいすごいちょうどいいです」
「コツはイメージするんです。口にしたその時にそのものを。そうすればだんだんとできるようになります」
「イメージ……」
少し落ち込んだ様子でつぶやいてしまったけど、諦めずに、もう一度手をかざしていった。
「炎よ」
イメージイメージ…炎のイメージ
精一杯目を瞑り、手もしっかり伸ばして力を入れる。
さっき見た炎を、そのまま再現してイメージした。
けど、できてはいなかった。その代わり、はぁーと、ため息が出てしまう。
「でなかったんですね…。けどはじめは誰でもそうです。子供も大人達の見本を見て、それをイメージしてできるようになって行くんですから大丈夫ですよ」
見たものをイメージしたんだけどな。それに得意なんだけどなイメージするのは……見たもの?
俺はハッと、大事で恐ろしいことに気がついた。俺はなるべく気づかれないように、ゆっくりとハルの方に顔を向けた。
ハルは目が見えないのだ。
なのに、なぜイメージできたのか。
なんで…目は見えないのに。まさか嘘なのか?けどなんで俺に嘘を?理由は?同情を誘って俺を使うためか?この森は魔物が多いって言ってたしたとえ目が見えていたとしても一人では無理だろうし…ならやっぱり…。
また、色々と考えていると、ハルから励ましの言葉が飛んできた。
「それに、疲れてるんですよ。数時間歩きっぱなしで」
その一言で、俺は一度現実に戻ってきた。
確かに。言われたら、疲れがでてくるな。ねむい。何より、気遣われてるのが正直キツイ。
どうせ、めんどくさいとか思ってるだろうし。
「確かにそうかもです。ではもう寝ますか?」
「はい…それがいいと思います」
魔法が出ないこと、ハルの目のこと、死体のこと、色んなことが起こりすぎていて、正直イライラしていた。
だから、早く寝たかった。
「それでは、おやすみなさない。1日ありがとうございました」
「はい。おやすみです」
ハルは車椅子を軽く倒して寝る体制に入った。
俺はあらかじめ、結界の位置を決める時に木のそばを選んでいて、そこにもたれかかって寝ることにした。
けど、まだ目はつぶらずボーッとした。
川の穏やかな流れの音や、生き物の鳴き声が遠くから聞こえたりして、だんだんと落ち着いてきた。
そして、寝るためにゆっくりと呼吸していると、完全に心のイライラは消えてくれた。
すると、それを待っていたかのように眠気が急に襲ってきた。こうなれば寝るほかないだろう。
今日は色々と忙しい日だった。死んだと思ったら異世界にきて最強かと思ったら魔法は使えなくて目の見えない子と旅をすることになって……
それでも、無意識にまた反省会をしていた。
俺は視線だけをハルのほうに向けて、色々と想像してしまう。
目の見えない、足も動かせない、そんな女の子。
名前はハル。
さっきはちょっとイライラしたけど…
なんか途中普通に話せてたな…業務的なことでだけだったけどこんなに話したの久々だ。けどこれもやっぱり自分が助かるために話してるだけなんだろうな)
また利用されてるのになんで……
ウトウトしてきて、意識が薄れていく。こんな状態で考えがまとまるわけがなかった。
なんで俺は……一緒にいるんだ…
記憶も意識も定まらない。
期待なんか…しない
それが最後で、眠りについた。
「ふぁーー」
俺はでっかい欠伸と一緒に、体を伸ばしていた。すると、先に起きていたハルから朝の挨拶を言われた。
「おはようございます」
まだ寝ぼけていた脳が、その一言でビンビンに目を覚ました。
「あ、はい。おはようございます」
異世界に来て、初めて迎える朝で少しばかり戸惑った挨拶になってしまった。
そうだった。異世界だったな
目の前を見ると、すでに火は消えており、代わりに空にぼんやりとしていて、まだ暗めだけど、日が昇っていた。
「いい朝ですね」
「………」
昨日の記憶がまだ頭に残っていた。
なんで俺はこの子と一緒に旅をするのか。
「ではご飯用意しますね」
俺が考えていると、ハルはいつものことのように、自然と料理を始めた。
正直、違和感がすごかった。
ハルはそのまま、手で探るように食料の入った鞄を探し始めた。
目の見えない、自分より年下の女の子のそんな姿は、流石に響いた。
「え!?いやいいですよ!それくらい僕がやりますよ!刃物とか火とか危ないですし!」
あまりにもすぐにするものだから、頭の中の考えは吹き飛んでいった。
「いえ!私はこの通り何もできないのでご飯ぐらいはします!せめてでもお礼です!」
なんか目のことは触れづらいし言い返せない!
なんて言えばいいかわからず、とりあえず、俺は強行突破することにした。
「いいから!僕がやりますから」
「いえ!私が!」
「僕が!」
ワーワーキャーキャー。
気がつくと、俺たちはなんだか軽い言い合いになっていた。
「私料理得意です!」
「俺も得意ですよ」
「そうなんですか?けれど私の方が得意です!」
「張り合わなくていいですから!」
ワーワーキャーキャーと、二人で言い合っていると、ハルのほうから一つの提案が飛んできた。
「わかりました!なら2人でしませんか?」ふんす
「わかりました!そうしましょう」
俺もそれに勢いよくのった。
そして、二人で朝飯を作り始めた。
「これってなんですか?このー」
けど、俺は当然何も知らなかったから、少々足手纏い気味だった。
「それはですねーーー」
それでも、ハルは優しく教えてくれた。
「あれ?これは肉?うまそうですね」
「?えっとですね、」
ハルは手を伸ばし、触って何かを調べた。
すると、ハルは、あははと年相応の笑みを浮かべた
「え?え?なにか違ってました?」
「はい。これ肉じゃなくてたぶんーー」
たぶんの後に続く言葉を聞いた途端、俺は声が変な出かたをした。
えぇ、と言ったつもりだが、たぶんハルには違うように聞こえただろう。
あまりにも、ショックすぎたものだった。
「なんですか今の声」
ハルはその声がツボに入ってしまったらしい。
でも失礼だということで、なんとか笑いを堪えよとしていた。もちろん、笑いは漏れていたが。
その姿を見ていると、嫌な気持ちなんて頭の隅にもでなかった。笑い声の声音も全然嫌な感じじゃなかった。
「う、早く作りましょうよ!」
「すいません。そうですね、うふっ」
「笑わないでくださいよ!」
言葉の意味とは裏腹に、俺は全然怒ってはいなかった。
二人で作った朝食は、今まで食べた朝食の中でも、特に美味しかった。ハルもそんな表情をしていた。
「美味しいですね!」
「はい!」
素直に自然と、かつてどこかにあったような感じがする、言葉だった。
そんな2人を遠くから観察するように見ていた。
名前はゼノス。
今から、2人を殺しにくる。
「そろそろか」
風を纏い、雷を操る。
一瞬にして、まだ暗かった青空は消えていった。




