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リミット  作者: 過酸化水素水
2章 予知
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(3)

 

   5


 修司の家は、学校から歩いて凡そ三十分程度の距離にある、洋風建築の一軒家である。琢真の家からは歩いて二・三分位しか離れていない、所謂ご近所さんだった。

 修司一家は、二人が四歳の頃にこちらに引っ越してきており、付き合いはその頃にまで遡る事が出来る。ただ、越してきたばかりで修司の両親はこの土地についてよく分かっていなかったのだろう。この辺りの子供が通っている幼稚園とは違う幼稚園に修司を入園させたため、二人の仲が本格的に深まったのは小学校に入ってからだった。

 ちなみに、愛との本格的な付き合いも小学校からだ。初めて出会ったのは入学より少し前の事だが。三人の初めての邂逅は、今でも忘れる事の出来ない強烈な思い出としてそれぞれの脳に刻まれている。

 それはともかく三人の付き合いはそれ位長かった。

 当然。その家族のことも必然的に良く知っており、浅からぬ付き合いもある。

 という訳で、学校帰りにそのまま向かっても暖かく出迎えてくれた修司の母親に、琢真はいつものように談笑交じりで挨拶すると、修司の部屋にそそくさと向かった。


 琢真はいつもの定位置である、部屋の中央にあるテーブルの前に座る。修司は机の椅子に腰を落として、ゲームを起動していた。

 ゲームが立ち上がるまでに所在無げに部屋を見渡すが、相変わらず殺風景な部屋だった。ベッド、机、テーブル、本棚……これらだけしか置かれていない。ポスターやタペストリー等はもちろんのこと、CDラックやコンポの類すら全く見当たらなかった。

 あんまりゲーム機を顔に近づけても目に悪いので、琢真は適度に距離を置く。

 ゲームが立ち上がったので早速ゲームを始めることにした。腕ならしに簡単のミッションから進めて行く。徐々に指が暖まり、難しいミッションをいくつかこなしている内に琢真はふと思い出したことがあり、修司に意見を聞こうと口を開く。


「修司お前さあ……。占いって信じる?」

 唐突にゲームとは関係ないことを話しかけてきたのを怪訝に思ったのか、修司は目を落としていたゲーム機から僅かに目を上げる。

「俺はそんな非科学的なものは信じない」

 そう言うとは思っていた。修司は科学主義の傾向があり、科学で証明がつかないこと一切合財に対して、いつも否定的な意見を述べているからだ。

「何だ突然?」

 修司は何を今更と言う面持ちで、琢真の真意を確認しているようだった。しかし、何かに気づいたようにゲーム画面に目を落とすと、呆れたような表情が代わりに浮かんだ。


「このゲームの影響か……」

 恐らく修司は、今二人が話しながらも進めているゲーム内で、特定のアイテムを渡す事で『占い』をしてくれるゲームキャラのことを指して言っているのだろう。確かに占いのことを思い出した切欠はそのキャラからだったが、今のはそのキャラから連想した、この前の占い師のことが脳裏に浮かんだ事による発言だった。

「いや、違くて……何つったらいいんだろうか……」

 琢真は何と切り出そうか言葉に迷う。

「……占い……予言……予知、そうだ! 予知って実際に可能だと思うか?」

「単なる妄想に過ぎん」

 何とか取っ掛かりを見つけ尋ねるが、修司は即断で否定する。

「でもさ……あ、いや、なんでもない」

 何と続けたかったのか、どういう答えが欲しかったのか、琢真は自分でも分からなかった。

 途中で言い止めたのが気になったのか、修司が何か口を開こうとするが――――


「くっらいわね~~。男二人で部屋に閉じこもって携帯ゲーム!?」

 突然の訪問者が豪快にドアを開け放ち、二人の様子を見て能天気に明るい声で罵倒してきたため、口を噤んだ。

「勝手に入ってくるな」

 修司の咎めにお座なりに返答しながら、愛は琢真の持っているゲーム機を強引に取り上げ画面を覗き込む。

「小母さんに了解は取ったわよ。あ、これアンタ達まだやってたんだ!?」

 二人をこのゲームに嵌めた張本人が、驚きの声を上げる。

 その言葉の裏には「もう旬でもないゲームやってるなんて」と、どこか馬鹿にした調子が含まれている。

「止めたお前には関係ないだろう」

 修司がペースを乱されぬように、冷静に反論する。

「まあ、別にいいけどさ」

 本当にどうでも良さそうな様子で、愛は首を竦める。

 愛は暇を持て余している時などに、こうして修司の部屋に訪れてくる事があった。ただしそれは、そこに琢真が居る事を確認してからである。琢真と言う緩衝材がないと、二人が喧嘩せずいられない事は自分でも分かっているのだろう。

 実は修司の家に着く少し前に、琢真の携帯に所在を確認してくるメールが届いていたので、愛の到来は予測済みでもあった。なんでも、友人達との約束がおじゃんになったらしい。

 そんなことより、と愛は修司のベットに腰掛けながら、喜色満面の様子で琢真に視線を向けた。


「今、なんか面白そうな話題が聞こえてきたんだけど、何話してたの?」

「何でもない。邪魔だから帰れ」

 愛は憮然とした表情で言い切る修司をムッとした表情で睨みつけた後、再び琢真に視線を向け問いかける。

「なんか、予知とか聞こえたんだけど」

 どうやらさっきの発言を聞いていたらしい。話を逸らそうかとも思ったが、こういう話題の場合は修司より愛のほうが向いているかもしれないと思い直し、今度は愛に向けて同じ質問を投げかけてみた。


「もちろん可能よ!」

 話を聞くなり、愛は燃えるような瞳で拳を握り締め断定する。修司とはまるっきり逆の意見だった。

 修司があざ笑うような表情を浮かべる。

「下らない……。その根拠は何だ?」

「雑誌とかにも載ってるし、テレビとかでも時々やってるじゃない」

 この時点で修司は、あざ笑う様な、から、はっきりとした嘲笑いに変える。

「はっ、マスメディアに踊らされる馬鹿な人間など実際はいないと思っていたが、こんな近くにいたとはな! 呆れて物も言えん」

「何だと~~。中には実体験の話として挙げられてる話もあるのよ!?」

 徐々に二人がヒートアップしてくる。

「ますます下らない! そんなものはマスコミが面白おかしくでっち上げた作り話に過ぎん!」

「何でアンタにそんなことが分かるのよ!」

「百歩譲ってその体験話とやらが本当だったとしよう。だがそんなのはその人物の錯覚に過ぎん」

「はぁ!? 何でそう断定できるのよ!」

 既にお互い立ち上がり、相手に掴みかかろうとするような姿勢で言い争っている。

 琢真はテニスの試合場での観客のように、首を左右に振りながら二人の応酬を見ながら、止めるタイミングを計る。いつもの事ではあるが、本当に相性が悪い二人だった。

 その後、数十分に渡り二人の言い争いは続けられた。途中から心配している自分がアホらしくなり、琢真は再び一人でゲームに勤しんでいた。


「ちっ、埒が明かないわね……ちょっと琢真! アンタはどう思う? どっちの味方!? まさか、このロマンを全く理解しようともしない堅物の味方ってことはないわよね?」

「ふん、他人に意見を求めるとは……まあ良い。琢真、お前からもこの女に言ってやってくれ。当然、お前は浪漫と愚行の違いが分かる男のはずだと俺は思っているぞ?」

 あと少しでボスが倒せるという時に突然水を振られ、琢真は慌ててゲームを仕舞い二人に向き直る。

 二人の言葉尻に、ありありとこちらを威圧してくる気配を感じた。

「えーーと……」

「アンタはアタシと同意見よね?」

「お前はそんな低脳女とは違うだろう?」

 こちらにズイっと顔を近づけて、二人は琢真を自分の仲間に引き入れようとする。

 琢真はどう言ったものかと言葉に詰まる。どっちを擁護しても角が立つからだ。愛はもちろんの事だが、修司も拗ねさせたら色々と面倒なのだ。


「そういえば、莉理との仲は最近どう? いまいち進展しないなら、アタシが仲を取り持ってあげてもいいんだけどな?」

 何やら裏工作が始まったようだ。全くどうしようもない……が。琢真の体が無意識に愛の方に向く。それを見た愛が、修司に向かってニヤリとした笑いを浮かべる。

「お前!? くっ姑息な真似を……そういえば琢真、バンジーをするのが金子という案。考えてもいいぞ」

(金子……お前の犠牲は決して無駄にはしない)

 無意識(・・・・・)に琢真の体が修司の方に向く。それを見て、修司が愛に向け冷笑する。

「アンタ……汚いわよ!? そんな汚い手で、琢真を取り込もうって言うの!?」

「その言葉、そのままそっくりお返しする」

 ぐぬぬっ、というような唸り声を上げながら、睨み殺そうかという程の視線を交わし始めた二人を見て、琢真は険悪さが危険なレベルに達したのを確信する。


 とりあえず何でもいいから話を逸らそうと、琢真は内容を考える前に声を上げた。

「あ……あ……そ、そうだ! この前の占い師の婆さんはどう思う!!? 本物だと思うか!?」

 何も考えずに口から出た言葉だった。しかし、二人の意識を引く程度の効力はあったようだ。揃って怪訝そうな顔を向けてくる。

「下らない。占い自体がナンセンスなんだ。本物も偽者もない。強いて言うなれば、占い師などを職業にする輩は等しく偽者だ」

「だ、か、ら! 何でアンタが偉そうに断定してるのよ! ……だけどまあ、あの占い師についてだけは同感よ。アイツは偽者」

 一方は凝りに固まった意見で、一方は明らかに私情が込められている。

 とはいえ特に否定する材料も無かったので、どちらかの意見にという訳ではないが、とりあえず琢真は肯定した。

「そうだなーー。俺もそう思うわーー」

 少し棒読みになってしまった。ただ二人は気が削がれたのか、睨みあっていた顔をフンッと逸らすと、そのままゲームを再開したり漫画を読み漁ったりし始めた。

 どうやら何とかこの場は収まったらしい。全く面倒な奴らだった。

 琢真はホッとしながら、自分もゲームを再開しようと画面を見ると、ボスに惨殺された操作キャラの死体が中央に横たわっていた。


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