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リミット  作者: 過酸化水素水
2章 予知
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(1)

 

   1


 『火曜日』


「琢真……琢真」

「…………」

「琢真ったら! おいっ琢真!!」

「…………」

「こらあああ!! 琢真ああああああああっ!!」

「どわあっ!」

 驚きで椅子から転げ落ちたままの姿勢で、琢真は声の主を見上げる。声の主は何やらお冠の様で、腰に手を当て覗き込むような体勢で不機嫌そうに睨んできた。


「あ、愛か……驚かせるなよ」

「ったく……はぁ」

 愛は溜息を吐くと、表情を和らげ姿勢を戻す代わりに、呆れたような視線を琢真に向ける。

「どしたの? 授業中ずっとボーとしてたでしょ、何かあったの?」

「ん? あ、ああ。いや何でもねーよ」

 珍しく、本当に珍しい事に、愛の声には琢真を心配するような響きがあった。

 明日は雪が降るかもしれない。

「何よ……あ、まさか莉理と何かあったの!?」

「ばっ、馬鹿! 違げーーし、声がでかいよっ!」

 突然とんでもない事を叫ぶ愛の声を、覆い隠すように声を被せる。周囲のクラスメイトが、一体何事かと二人を伺っていた。

 幸い莉理は席を外していたようで、最悪の事態は免れることが出来た。

「なんだ……莉理と何かあったんじゃないんだ、つまんない」

「あ、当たり前だろ」

 つまんないとは何だ、という気持ちを込めながら言い返す。が、昨日一緒に帰った時のことが脳裏に浮かび、琢真はついドモってしまった。

「……ほんとに莉理と何も無かった?」

 その様子に何か感じるところがあったのか、愛の瞳は疑いの色を強くする。付き合いが長いだけにちょっとした動揺を見抜いてくる……やっかいこの上なかった。

「だから違うって!」

「まあいいわ。そうじゃないなら何があったのよ」

 愛は訝しげな様子で尋ねる。

「いや。別に……」

 そう否定しながらも、琢真は昨日の事を思い出していた――――



   2


「は? 命を落とすって……死ぬってことか? 誰が?」

「…………」

「先程の娘って……藍田さんのことか!?」

 『先程の娘』が莉理のことを指して言っているというのは雰囲気から分かってはいたが、どうにも彼女と『死』が繋がらず琢真は確認してしまう。

(いきなり現れて何とんでもないことを言い出すんだ、この婆さん!?)

 不謹慎にも程があると咎めようとした直後に、老婆は重そうな口を開く。

「お主と一緒におった娘じゃ。もうそれほど長くない……」

「死ぬって……。何でそんな事がアンタに分かるんだよ!? 不謹慎だぞいい大人が!」

 冗談でも口にして良いことではない。ましてや、事もあろうに莉理のことだ。琢真は余計に怒りがつのった。

「ふんっ。別に信じてもらおうとは思わん。ただ、教えてやっただけじゃ」

 老婆は顔を僅かに顰めながら、吐き捨てるように言う。

 その時、琢真の脳裏に閃くものがあった。


(この婆さん……昨日の『占い師』か!?)

 その事にようやく気づき、改めて顔を見直すが……恐らく間違いない。

「まあ、ワシぁ信じぬでも良いがの……」

 老婆はそう言うや否や、琢真に背を向け歩き出す。

「お、おいっ」

 静止の声が思わず口から出るが、琢真に言いたい事がある訳ではなかった。

 そのまま数歩進み、老婆は一度だけ足を止める。


「…………早くて今週。遅くとも来週中じゃ」

 そう一言だけ発すると、以後は振り向きもせずそのまま歩き去った。

「……何なんだよ」

 全く意味が分からなかったし、発言を信じる気もなかった。でも何故か琢真の耳に残った。



『先程の娘は…………近日中に命を落とすことになる』


   3


「はぁ、そんな顔して何もなかったなんて信じられないわよ。ほら、アタシに言ってみなさい。何かあるでしょ? ほら、ほら」

 自分の様子を心配しているというより、愛は何か面白いことはないかと暇潰しの材料を求めているだけだったという事を、琢真はこの時点で把握する。

 このまま無視してても煩いので、状況は伏せたまま昨日『占い師』と出会ったということだけ教えてやった。

 よっぽどこの前の出来事が腹に据えているのだろう。『占い師』と言う単語を聞いただけで、急速に表情が曇る……というか雷雲だった。

「アタシの前で、あのクソ婆の話題を出すなって言ったでしょっ!!」

 自分で何があったか聞き出そうとしたくせに、あんまりな言い分だった。

「俺も話題に出したくなかったよ!」

 昨日の発言から、あの占い師に不信感を持っているのは琢真も同じである。

(よりにもよって、藍田さんが死ぬなんて、そんな馬鹿なことを言いやがって……)


「ふんっ、気分が悪くなった」

「……ああ、俺もだよ」

「アンタの話で気分を害したんだから、昼食はアンタの驕りよ」

「ああ……って、何でだよ!?」

 琢真は思わず賛同してしまい、慌てて拒否するが認めてもらえず、結局奢らされる羽目になった。

 ただ、そんなやりとりをしながら騒いでいる内に、昨日の事は自然と記憶の片隅に追いやられていったのだった。

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