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リミット  作者: 過酸化水素水
1章 占い師
6/61

(5)

 

   5


「ありがとうございました~~」

 会計を終えて、客が店内から消える。この時間帯は会社帰りの社会人が多い。ただ、今ので丁度店内の客が途絶えていた。

 それを悟って、琢真は隣のバイトに話しかける。


「そう言えば、前に止まってた自転車。あれ、木村さんのですか?」

「おっ! 良くぞ聞いてくれました! ずっと欲しかったんだけどね。ようやく資金が貯まって、この前ようやく買えたんだよ~~」

 木村と呼ばれた男のバイトは、嬉しそうに話す。木村はこのバイト先において、琢真よりも数歳年上の先輩であった。

 琢真が自転車のことを話題にしたのは、店の前に停められていたのが前に乗っていたママチャリではなく、高そうなクロスバイクになっていたからだった。


「へ~~。あれ高かったんじゃないすか?」

「そうなのよ……だから今月は金欠でさぁ。店長に頼んでバイトのシフト増やしちゃったよ」

 泣きそうな顔で木村が言う。

「は~~大変っすね……」

 ただ、確かにあのバイクは格好良かった。

 いつか一度乗せてもらおう、などと琢真が考えていると――――

「それより、芳垣ちゃん。あの話考えてくれた?」

 木村が唐突に話題を代える。

 ちなみに、あの話とは合同デートのお誘いのことだ。

 木村はバイトを始めたばかりの頃は色々教えてしてくれた人でもあり、気持ちの良い人なのだが、女好きで合同デートやコンパの人数が足りないと、やたらと琢真を誘ってくるのが玉に瑕でもあった。

「いや、無理っすよ。俺その人らの事知らないし……」

 客観的に判断して、琢真は自分の事を人見知りではない方だとは思っている。だが、大学生で至極真っ当な嗜好の木村が誘う相手は必然的に大学生だったので、気後れするのも事実だった。

「大丈夫だって。ちゃんとフォローするから、ね? 頼むよ」

 両手を合わせ、こちらを必死に拝んでくる。

 お世話になった人でもあるから、助けるのはやぶさかではない。ただ、以前一度だけ付き合って散々な目に合った事があるので、琢真はこの系統のお願いだけは何としても断るつもりだった。

「すんません。やっぱり無理っす」

「あれだよ? 以前のようなことを心配してるんだったら大丈夫だよ? 今回の子は間違いなく普通(・・・・)の可愛い子だから」

「いやーーー……」

「頼むよ~~。芳垣ちゃんも彼女いないんでしょ?」

「ええ、彼女はいませんが……」

 その言葉に何やら感じるところがあったのか、木村は訝しげに琢真を見つめた後、にやりとした表情を浮かべる。

「な、何すか?」

「芳垣ちゃん……。もしかして好きな娘いるの?」

 琢真の脳裏に莉理の笑顔が浮かぶ。

「ま、まさか。そんなの居ませんよ!」

 慌てて想像を振り切り否定する。つい力が入り、声が大きくなってしまった。

「い、いやそんなのって……居ないほうがおかしいだろ? ほら、お兄さんに教えてみ? どんな娘? どんな娘?」

 力一杯の否定に驚いた表情を浮かべるも、木村は一段と増したにやにや笑いを顔に貼り付ける。琢真が何度否定しようと木村は信じず、その追求は客が訪れるまで執拗に続けられたのだった。


 やがて、琢真のバイトあがりの時間になった。

「じゃ、お先失礼します」

「お疲れ様ーー。……あ、芳垣ちゃん」

「いませんよ!!」

 くどい、と言わんばかりに先手を打ったが、その事ではなかったらしい。

「違う違う、そうじゃなくてこの紙を表に貼っといてくれない?」

 裏に両面テープを貼った紙を手渡してくる。

「え? 痴漢撲滅……? 何すかこれ」

「んーーー、俺も良くわかんないんだけど、店長に頼まれてたの忘れててさ」


 内容を簡単に要約すると、最近この界隈の住宅街で痴漢や下着泥棒の被害が多発しているから気をつけましょう、というような内容だった。有志による自警団の見回りのようなことも行われるそうだ。

「性質の悪い奴もいるもんすね」

 琢真は思わず顔を顰めてしまう。このような身勝手な犯行は、生理的に受け付けなかった。

「だなーー。下着は女性が身に着けているからこそ、意味があるのにな」

 琢真の言葉にうんうんと頷きながら、木村は賛同の意を示す。だが、その意見に対しては賛同しかねて、琢真は適当に言葉を濁した。

「あーー。ドアの横の壁にでも貼っとけばいいんですか?」

「うーーん、特に指示されてないから、それでいいんじゃない?」

 相変わらず適当だった。

「じゃあ、そこに貼っときますね」

 張り紙を持って外に出ようとすると、背後から声が掛けられる。

「お願いね。じゃ、お疲れーー。話はまた今度聞くからね」

(忘れてなかったのか……)

 とりあえず、最後の一言は聞かなかったことにする。

「……失礼します」

 憮然とした挨拶を終え、店の前に出てドアの横に紙を貼りつける。店の前に止めておいた自転車に跨り、一度木村の自転車を羨ましそうに眺めた後、琢真は家路についた。



   6


 『月曜日』


「芳垣君、さよなら」

 鈴の音が響くような優しい声に、琢真は授業で疲れきっていた精神が癒されていくのを感じた。

 莉理は優しげに微笑むと、教室をゆっくりと出て行った。

「あ、ああ……。藍田さんまた明日……」

 と返すが、既に彼女の姿は無かった。


 彼女に別れの挨拶を言ってもらった。その事実だけで、日々の嫌な事柄によって溜まった鬱憤が晴れていく。

 特に、愛のご機嫌直しの為に購入したイチゴのタルトのダースには、懐に壊滅的打撃を与えられていたので今までずっと憂鬱極まりなかったが、それすら取るに足らないことだと思い始めていた。

 更に言うと、そこまでして身を削ったのにもかかわらず、殴られ正座させられ罵倒され『猿』という音を(単語ではない)二度と使わないように約束させられるまでしないと許してもらえなかった事などは、もうどうでもいいことだ。

 ただ、そんな夢心地のままでいられたのは――――、

「おいっ芳垣! お前、進路希望調査の紙まだ出してないだろ!?」

 むさいオッサン担任池山によって、強引に進路指導室に連行されるまでの話だった。


 夢から強制的に現実に戻され、再び夢の世界に逃げ込もうとするも、再度引っ張り込まれるようにして無理やり現実をを突きつけられると、もう夢に戻る力すら涌かなかった。何とか解放され携帯の時計で確認すると、連れ込まれてから既に三時間が経過していた。

 琢真はフラフラの体で教室に戻り、鞄を持つと校門に向かう。校内にはもう部活動生の姿しか見つけられなかった。

 この時間帯はいつも利用している東門が既に閉められているので、正面門から下校する事になる。

 どこからか聞こえてくるブラスバンド部の演奏の音を聞きながら、精神的に疲れきった体に鞭打ってようやく正門前にたどり着く。

 池山に散々進路の事でいびられた所為か、一歩進むたびに人生に絶望したくなる。しかし、それらと必死に戦いながら歩みを進める。

 そんな琢真を天におわす神々が哀れんだのか、天の使者を琢真の元に遣わせてくれた。


「あれ? 芳垣君?」

 数時間前に別れたばかりの天使は、正面玄関から現れたらしい。小さな顔に驚きの表情を貼り付け、どうしたの? と声をかけて下さった。

「あ、藍田さん!! いや、その……進路希望調査の事で、池山に……もとい池山先生に呼び出されてて」

「そうなんだ。それは大変だったね」

「あ、ああ。その……藍田さんも今帰り?」

 鞄を持って校門を出ようとしている時点で、そんな事は当たり前だった。瞬時につまらない発言をしちまったと後悔するが、莉理は微笑んで肯定してくれた。

「帰りが一緒になるなんて、珍しいね」

「そ、そうだね。俺は帰宅部で、藍田さんは部活入ってるしね……」

 莉理は文芸部に所属している。本がとても好きなようで、休み時間に友達と話している時を除けばいつも何かの本を読んでいた。

 窓際の彼女の席で、風に髪を揺らしながら静かに読書している姿はまさに、深層の令嬢といった様相だった。その姿を思い出し琢真は少しトリップしてたが、彼女の声で瞬時に我に返る。

「じゃあ、帰ろっか?」



   7


 喉が水分を要求してくる。

 確かに今日はいつもより暑かった。ただ、もちろん原因はそのためではない。

 「帰ろっか?」と言葉には、『一緒に』という意味合いが含まれていることを理解するまでには数秒の時間を費やすことになり、了承の返事を返すまでは更に数秒の時間を費やしてしまった。

 琢真は予想外の思わぬ幸福に歓喜を通り越して、今は恐怖に似た感情を抱いていた。

(な、何話せばいいんだ!?)

 莉理に対してだけは、普段愛を始めとするクラスの女子達に振舞っているのと同じようには、どうしても出来なかった。

 必死に何か言わなきゃと、琢真が脳をフル活性させようやく出てきた言葉は――――

「きょ、今日はいい天気だね」

 という当たり障りの無い言葉だった。

 ただし、それは若い男女の会話には稚拙すぎ、確かにいい天気だが今はもう夕方であった。


(何を言っているんだ、俺はあああ!?)

 琢真は自分を、なんか金属バットのようなもので撲殺したくなる。

「そうだね。特に最近暑いから、直ぐに汗をかいちゃって嫌だよね」

 莉理はそう言って困ったように微笑みながら、半袖の上着の襟元をちょこんと掴んでパタパタと仰ぐ素振りをする。

 自分の馬鹿発言を全く意に介さず話を続けてくれる彼女に、琢真は更に思慕の念が涌きあふれた。


「そ、そういえば、藍田さんは進路はもう決めてるの?」

 彼女を見つめていると、何故か先ほどの面談という名の監禁を思い出し、ふと口から出てきた。琢真の周囲の友人達は皆大学に進学すると言っていた。彼女はどうなのだろうか?

「え? 進路? う、うん……まだ二年生だし、ハッキリって訳じゃないけど……漠然となら決めてるよ」

「そっかあぁ……。俺なんか全然思いつかなかったから『大金持ち』って調査表に書いて出してたら、お前は小学生か! って三時間も監禁されてたよ……」

 「それは怒られるよ」と、莉理はクスクス笑う。

「でも……。芳垣君ならきっとそうなれるよ。そんな気がする」

 突然の賛辞に、琢真は嬉しさよりも慌てふためく。

「い、いやいや。俺なんて勉強が出来るわけでもないし、運動神経はまあ良い方だと思うけど部活やってる奴らには負けるし、全然だよ」

「そうかな? でもきっと芳垣君は、いつか大物になる気がするよ」

 思っても見なかった持ち上げに嬉しさよりも恥ずかしくなり、琢真は慌てて彼女に水を向け返す。

「あ、藍田さんの決めてる進路って、どんなの? やっぱり国立大とか?」

「う……そう改まって聞かれると恥ずかしいけど……」

 莉理は照れくさそうに微笑んで、綺麗な人差し指を口元に当てながら言った。

「み、皆には内緒だよ?」


 俄然琢真の心が沸き立つ。皆には内緒ということは、つまり二人だけの秘密ということだ。慌しさを増した動悸の音を感じながらも、一言も聞き逃さないように全神経を耳に集中する。

「その……進学するかどうか自体まだはっきりとは決めてないの。私はね、将来直接人の役に立てる仕事がしたいなぁって思ってて……ってやっぱり何か恥ずかしいね」

 頬を上気させ言葉を濁すように笑うが、琢真は全然恥ずかしい事だとは思わなかった。

「恥ずかしがる事なんて無いさ! 立派だよ!!」

「あ……その、ありがとう。で、でも! その、いくつか候補はあるんだけど、まだどの道に進むかは迷ってるし……私なんて、全然まだまだだよ」

「そりゃあ進路なんだから迷って当然だよ。でも、自分の方向性が漠然とでも見えているのと、そうでないのとじゃ色々全然違うと思う!」

 身を乗り出し力説する琢真に戸惑っているような気配を感じ、我に返り謝罪する。

「あ、その、ごめん。 なんか興奮しちゃって……」

「え、ううん、その、真剣に聞いてくれて嬉しかったから、謝らないで」

「う、うん。ごめん」

 謝罪すると、急に恥ずかしさがこみ上げてきて黙ってしまう。莉理も同様のようで、恥ずかしそうに俯いていた。

「だ、だから、どの進路に決めてもいいように、今は勉強を頑張ろうって思ってるの。きっとそれは無駄にはならないと思うから」

 莉理の定期試験の成績を思い出す。彼女は毎回確実に上位に名を連ねていた。

「そうかぁ……。やっぱり凄いね……」

 ただ漠然と進学したいという理由で勉強するのではなく、将来を見据えて勉強しているというのは、凄く立派な事だと琢真は思った。口だけではなく彼女はそれを実践しているのだ。

 それに引き換え自分はどうだろうか? と考えると、あまりに惨めで情けなくなってくる。

 それから暫く互いに無言で歩き続ける。突然、莉理が何かを思い出したかのように微笑みながら言った。


「何か……不思議だね」

「え? 何が?」

 何のことか分からず、琢真は間抜けな声を上げてしまう。

「その、今まで芳垣君とこんな話をした事は無かったのに……。まだ、誰にもしたことがない話までしちゃうなんて」

「あっ、そ、そうだね」

「こんなに二人だけで話をしたのも、久しぶりだよね」

「う、うん」

 琢真の脳内ではいつも会話していたが、直接こんなに話をしたのはいつ以来だろうか。

「小学校から、ずっと同じ学校なのにね……」

 その言葉を発した表情が、寂しそうな色を帯びているように感じられたのは、琢真の願望の色眼鏡の所為だろうか。

「その……でも、同じクラスになったのは初めてだし」

「ふふっ。酷いなぁ。小学校低学年の頃は、同じクラスだったよ」

「うえっ!? あ……そ、そういえば……そうだったね。その、ごめん……」

 琢真は記憶のページを必死にめくる。そういえばそうだった気がする。

 地面に着くほど頭を下げて、必死に詫びる。

「ふふふっ、いいよ許してあげる」

 そう言ってにっこり笑う莉理の笑顔に、琢真は全身に衝撃が走ったように緊張したまま、暫し見惚れてしまった。


 それから駅前に出るまで、今まで話をしてこなかった時間を取り戻すかのように話が弾んだ。

 例えば、家の事。例えば、部活での事。莉理は文芸部で詩を書いたりしているらしい。見てみたかったが、それは顔を真っ赤にして断られてしまった。

 いつもは、家から歩いて三十分程度もかかる通学時間が煩わしくて仕方がなかった。しかし、今だけは例え一時間以上掛かったとしても、決して琢真は文句は言わないだろう。


 莉理の家は、学校から三十五分程度の距離にあり、琢真の家からは少し離れている。学校から真っ直ぐ家に帰るのであれば駅前は通らないのだが、駅前にあるお菓子屋に用事があるとのことで、恐縮する莉理を説き伏せ琢真は付き添っていた。

 莉理が出てくるのを、店の前で待つ事数分。申し訳なさそうに出てきた彼女と、再び帰路に着こうとした矢先。どこかで見た老婆がこちらに向かって歩いてきた。

(? どっかで見たような……。どこで見たんだっけな?)

 老婆は始め、こちらには全く意識を向けていない風だったが、どこで見たのか思い出そうとジロジロ見ていた琢真の視線に気づいたのか、何じゃ? とでも言うようにジロリを睨んでくる。

 しかし、隣を歩いている莉理に視線を向けたかと思うと、突然立ち止まった。  

 そして驚愕の表情を浮かべた。

「え? あ、あの……?」

 莉理も老婆の視線に気づいたのか、困惑しているような声を上げる。

「…………」

 ただ老婆は特に何を言うわけでもなく、視線を戻すとそのままいずこかへ歩き去っていった。

「な、なんだったのかな?」

「さあ……。何か忘れ物にでも気づいたんじゃない?」

「ふふふっ、私の顔を見て? 何か思い出させるような顔してるかなあ……」

「あ、いや、その……」

 慌てて弁解しようと焦っている琢真の様子を見て、莉理は朗らかに笑う。どうやらからかわれたと気づいたが、腹は立たない。どころか彼女の新たな一面を見られた事が嬉しくなり、思わず琢真も笑ってしまう。

 彼女は「笑うなんてひどいなぁ」と怒ってみせるも、声は笑っている。そんなやり取りを行いながら、二人は再び歩き始めた。

 その頃には、流石の琢真もある衝撃的事実に気づいていた。

(俺は今、青春している!!)

 ということに。



   8


 永遠に続く事柄など無い様に、全ての現象はいつか終わりを迎える事になる。永遠に続いて欲しい下校時間もまた、然りだった。

 そう。琢真達は、莉理の家への道と、琢真の家への道の分岐点に差し掛かっていた。


「じゃあ、今日は付き合ってくれて、ありがとう」

「い、いや、こちらこそありがとう」

 琢真は咄嗟にお礼を言ってしまう。それくらい充実した下校時間だったからだ。

「え? どうして芳垣君がお礼を言うの?」

「あ、いや……その、なんというか」

 本心は当然言えないので、琢真は口篭ってしまう。

 そんな心境を知ってか知らずか、莉理は楽しそうに微笑んだ。

「ふふっ。じゃあ、帰るね……。また明日」

「うん、また明日学校で……」

 穏やかに笑い、バイバイと小さく手を振って、彼女は帰っていった。


 その後姿が小さくなるまで見送っているうちに、何とも言えない寂しさが琢真を包み込んできた。

 だがそれも僅かな間のことで、直ぐに嬉しさの衝動が湧き上がってくる。

(藍田さんと、楽しく下校してしまった!!)

 思わずスキップしてしまう程に、琢真の体も心も弾んでいた。ルンルンと、恐らくにやけているだろう笑いを浮かべながら自分の家方向に歩き出そうとした。

 しかし、足が止まる。


「おい、小僧」


 と、背後から誰かに呼び止められたからだ。

 振り返ると、さっき駅で見かけた老婆が、琢真を険しい顔で見つめていた。

「何だ婆さん、何か用か?」

 駅から付いてきてたのかと思うと気味が悪かったが、表面上は平静を装って尋ねる。

「…………」

 呼び止めたものの、何か言いたいことがあるが言ってしまっていいものかと逡巡しているような様子を老婆は見せる。

(でも、やっぱりどっかで見た覚えがあるんだよな……どこだっけ?)

 お互い黙り込む。

 だが、思い出せないなら大した事じゃないと直ぐに思い直し、

「用が無いなら、俺は行くぞ?」

 琢真は再び背を向け歩き出そうとする。


「……待て」

 老婆は何かを観念したように深い溜息を一息吐くと、再び険しい表情に戻し話始める。

「先ほど、お主と一緒にいた娘は……」

 そこで一度話を切る。

 娘というのが莉理を指しているのが分かり、琢真は老婆に警戒の目を向ける。少しの間の後、老婆はしゃがれた声で告げた。



「先程の娘は…………近日中に命を落とすことになる」



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