間話 公園
少女は家路を急いでいた。
帰路途中にある公園にたどり着いた頃には、周囲は夕暮れの橙から夜の紺へと移ろっている。辺りに設置されている街灯も、ぽつぽつと灯り始めていた。
いつもなら下校中の学生や帰宅中の会社員などの姿もあるのだが、今日に限っては人っ子一人見受けられない。その事が微妙に焦燥感を煽るのか、少女は自然と足早になってしまう。
公園を横断し出口付近に差し掛かったところで、少女は一息入れた。公園の中央に設置されている時計を見て、どうやら門限に間に合いそうな事が分かったからではなく、単に息が上がってしまったからだ。
一旦足を止めて、乱れた息を整える。普段殆ど運動をしないため直ぐに体力が尽きる自分の体を、少女は恨めしそうに見つめた。
誰もいない公園で、少女の呼吸音だけが微かな音を発していた。それを何となく耳に入れながら、少女は数度の深呼吸をしてようやく息を整えた。
再び歩き出そうとしたが、直ぐに立ち止まる。何か物音が聞こえてきた気がしたのだ。
ゆっくりと左右を見回す。特に変わった様子はない。
気のせいだったと、少女は気を取り直して再び歩き始めた。
「藍田さん」
五・六歩程度進んだ時、唐突に背後から声を掛けられた。
小さな声だったが、静寂に包まれた公園に音量を阻害するものはない。少女の耳に届くには十分だった。
驚きから足は止まってしまうも、何とか悲鳴を抑える事には成功した。少女は動悸が乱れた胸そのままに、恐々と振り返ろうとするが――――
少女に出来たのは、勢いよく迫ってくる金属の煌めきを、視界の端に映す事だけだった…………。