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リミット  作者: 過酸化水素水
7章 守護者
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(2)

 

   4


 突然携帯が振動する。

 恐らく今日は電話は掛かりっぱなしな一日になることが予想されたので、ポケットには仕舞わず手に持っておくようにしていた。

 その為、修司は直ぐに電話に出る事が出来た。

「どうした?」

『―――――』

「ふむ……分かった、じゃあそのまま尾行を頼む」

 そう告げて修司は通話を切った。

 今の電話は、ある人物の尾行をお願いしている金子からだった。

 尾行対象に動きがあったと言うことで、それは少し修司の予想外の事だったのだが、まあ誤差の範囲だった。気にすることもないと考えていた矢先、再び携帯が振動する。


「何だ?」

『修司大変だ!! 今愛から連絡があって、藍田さんがルートから逸れて駅南のCDショップに向かってしまったらしい』

「何だと!? どういう事だ!?」

 電話は琢真からだった。その内容に修司は思わず語気が荒くなる。

 動揺収まらないという声で、琢真が事情を説明する。

 何故こんな大事な時に高橋なんて余計なファクターの介在を許したのか! 

 と、修司は愛に電話して小一時間問い詰めたくなったが、それは全て終わってからにしようと思い直す。


「状況は分かった。お前は直ぐに向かってくれ。あと着いたらもう一度連絡を頼む。ああ、それとあまり近づきすぎないようにな」

 そう琢真に伝える。

 莉理の行動は、完全に修司の想定外の出来事だった。非常に拙かった。

 実際の作戦中にはある程度の突発的要因が入り込む事は、今までの経験から修司も分かっていた事だった。しかし、これに関しては計画自体が瓦解しかねない問題だった。

 ただまだ方向修正は可能だ。無論、それは莉理の存在を護衛下に置いているという絶対の前提の上の話だが。

 なので琢真との通話が終わるなり、直ぐに修司は渡辺に連絡を取る。

 繋がると何よりも先に、莉理の事を監視できているかを確認した。

『ああ、大丈夫だ。ちゃんと姿を捉えてるよ』

 その一言でホッと安心する。それならば問題がない。

 急な質問に少し戸惑っている渡辺に、「引き続き尾行を頼む」とお願いして連絡を終えた。

 今の情報を琢真に伝えてやろうかとも思ったが、駅南に到着すれば連絡が入る筈なので、後でいいかと考え直していると再び携帯が振動する。

『―――――』

「……何!?」 

 その電話は、修司達にとって吉と出るか凶と出るか、今の状況では分からなくなった報告だった。



   5


「うわっ、何でこんなに人多いの!?」

 駅前に着くなり、愛はその人ごみの多さに驚きの声を上げてしまう。

 金曜日の夕方という開放感に満ち満ちた日であるのは分かるけど、今日の多さは異常だった。

「あ、愛ちゃん聞いてないの?」

「え? 何を?」

「今日の夜から『お祭り』が始まるんだよ? 本番は明日からだけど」 

(お祭り……あ!)

 莉理に教えられて直ぐには何の事か分からなかったが、携帯のカレンダーを見て愛はようやく理解する。

 毎年この時期になると行われている祭りだった。最近は色々あって愛はその事をすっかり忘れてしまっていた。確かに駅周辺を冷静に見回すと、まだ少なかったがポツポツと屋台の姿も見えた。

 それならこの人ごみの多さも頷ける。

 今の時間帯は愛達と同年代の姿が多いようだった。恐らく学校帰りに友人達と寄り道しているのだろう。その事自体は別に良かったが、ただこの事が今日の護衛に影響がないかだけが心配だった。

 琢真達も今日の事は忘れているのではないだろうか。


 そんな人ごみの間を抜けるように、三人は駅を通って南側に移動する。お目当てのCDショップはその直ぐ先にあった。

 駅南は駅北よりも人で溢れていた。出ている屋台の数も北より多い。

「人多いなー」

 那奈美が嫌そうな顔でそんな事を呟いている。

 お前の所為だろ、と愛は言いたくなる。だが、グッとここは我慢する。あれから何とか機嫌を直して貰えたのに、また損ねてしまっても馬鹿らしいからだ。

 そうして、ようやく目的地に着いた。


 店内は祭りの影響か、いつもよりも人が多かったが人ごみと言う程ではない。

 人ごみはあまり得意ではない莉理は、それに少しホッとしている様子だった。

 那奈美は早速お目当ての今日発売というアルバムを探しに行き、莉理もそれに付いて行った。愛はどうするか迷ったが、琢真達に連絡を取りたいと思って同行はせずに、ただ逸れてしまわない様に入り口を出て直ぐの所で、琢真に電話を掛けた。

 ガラス張りの店の外から、莉理達の姿を見ながら琢真が出るのを待つ。

 でもどれ程待っても、琢真は電話に出なかった。

(何やってんのよ!!)

 焦りから徐々に腹が立ってくる。

 日頃は滅多にしないご機嫌取りをしていたり、予想外の展開に動揺していたのが原因なのかもしれない。

 一向に出ない琢真に苛立ちながらも、愛はリダイアルし続けていた時、道路を挟んだ奥の歩道に翔子の姿が見えた。どうやら一人のようで、一体何しているのかと一瞬思ったが、そんな場合ではないと思い直し視界から消した。

 そのまま何度やっても繋がらないので、愛は仕方なく修司にかけようと思い直した時、買い物が終わったのか二人が出てきてしまった。

「お待たせ、じゃ帰ろっか」

「ああ……えーと、そうね……」

 了承しそうになって、それが拙い事に気付く。

 もし琢真達が自分達の姿を確認できていなかったら、このままだと入れ違いになってしまう可能性があったからだ。

「あ、ごめん! ちょっと待って! ちょっと連絡しないといけない……え!?」

 琢真達に連絡を取る時間を貰おうと、二人に断わりながら愛が携帯を見ると、


『充電してください』


 の文字が液晶中央に表示されていた。

(こんな時に!?)

 そう言えば昨日充電するのを忘れていたかもしれない。十数秒後、無常にも電源が落ちてしまった。

(ど、どうしよ!?)

 二人携帯を借りるかどうか迷ったけど、この後何度電話する事になるか分からないと思い、愛は苦渋の選択でコンビニに充電池を飼いに行く事に決めた。

 コンビニがここから直ぐ近くにあるのは、不幸中の幸いだった。

 二人にその事を伝え、絶対に先に帰らないで待っていて、と念を押してから愛はコンビニに向かった。



   6


 非常にしつこい池山を何とか振り切る事に成功し、琢真はようやく駅南に辿り付く事が出来た。

 どれくらいロスしたのかが気になり駅の時計を確認すると、思ったよりも経過していなかった。とはいうものの時間は既に一九時前で、空にあった夕日が隠れて徐々に夜が訪れようとしていた。

 周囲の人の多さに最初は何事かと思ってしまったが、出店されていた屋台群を見て以前見た張り紙を思い出した。

 こんな時に重なるなんて運が悪いと思わずにはいられない。

 この人の多さではかなり近づかないと莉理を護ることはできないだろう。ただあまり近づきすぎても気付かれる恐れがある。

 どうするべきか困った。ただ、何はともあれ先ずは彼女達を発見する事が先だ。その事はそれから考えよう。琢真はそう思い直し、急いでCDショップに向かった。


 CDショップの前で、もう度重なる護衛によって見慣れた莉理の後姿を視認できた時には、ホッと胸を撫で下ろさずにはいられなかった。

 何とか無事に見つけられた事に安心したのもつかの間、琢真の表情は曇った。傍に居る筈の、愛の姿が見えなかったからだ。そんな琢真の動揺を他所に、莉理は駅とは反対方向に歩き出した。

(一体どこに行ってるんだ? 愛は何処へ行った!? それに高橋は?)

 状況が良く分からない。愛の話では高橋もその場にいる筈だった。ところが、今見る限り高橋の姿もどこにもなかった。

 とりあえずどういう状況を確認するため、携帯を取り出す。

 すると十数件の電話が掛かって来ていた事に気付いた。全て愛からだった。

 恐らく池山に追われている時にかかってきていたのだろう。全く気付かなかった。

 一番最新のものを選択しリダイアルする。だが、愛には繋がらなかった。すぐに留守電になるので、電源が入っていないのだろう。

 仕方ないので莉理後をつけながら、今の状況を修司に報告する事にした。


『なるほど……分かった。お前はそのまま尾行しろ。俺からも愛に連絡を取ってみる』

 修司も愛から何も聞いていないのか、琢真の報告に驚いていた。

 愛の考えが分からず不安になる。とは言え、修司の言う通り自分に出来るのはそれだけだ。

「分かった」

 と返答して電話を切り、琢真はそのまま莉理の後姿を追った。

 莉理を発見したのは道路を挟んだ逆側の歩道からだった。が、流石にそれでは何かあった時に咄嗟の行動がとれないので、今は気をつけながら同じ歩道の少し後ろを歩いていた。

 悪いジョークの様な話であるが、連日の経験により琢真は人を尾行する事に手馴れてきていた。それが分かり、琢真は思わず自嘲の笑みを浮べる。

 ただそのお陰で、今は全く気付かれる様子はなかった。

 莉理はそのまま駅からどんどん離れていき、周囲の人も徐々に少なくなっていった。

(どこに行くつもりだ?) 

 莉理は駅から躊躇いなく遠ざかって行き、やがて人通りの少ない路地裏に消えていった。

 全く意味が分からない。だが、仕方なく琢真もその後を追っていった。


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