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「駄目だ、ここにはいない」
以前占い師がいた、スナック『シャボン』にはママの姿しかなかった。
準備中でかつ明らかに客でない自分にも明るく対応してくれたママに、居場所を知らないか尋ねたところ、店の前に居ないのであれば今日は商店街に出ているのではないか、という回答が得られたので再び駅前に戻る事になった。
息を切らしている修司は、無駄足だった事にショックを受けていた。
間違いなく、体力的な問題が原因だろう。
だが修司がそんな状態だと分かっていても、足は止められない。ここまで来た勢いそのままに、琢真達は通ってきた道を戻った。
駅前に戻り、人の列が出来ている所がないかを探す。表通りでは流石に商売は出来ないだろうから、裏通りを重点的に。
駅南の繁華街を駅を基点に修司と手分けして扇形に探索していく。琢真は大きめの弧を描くように、ゼイゼイ言っている修司は、小さな弧を描くように見回る。だが、どちらもそれらしい列を発見する事は出来なかった。
駅北でやっているということも考えられたので、早速北に上がり南側と同様にして探索していく。が、それでも影すら見つける事が出来ない。
街は徐々に、夕日の色に染まり始めていた。
(まさか、今日は占いをしていないのか?)
だとしたら最悪だった。あんな小さな老婆を、この人ごみの中から探し出すのは至難の業だからである。
いつもならもう諦めてとっくに家に帰っているに違いないが、今回だけはそうする訳にはいかないと直感めいたものを感じ、琢真は一向に意欲は衰えたりはしなかった。
だが、それは危機感のような感情を抱いている琢真だけであって、何故占い師を探しているかすらよく分かっていない修司にとっては、その限りではない。先程からしきりに、今日は諦めろと再考を促していた。
琢真は申し訳なく思いつつもその案は棄却して、引き続き探索を進める。
今度は今まで老婆と遭遇したことのある場所を、廻ってみることにした。
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それから数時間経つが、まだ見つからない。情報すら得る事が出来なかった。
今は流石に疲れて、駅北の大通りから少し東に出たところに建っている病院の敷地の外にある、バスの停留所の前で息を整えていた。
修司は病院の塀にもたれ掛るようにして座り込んでいる。目も空ろで、先程から全く口を開いていなかった。恐らく何で走っているのかすら、もう分かっていないのではないだろうか。
そんな修司を見てこのまま連れ回すわけのも申し訳なく感じ、琢真が今日は解散しようと口を開きかけた時だった。
病院の奥の裏路地に、人影が入っていくのが見えた。
遠目だったためこの暗さではっきりとは捉えられなかった。が、見覚えのある小柄な老婆のようにも見えたので、琢真は飛び出すように後を追いかけた。
人影が入った裏路地を飛ぶように駆け抜け、そのまま真っ直ぐ進むと一斜線の車道に出た。周囲を見渡すがそれらしい影は無い。
(何か見落としたか?)
と、再び裏路地に戻る。途中左折できる細い道があるのを見つけ、迷うことなく入っていく。そのまま周囲を見回りながら、奥に奥に進む。
暫くそうしていたが、やがて琢真は見失った事を悟りその場に立ち止まった。
途方にくれ、諦めの気持ちで満たされていた時、後ろから掠れる様な声と共に足音が聞こえてきた。
「おい……琢真……」
どうやら、ようやく修司が追いついてきたようだ。
琢真は今日は止めにしようと振り返ったところで、修司が一人ではないことに気づいた。
「占い師……捕まえたぞ……」
力尽き倒れこんだ修司の傍らに、しかめっ面をした老婆が立っていた。