15人のマァの話
なぜ月は満ち、欠けるのか。
とある国のとある民族に伝わる月の伝説。
闇夜を下し新しい王となった中天のサハワン*1の妃として、老聖キナーンはマァを勧めました。
「マァこそは貴方様の終生の伴侶となるに相応しい。マァの光は夜に紛れ消えることもなくあまねく民を照らします。昼の光はあなたが、夜の光はマァがそれぞれ担うとよろしい」
中天のサハワンはキナーンの忠言どおり、マァを娶りました。しかし、マァの肌は生まれつき怪我をしたかのようにざらついていて、頬に痣があり、決して美しいとは言えぬ容姿でした。
マァはそれを自ら恥じ、自らの血肉を切り取って魔法でふたりめのマァを作りました。ふたりめのマァも自らを切り取り、より美しいマァを魔法で作りました。
その試みは実に14度にも及び、中天のサハワンが気がついた時には、マァははじめの1人を含めて15人にもなっていたのです。
サハワンは大いに嘆き言いました。「マァ。お前の醜きを責めたのは何者か」
マァは答えます。「私の不出来を責めたのはただ私です。王の妃として、私の容姿が相応しくないことを、他でもない私自身が許せなかったのです」
サハワンはマァへの愛を示すため、15人のマァすべてを妃として迎えることとしました。そして妻の容姿が醜くないことの証として、右を向いた姿と左を向いた姿を一晩ずつ、民のもとへ見せるよう命じました。
民は全てのマァを美しいと褒めましたが、民が最も美しいと口々に言ったのは、マァ自身が嫌ったはじめのマァでした。マァは心から喜び、サハワンは最愛の妻としてはじめのマァを心より愛しました。なので、はじめのマァたる満月は一度しか顔を見せず、2度目はサハワンの元にいます。これが月が満ち欠けし、月に一度は新月の真っ暗な夜が訪れる理由です。
*1太陽神。中天の、をつけるときは神々の王として天を統べていたときの名前。
たぶん暇庭宅男最初期の1作。中学時代のノートに書いていたものを全くそのまま手を加えず写した。