我が家
「はあ、はあ、はあ」
たった30段ので、息が上がってしまうとは、情けない
黄昏の夕日が、年季の入った団地の壁を、照らしている。
「えっなにこれ!」
階段を登りきると、水色の”ぐにょぐにょ”とした物体が、落ちていた。
一瞬、見慣れない物に、恐怖で身がすくむ。
「こ、これは!」
よく見ると、子供の頃に遊んだ、スライムの”おもちゃ”じゃないか
昔、よく遊んだな~何が楽しかったんだろう…
このスライムも、近所の子供が遊んでいたのかな?
きっと、落としてしまったのだろう
ぺた。…
「足に・・・スライム?」
私、動いたかな?
ぺたぺた。
「これ・・・動いてる⁉」
え、剝がすべき!触るの、これを…嫌だな~
「スイー」
「鳴きごえ?生きてるのこれ…」
「いきてるよ」
「喋った⁉」
「しゃべったよ」
「・・・」
「こわくないよ」
「怖いよ、すごく」
「・・・かってよ」
「飼わないよ」
「じゃあ、すてて、いいよ」
「・・・」
飼いました
朝焼けの明かりが窓から零れる~
「タマちゃん、おはよう」
「おはよう」
名前は、タマにしました。
「タマちゃん、何食べるの~」
「にんげん!」
「・・・そっか~」
「私、大学があるから、出るけど…」
「おるすばん?」
「お願いします!」
ガチャ、バタン
「ちょっと、あなた!」
「はい」
「夜中、音、うるさいんだけど…」
「すみません」
「べつにいいのよ、べつに!ただ…」
「壁、薄いんだから、もう少し静かにしてね」
「すみません」
・・・私じゃないんだけどな…まーいっか
夕焼けの暮れる頃~
「ただいま~」
「おかえり」
「・・・」
「・・・」
「朝、隣のおばさんがさ、玄関の掃除してたんだけど」
「うん」
「帰りいなかったんだよね、いつも階段の掃除してるのに」
「うん」
「何か、知らない?知らないよね…」
「たべたよ」
「・・・えっ」
「たべたよ」
「・・・そっかー」
掃除してくれる、いい人だったんだけどな~
「タマちゃん、昨日の夜、”音”出してた?」
「おと?」
「ううん、なんでもない」
「私、お風呂入るね」
「・・・うん」
「あれ、シャワーが出ない?」
「タマちゃん、何かした?」
「しらないよ」
「壊れたのかな?まあ、今日は、このまま寝ようかな」
「おやすみ、タマちゃん」
「おやすみ」
カツっカツっカツっ
カツっカツっカツっ
「…タマちゃん?」
真夜中、
お風呂場から聞こえる、奇妙な音に、目を覚ました。
「タマ、ちゃん…」
「・・・おなか、すいたよ」
「すいた!すいた!すいた!すいた!すいた!」
「・・・」
外に朝霧が広がる~
「おはよう、あれ?」
「おはよう、あれ?」
「あれ、あれ」
「だれも、いないよ?」
END