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85 聞いてよ高名瀬さん

 ほとんど眠れずに目覚めた翌朝。

 重たい頭のまま家を出た僕は、学校最寄り駅のそばで高名瀬さんと合流した。


「相談がございます」

「どうしたんですか? ひどい顔をしてますよ?」


 あはは、そう?

 まぁ、いろいろ考え過ぎてしまいまして……


「高名瀬さんがブラジャーをつけるのはなぜでしょうか?」

「何か悩みがあるのでしょうが、とりあえず質問が最低です。一度思考を止めて、今の自分を省みてください」


 真顔で注意された。

 確かに、今の質問はないな。


 では。


「高名瀬さんはスポブラとかつけないんですか?」

「怒りますよ?」


 いけない。

 どうにも、昨日見た光景が衝撃的過ぎて、思考がスポブラから離れてくれない。


「実は、昨日からスポブラのことが頭から離れなくて……そういえば、スポブラと透けブラってなんか似てませんか?」

「ご病気が深刻なご様子で。あまり近寄らないでください」


 あぁっ、高名瀬さんがちょっと離れていく!?

 そして、前を歩いていた透けブラしちゃってる女子がこちらを睨んで足早に去っていく!?


 なんか、僕の周りにぽっかりと空間が!?


「違うんだよ、高名瀬さん! 真剣な悩みなの!」

「何を真剣に悩んでいるんですか、いかがわしい」

「いかがわしい話じゃなくて……でも、こんな人通りの多いところじゃ迂闊に話せない内容なので、あっちの人気のない路地裏へいきませんか?」

「いかがわしさ全開じゃないですか」

「違うんだってば!?」


 どうしよう。

 何をしてもいかがわしく受け取られてしまう。

 こんなに真剣に悩んでいるというのに!


「声に出せないのでしたら、Chainで概要を送ってください」

「僕、歩きながらスマホを見られない体質なんだよね」


 よく何かを読みながら歩けるよね。

 僕なら確実に何かにぶつかる。

 あと、今は自転車も押してるし。


「では、あの自販機のそばで立ち止まりましょう」


 というわけで、通学路の途中にある微妙なメーカーの自販機のそばに自転車を停めてChainに文字を打ち込む。


 というか、この自販機、ラインナップが微妙過ぎて使ってる人見たことないんだよねぇ。

 もうちょっとまともなジュースを置いてくれれば使えるのに……



 ピッ。

 ガシャン。



「使ってる人初めて見た!?」

「え、なんですか?」


 交通系IC決算が出来ることも今初めて知ったよ、この自販機!?


「あずきオレ、ここにしか売ってないんですよね。美味しいのに」

「美味しいの?」

「もちろんです」


 高名瀬さんは、本当にあんこが好きだよね。

 あずきオレって……

 で、なんで350mlなの?

 180mlの小さいサイズで十分じゃない、そういう系統の飲み物って。

 おしることか甘酒みたいにさ。


「一口飲んでみますか?」

「え、高名瀬さんって、間接キスとか気にしない人なの?」

「今の一言であげられなくなりました。ご自分で購入してください」


 あぁ、気にする人だったか。

 なら確認しといてよかった。

 この先ギクシャクした感じになるの嫌だし。


 でも、購入してまでチャレンジしたい感じじゃないなぁ。


「じゃあ、送るね」


 頑張って入力した文章を高名瀬さんへ送信する。

 昨日見た衝撃の事実を。



 鎧戸『オタケ君がブラジャーつけてた』

 高名瀬『時間かかった割に短い文章ですね』



「そんなことはどうでもよくない!?」


 どうせ僕はフリック入力が苦手だよ!?

 っていうか、高名瀬さんが早過ぎるんだよ!

 なにその指の動き!?

 何か別の生命体宿ってない!?


「まぁ、そういった趣味の方もいるとは聞きます。最近では男性用のソレも売っているそうですよ」

「そうなの?」

「はい。その…………こ、こすれると、いろいろ、敏感な方とか、いらっしゃるようで…………」


 説明するほどに、高名瀬さんの顔が真紅に染まっていく。

 わぁ、冬のハロゲンヒーターみたい。


「しばしお待ちを」


 顔を背けて、驚異的な速度でスマホに文字を入力し始める高名瀬さん。

 ほんの二秒ほどで文章を書き上げて、送信してくる。



 ――ピロン♪


 高名瀬『個人の趣味ですので口を挟むことではないと思いますので、そっとしておくのが得策かと。それでもどうしても気になるようであれば友人として尋ねてみてはいかがでしょうか? もしかしたら力になれることもあるかもしれないからというような言葉を添えれば、からかいではなく親身になっているというアピールにもなるかと思いますし』



「文字打つの早っ!?」

「そんなことはどうでもいいんです」


 さっき僕が言ったことを、まんま言い返された。

 っていうか、ブラジャーがどうとかって話は口でして、聞かれても問題ないような普通の回答を文字入力でするって、逆じゃないかな?


「この内容なら、口でしても一切いかがわしくなかったような気が?」

「じ、自分でも何を口走るか分からなかったので念のため文章にしただけですっ」


 やっぱ高名瀬さんも「これ、文章にする必要なかったかも」くらいは思っていたっぽい。


 でもなぁ……聞けないよ。


「男友達にソレを聞くのってハードル高いよ」

「女友達に『スポブラつけないのか』と聞いた人が何をおっしゃっているんですか?」


 確かに、もっとハードル高いことしてた、僕!?


「もしかしたら助けになるかもしれませんし、真剣に話してみてはいかがですか?」

「でもさぁ……」


 高名瀬さんにはこの難しさが伝わってない気がする。

 高名瀬さんに的確に伝えるには……ゲームに喩えるか?


「この難しさは、ロックメンのボスのエアリーメンにフォレストバリアなしで勝つくらいの難易度なんだよ」

「あっ、それですが、実際不可能だという認識が定着していますが、実は別のアイテムを組み合わせることでフォレストバリアを使用するよりも簡単に勝つ方法があるんですよ。いいですか、まずはウッディーメンのエリアでエナジー缶が出る場所まで行って、そこで――」


 あ、ダメだ。

 変なスイッチ入っちゃった。

 わぁ、全然止まらない!

 どうしよう、この人の話を止めるスイッチ、誰か知りませんか!?


「遅れるよ」と強引に話を打ち切って歩き出したものの、学校に着くまで高名瀬さんの攻略方講座は延々と続いたのだった。


 僕の相談、何も解決してないのに……







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― 新着の感想 ―
廃ゲーマーにゲームの例え出したらダメなヤツww
タイピングコンテストのフリック版とかあったら、そちらでも確実に優勝だなw かくしごと、は自分たち以外の分まで増えていくんですねえ。
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