83 学校の怪談?
下駄箱を確認すると、オタケ君の下履きがあった。
つまり、オタケ君はまだ学校にいる。
何か部活に入っていたっけな?
そんな話は聞いたことがない。
というか、オタケ君の情報を、僕は何も知らない。
「とりあえず教室に行ってみるか」
ほんのりと薄暗くなった人気のない廊下を進む。
まだ怖いっていうような暗さではないけれど、普段騒がしい廊下が静まり返っていると、少し不気味だ。
何も起きないといいけど……
いや、幽霊なんて信じてないけども、それでもちょっと、不気味で怖い……
今さら、高名瀬さんに付き合ってもらえばよかったと後悔している。
別れて五分も経ってないのに。
ダッシュで戻って「薄暗い校舎が怖いから、やっぱり一緒にいて!」ってすがりついてみようか?
……いくらなんでもカッコ悪過ぎる。
せめて、「今日、予定があるかもしれないけれど、僕は薄暗い校舎が怖いから一緒にいてほしい」って最初に言っておくべきだった。
一度断ったことを再度頼むのはカッコ悪い。
自分で言い出したことを覆すなんて、男子としての面子が立たないというものだ。
……ん?
幽霊が怖いのに男も女もないでしょうが!
なのでそこは別にカッコ悪くない!
カッコ悪いのは、自分の発言を貫けないこと。
これはそう、「男に二言はない」というヤツだよ。うん。
「でも、とりあえずChainだけ送っとこう」
鎧戸『校舎内が薄暗くて、廊下がめっちゃ不気味……』
鎧戸『高名瀬さんに来てもらえばよかったと激しく後悔中(´;ω;`)』
うん。
愚痴るくらいはセーフ。
これで『なにやってるんですか』ってメッセージでも来れば、気も紛れるだろう。
とりあえず、教室を目指すか……
静まり返る廊下を、一人、歩く。
こつこつと、自分の足音だけが、いやに反響して不気味さを増幅させる。
あの角を曲がれば階段。
階段の上から、この世のものじゃない生徒がじぃ~っと覗き込んでたら……漏らす自信がある。
ドキドキ……
――ピロン♪
「ふぉわちゃぁああ!?」
び、び、びっくりしたぁ!?
なに、一体!?
高名瀬『戻りましょうか?』
鎧戸『大丈夫! 大丈夫だけど、受信の「ピロン♪」で漏らしかけた』
高名瀬『世間一般では、その状態は「大丈夫」とは言いません。戻りますね』
鎧戸『いや、本当に大丈夫だから。ムリなら早急に帰るし』
高名瀬『……まぁ、そうですね。別に今日でなくても問題ないでしょうし』
鎧戸『ちょっと愚痴りたかったのと、気を紛らわせたかっただけ。ごめんね』
高名瀬『別に構いませんが……オバケ怖いんですか?』
あ、小馬鹿にしてるな?
物っ凄くにやにやしてる顔が脳裏に浮かんできたよ。
鎧戸『高名瀬さん。こんな言葉を知っていますか? 幽霊の正体見たりキャリーオーバー』
高名瀬『前回分が持ち越されて倍近い幽霊が集まってませんか、その状況?』
怖いことを言ってくる!?
直後に『枯れ尾花です』と訂正するChainが届く。
あれ、そうだっけ?
ずっとキャリーオーバーで覚えてた。
高名瀬『幽霊の正体見たりキャパオーバーになって、気絶しないよう気を付けてください』
どやぁ!
って顔が目に浮かぶようですよ、高名瀬さん!?
なに、『キャリーオーバー』と『キャパオーバー』でうまいこと言った感醸し出してるんですか!?
鎧戸『高名瀬さんのおかげで教室までたどり着けたよ』
高名瀬『それは何よりです。では、わたしはそろそろ電車に乗りますので』
鎧戸『うん、気を付けてね。僕も教室だけ覗いていくよ』
高名瀬『お気を付けて』
何に!?
教室を見るだけの僕は何に気を付けろと!?
何か出ちゃう可能性を含んだ応援やめてくれる!?
スマホをしまい、教室のドアに向かう。
さっさと確認して、誰もいなかったらさっさと帰っちゃおう。
ドアを開けようと腕を伸ばすと、勢いよくドアが開いた。
「うぉっ!?」
「ぎゃあぁああ!?」
なんか出てきた!?
ゴリラの幽霊が!
「なんだ、鎧戸か、脅かすな」
「佐々木……先生?」
中から出てきたのは、担任佐々木先生だった。
……脅かさないでよ、もう。
「どうした、こんな時間に? 忘れ物か?」
「えぇ、まぁ、そのような感じで。先生は? 忘れ物ですか?」
「あっ、あぁ、まぁ、そんな感じだ! じゃあ、忘れ物を取ったらお前もすぐに帰れよ! じゃあな!」
なんだろう、あの焦りぶり……
なんか、めっちゃ汗かいてたし、心做しか服も乱れてたような……何してたんだ、あの教師? 教室で。
訝しみつつ、教室に入ると。
「きゃあ!?」
お昼ごろに聞いた覚えのある悲鳴が聞こえ、そちらへ目を向けると――
「よ、鎧戸……、なんでここに?」
僕のバスタオルを胸元に押さえつけるオタケ君がいた。
シャツのボタンは全開で、そこから覗く胸元を慌てて隠したような格好で、ひどく焦って、薄っすらと汗をかいて、挙動不審にこちらを窺っている。
一体何があった、この教室で!?
オバケや幽霊よりも、見てはいけないモノを見てしまったかもしれない。