77 闘球秀明!
闘球秀明!
ゴーファイッ!
「喰らえっ、必殺、バーニングドラゴン!」
ヤバい、死ぬ!
なにせ、必殺じゃなくて、『必ず殺す』で必殺だもの!
「――強化っ」
呟いて、身体能力と動体視力を強化する。
『集中』の進化版だ。
それ故に、めっちゃバッテリーの減りが早い!
「さすがだ、鎧戸! 次はお前の番だ――来い!」
あぁ、分かったとも。
君は危険なので、この一球で退場してもらう!
「必殺――ソニック……………………え~っと」
「投げろよ!?」
ごめんごめん。
なんかいい感じの名前が思い浮かばなくて、ちょっと考え込んでしまった。
「なんでもいい、来い!」
「なんでもいい」?
じゃあ、ぱっと頭に浮かんだもので――
「オムライス!」
「――ぐっ!」
出力を上げて射出した僕の投球を、オタケ君は体のど真ん中で受け止め、「ズザザッ!」と5センチほど足を踏ん張った姿勢のまま後退した。
受け止めちゃうの、あれ!?
本当に人間かな、オタケ君!?
「鎧戸……『ソニックオムライス』ってなんだ!?」
なんでもいいって言ったじゃない。
「お返しだっ! バーニング小籠包!」
熱そう!?
……なら!
「ブリザードプディング!」
「アースシェイカー油淋鶏!」
「レインボーハンバーグ!」
「パラライズ青椒肉絲!」
「ノスタルジックナポリタン!」
「アトミック天津飯!」
「スパークリング…………ワイン!」
「普通かっ!? ならこっちは、スタミナ定食!」
「冷静トマトパスタ!」
「ジューシー唐揚げ!」
「シェフの気まぐれサラダぁー!」
「真面目にやれー、鎧戸、御岳!」
佐々木先生から喝が飛ぶ。
いや、めっちゃ真剣だから!
ビルの基礎工事で地面に杭を打ち込むパイルドライバーをお腹にぶち込んでくるような威力の球を受け取って、それ以上の力で投げ返してるから!
必殺技の名前が、小洒落た洋食屋さんにありそうなものになっちゃうのは、ぱっと思い浮かぶのがそれしかないだけで、ふざけてはいないから!
あと、たぶんだけど、オタケ君は今空腹でガッツリ系が食べたいはず!
学校のそばの町中華とか、好きそうだよね、見た目のイメージで。
「これで決めるぞ、鎧戸!」
「よぉし、こい!」
僕の『シェフの気まぐれサラダ』を見事にキャッチしてみせたオタケ君が、不敵な笑みを浮かべて僕を指差す。
決着を付けるつもりだ。
「お前には、こいつが一番効くはずだ――喰らえっ! 名前入り手作りオムライスッ!」
そんな必殺技名と同時に放たれた豪速球は、地面スレスレをとんでもない速度で飛翔してくる。
僕が高名瀬さんに作ってもらったオムライスで精神的に揺さぶろうって?
甘い!
あのオムライスの思い出は、むしろ僕に力を与えてくれる!
低い弾道で足元を狙う、非常にキャッチしにくい難しいコースではあるが、ここまで直線だとさすがにキャッチ出来――なにぃ!? バウンドもしていないのに球が上方に進路を変えた!?
変化球!?
しかも、低い球を取ろうと前屈みになったところで球筋を上に変化させることでこちらの顔面を狙ってくる殺人シュートだ!
この一撃を顔面に喰らえば、一発で戦闘不能に陥ってしまうだろう。
だが、甘い!
どんな変則的な弾道だろうと、僕には『集中』がある!
通用しないよ、オタケ君!
「――集中」
瞬間、世界の音が消え、時間の流れがゆっくりにな――あ、バッテリー切れる。
「どぅぶっぬ!?」
急に真っ暗になった世界の中で、僕は顔面に2tトラックが突っ込んできたかのような衝撃を受け、そのまま意識を飛ばした。
幸いなのは、バッテリー切れで全神経がシャットダウンした結果、さほど痛みを感じなかったことか。
……どうか、オタケ君が過失傷害及び過失致死の罪に問われませんように。
…………がくっ。
「おぉい、鎧戸! なぜ受け止めない! お前ならキャッチ出来たはずだろう!? え、まさか、そんなに揺さぶられたのか? お前にとってあのオムライスは、そこまで特別な、触れられたくない思い出だったのか!? なら、すまん!」
「あはは。なんかマタオモシロイコトニナッテルネェ」
「ア、ササキセンセイ……コレハ、ソノ」
「ダイジョウブダカラ、アトハコッチデヤットク――」
周りで騒ぐ音が雑音に変わり、やがて何も聞こえなくなった。