74 俺たちのバスト!
それから、僕たちはこの……えっと、ナントカ荒野でドラゴン狩りを楽しんだ。
いや、楽しんでいたのは主に戦闘民族の二人だけれども。
『ギャァアア!』と、本日六頭目のアースドラゴンが地面に倒れ伏す。
『すげぇ。今まで硬い鱗と驚異的な体力のせいで削りきれず倒せなかったアースドラゴンが、こうまであっさりと』
『アースドラゴンは「大地の癒やし」という特殊能力により毎秒一定数HPが回復し続けているのだ。その回復量を超えるダメージを与え続けなければ倒すことは不可能。ノトナメは素早さに重点を置き過ぎているせいで攻撃力が十分成長しきっていない。それが、アースドラゴンを倒せなかった理由だ』
『なるほどな……勉強になりました、デップリ!』
『その略し方は認めておらぬ!』
倒れた巨大ドラゴンの前で楽しげに会話する魔王と緑モヒカン。
戦闘中は掲示板を見ていられないから、互いにハンドルネームで呼び合っている。
『お前も、大したガッツだったぜ、高菜SAY!』
『そのハンドルネームも認めておらぬ……』
こちらにサムズアップしてくる緑モヒカンと、じろりと睨んでくる魔王。
高名瀬さんのフリをする必要がなくなった今、僕のハンドルネームの浮きっぷりたるや。
なんでこんなハンドルネームにしたんだろう、僕?
『しかし、高菜SAYは魔王が本当に好きなんだな』
『待って待って! 別に、好きな子の名前をキャラにつけたわけじゃないからね』
ゲームのキャラに好きな女の子の名前つけてニヤニヤしている変なヤツだと認識するのはご遠慮願いたい。
確かに、高名瀬さんの名前からいただいたハンドルネームではあるけれど、それはあくまでオタケ君の目を欺くためであって、決して『この可愛いキャラ、大好きな高名瀬さんにそっくり! よぉ~し、名前も高名瀬さんに似せちゃうぞ☆』的な発想じゃないからね!?
キャラは高名瀬さんに似せて作ったけども!
『照れるな照れるな』
あははと笑う緑モヒカン・ノトナメのそばへと向かうため、僕は巨大ドラゴンの頭から這い降りる。
……うん、そう。
魔王の教えのとおりに、巨大ドラゴンの後頭部にしがみ付いて鈍器で乱打してたんだ。
白魔道師とは、一体……
『魔王と一緒にプレイするために、二日でレベルを150まで上げたんだろ? なかなか出来ることじゃない』
確かに、一日でレベル120まで上げたけど、その後一日で30上がったのは魔王式スパルタ特訓の影響だから。
白魔法の使い所とか、効率的な運用方法なんか一切ない。
どうすればノーダメージでモンスターの後頭部に貼り付けるかとか、クリティカルが出やすいタイミングとか、そんなんばっかりだったよ。
白いローブが真っ赤に染まるくらいの暴れっぷりだった。
ゲームだから、ローブは純白のままだけれども。
『愛されているな、魔王』
『dptrjs”』
魔王!?
なんか焦ってタイプミスしまくりだよ!?
たぶんだけど、「それは!」が一個ずつ右にズレてる!
『それは、y彼がオムライスを食べたいがゆえの行動だ』
今、思いっきり『鎧戸君』って書きかけて消したね?
バックスペースが一個足りなくて『y』が残っちゃってるよ!
『オムライス?』
『食べたいと言われたので』
『作りに行ったのか?』
『作りに行ったというか、特訓のついでに』
『ラブラブだな』
『そっ、そーゆーのではナウ!』
タイプミス!
『ない』が『ナウ』になって、なんか昔のツブヤイッターみたいになってるよ!?
『オムライスと言えば、俺もガキのころは好きだったな。ケチャップをドバドバかけて、オムライスを血の海に沈めてやるのが』
発想がデンジャラス!?
名前を書くとか、そういう可愛らしいエピソードじゃないの、子供のころの思い出って!?
あと絶対過剰摂取だからね、そのケチャップの量!
『名前とか書いたのか、魔王の手作りオムライス?』
『くっ、くだらないことを言ってないで、次のドラゴンをバストしに行くぞ!』
『おう! 次も乱打を期待しているぞ、高菜SAY』
乱打を期待されちゃったよ。
白魔道師って、なんなんだろう。
しかし、この時僕たちは気が付いていなかった。
夢中になってドラゴンを狩っていた僕たち三人の戦いを、数多くのプレーヤーが遠巻きに観戦していたことを。
さらに、スクショ付きでモンバス掲示板に『魔王の彼女はドラゴンの頭蓋骨をかち割る血みどろロリ巨乳』なんて書かれて拡散されていたなんてことを。
そして、こんな会話がその掲示板内で繰り広げられるなんてことを――
『魔王様って、彼女に手料理作りに行くらしいよ』
『魔王様、案外尽くす系?』
『でも、オムライスは彼女の希望で血の海 (ケチャップ)に沈んでいるらしい』
『え、なにあのロリ巨乳白魔道師、そういう趣味なの?』
『アースドラゴンの首にしがみついて後頭部を鈍器で乱打する白魔道師だからなぁ……』
『え、あれ白魔道師なの? 回復魔法使えよ……』
『つか、アースドラゴンにダメージ通る白魔道師ってなによ?』
『さすが、魔王を虜にするロリ巨乳。俺らの想像を遥かに超えている』
『もはや魔神だな……』
『鮮血魔神?』
『ロリ巨乳魔神』
『その神を崇める宗教だったら、俺、入信したい』
『荒ぶり給え~』
『「静まり給え」じゃねぇーのかよww』
『ロリ巨乳よ、荒ぶり給え~』
『あぁ、それは荒ぶるべきだ』
『荒ぶり給え~』
『荒ぶり給え~』
『荒ぶり給え~』
『妙な宗教つくんなwww』
その書き込みを見て、高名瀬さんが悶絶するのは、その日の深夜遅くになってからだったそうな。