72 舐めんじゃねぇぞ
『いくら魔王や女子といえど、俺を舐めると容赦しねぇぞ』
緑モヒカンがこちらを睨む。
いや、ごめんごめん。
『なんで、「舐めんな」が日本語のままなのかと思いまして』
『それから、なぜ「ドント」ではなく「ノット」なのかも気になったぞ』
僕と魔王からの問いに、緑モヒカン改めノトナメ君がその理由を教えてくれる。
『英語のことなんざ、俺に聞かれても知らん!』
じゃあなぜ英語にしようと思ったの!?
ムリしないで!
『ちなみに、お前らは分かるのか? 「舐めんじゃねぇぞ」を英語でなんていうのか』
『さっぱりです』
『……なんというか、高名瀬は優等生っぽいのに、案外バカなんだな』
『(# ゜Д゜)』
『なぜ魔王が怒る?』
それが、高名瀬さん本体だからです。
正体隠す気なくなってきたな、さては。
『すまぬ。惚れた女を悪く言われたものでな、つい』
なんか言い出したぞ、魔王!?
すぐさまChainで抗議する。
鎧戸『なに勝手なこと言ってんの!?』
高名瀬『以前、何か言われたら「あいつ、わたしに惚れてるんだよ」と言っていいとおっしゃっていましたので』
鎧戸『確かに言ったけど!? 「自意識過剰女って思われるから言わない」的なこと言ってなかった!?』
高名瀬『今は、正体がバレないことが最優先です』
その認識が、まだ高名瀬さんの中に残っていたことにちょっと驚きだよ。
もう諦めて遊び始めたのかと思ってた。
――ピロン♪
高名瀬『ちなみに、「舐めんじゃねぇぞ」は「Don’t underestimate me.」、少し語調を強くするなら「Don’t try me.」や「Don’t f◯ck with me!」などが該当します』
おぉぅ……伏せ字。
でも、どれもこれも初耳だ。
さすが高名瀬さん。優等生。
では、優等生のフリをしましょうかね。
『ノトナメ君。「舐めるな」は英語で「Don’t f◯ck with me!」です』
――ピロン♪
高名瀬『なぜ、伏せ字のものをチョイスするんですか!?』
いや、インパクトが強いかと思って。
『なんというか……高名瀬は…………過激だな』
『我が言わせたのだ。彼女はそのような人物ではない。むしろ真逆だ』
『魔王様? あなたの発言を総合すると、あなたは惚れている女に「F◯ck」と言わせる鬼畜野郎になりますが?』
『ふむ…………概ね間違ってはおらぬな』
てめぇ、このやろう、高名瀬。
そっちがその気なら……
『もぅ、魔王様……イジワルするのは、二人きりの時だけねって、言った・で・しょ☆』
――ピロン♪
高名瀬『なんですか、その頭のイタい女みたいなセリフは!?』
鎧戸『イメージです。懸命に高名瀬さんを演じようと、普段の言動を観察した結果行き着いた高名瀬さんのイメージを僕なりに演じてみた結果です』
高名瀬『……そうですか。普段の言動を……そうですか』
不穏なメッセージがChainの画面に表示されるや否や、画面の中の魔王がとんでもないことを口走った。
『我の部屋には肌色が目立つ露出多めの書籍がずらりと並んでおるぞ』
魔王、テメェ!?
事実だからってなに言ってもいいわけじゃないぞ!
『よろしい、魔王様……そのケンカ、買いましょう』
『口を慎め、巨乳マニアめ。貴様の透けブラ観察疑惑はまだ完全に払拭されたわけではない』
『……牛丼特盛』
『その話はトップシークレットです! 誰かに話したらもう二度と口を聞いてあげませんからね!?』
何を思ったのか、魔王がPVPを申し込んできた。
力で言論を封じるつもりか!?
まるで悪魔の所業……あぁ、そうだった、魔王だった、この人!
『おい』
睨み合う魔王と白魔道師の間に立って、緑モヒカンが短い文章を頭上に表示させる。
『お前ら、中身逆だろ?』
『『なぜそれを!?』』
『Don’t f◯ck with me』
No’tとDon’tも分からないような緑モヒカンに、ズビシッと正解を指摘された。