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71 ハンドルネームと口調とフリと

『ところで、気になってたんだけど』


 ここで、僕の小さな疑問をぶつけてみる。


『なんでフレンド登録しないとハンドルネームが見れないのかな?』



 そう尋ねると、すぐさま『ピロン♪』とChainが届いた。

 メッセージを確認してみると――



 高名瀬『口調が鎧戸君そのままですよ! ちゃんとわたしのフリをしてください』



 ――そんなお叱りが。

 しまった。

 なんかもう、緑モヒカンを身内だと思い始めてしまっていた。

 今回のミッションは、この人に正体を隠すことだった。


 大慌てで、女性らしい口調をアピールしておく。



『不思議ですわね、おほほほ』



 ――ピロン♪



 高名瀬『バカにしてるんですか?』

 高名瀬 (スタンプ)『いてまうで?』



 わぁ、高名瀬さん、怖ぁ~い。

 大阪ちゃうちゃう、そんなスタンプもあるんだね。


 あ、画面上で魔王がちょっとこっち見た。



『鎧戸。高名瀬に教えてないのか?』



 画面上で、緑モヒカンが『鎧戸』に問う。

 ……高名瀬さん。あなたですよ!

 あなたが話かけられてるの!

 返事して!


 少々反応が遅れたが、高名瀬さんも気が付いたようで、魔王がちょっと『ピクッ』と動いた。

「あ、俺か!?」みたいな反応に見えたのは、僕の気のせい、はたまた先入観のせいだろうか?



『この者には、戦闘技術だけを教えている。他のプレーヤーとの交流など不要だ』



 確かに、このキャラクターは御岳連国君を騙すためだけに作成したキャラだから、他のプレーヤーと交流する予定はないけれども、そんな言い方をすると――



『独占欲が強過ぎるぞ、鎧戸』



 ――そう思われるよね。



『ど、独占欲ではない……支配欲だ』



 高名瀬さん!?

 何を口走って……あぁっとそうだった、この人、高名瀬邦子は誤魔化しが物凄い下手な人なんだった!



『鎧戸……ちょっと、引くぞ、その発言は』

『…………冗談だ。真に受けるな』



 いやぁ、手遅れだよ、その言い訳。

 苦しい。

 苦しいって、高名瀬さん。



『過去、モンバス内でキャラクターによるつきまとい行為、いわゆるストーキングが問題になったのだ』



 魔王様曰く。

 初期はハンドルネームがキャラクターの頭上に常時表示されていたらしい。


 だが、ある時期から気に入ったプレーヤーを必要以上に追いかけ回す不届き者が多発してしまったらしい。


 装備を変えて、見た目を変えても、頭上にはハンドルネームが表示されるためストーカーに見つかって付け回されてしまう。

 それでは、安心してプレイなんて出来やしない。


 そして、苦肉の策で運営はハンドルネームを非表示としたのだそうな。



『その割には、デスゲート・プリズンの名前は有名だったよね?』



 ゲーム会社がコラボを承認する程に、魔王デスゲート・プリズンの名前はモンバス内で轟いていたはずだ。



『魔王は、ゲーム内で開催されるコンテストや大会でことごとく優勝していたからな。入賞者のハンドルネームは発表され、後世まで語り継がれるんだ。今も、過去の大会の履歴を検索すればデップリの名前は記載されているぞ』

『その略し方は不敬だぞ、ノドアメ』



 魔王が緑モヒカンに注意している。

 が、おそらく魔王も緑モヒカンのハンドルネームを間違えている。



『魔王様、おそらく彼のハンドルネームを勘違いなさってますわよ』



 ――ピロン♪



 高名瀬『どこのお嬢様ですか!?』



 う~ん、女性言葉難しい。

 あ、普通に敬語でいいのか。

 高名瀬さん、いつも敬語なんだし。



 鎧戸『じゃあ、敬語で通すね』

 高名瀬『そうしてください』



 高名瀬さんの認可も得たし、敬語で緑モヒカンに問いかける。



『改めてハンドルネームを確認させてもらいますね、緑モヒカン』



 ――ピロン♪



 高名瀬『敬いの心、どこに忘れてきたんですか!?』



 おっといけない。

 もうずっと『緑モヒカン』って呼んでるから、つい。



『緑モヒカンって……』



 画面上で、緑モヒカンが肩を落とす。

 あはは、ごめんねぇ。

 一番目に付いたのがそのモヒカンだったから。



『冗談ですよ。軽口を叩けるくらいに仲良くなりたいなという思いから、ちょっと度が過ぎる冗談を言ってしまいました。不快にさせたならごめんなさい』



 と、フォローを入れておく。



『そうか。なんというか、高名瀬は案外ぶっ飛んだ性格をしているんだな』

『うふふ、よく言われます』



 ――ピロン♪



 高名瀬『言われたことありません!ヽ(`Д´)ノプンプン』



 いいじゃない。

 今は、この場を凌ぐことが最優先なんだから。



 Chainで高名瀬さんと会話をしていると、緑モヒカンがこちらを向いて居住まいを正す。



『改めて、俺のハンドルネームは「ノトナメ」だ。よろしく頼む』



 ぺこりと、深く頭を下げる緑モヒカン。



 ――ピロン♪



 高名瀬『お掃除用ブラシみたいな動きですね。ほら、サッシの汚れとか取るヤツのような』



 あなたも十分失礼ですよ。

 今度僕が面と向かって言ってあげるよ。

「案外ぶっ飛んだ性格をしてるね」って。



『意味とか、あるんですか?』



 どうにも『ノトナメ』という文字列は覚えにくい。

 何か意味があれば、今後間違えなくなるかと思ってそんな質問をしてみたところ、緑モヒカンは由来を教えてくれた。



『俺の座右の銘は「舐めんじゃねぇぞ」なんだ』



 この人も十分ぶっ飛んだ性格をしているなぁ。

 座右の銘って、そんな感じだっけ?



『それで、最初は「舐めんじゃねぇぞ」ってハンドルネームでプレイしていたんだが、他のプレーヤーに揶揄われてはPVP(対人戦バトル)でぶちのめすという不毛な時間が続いてな』



 ホント、舐められるのは嫌いみたいだね、緑モヒカンこと御岳連国君は。

 下駄箱で僕に絡んできた時もそんなこと言ってたっけ。



『あまりに不毛なので、ハンドルネームを英語にしたんだ』

『……えい、ご?』



 え?

 どのへんが?



『「ノット、舐めんな」、略して、「ノトナメ」だ』

『案外バカなんですね』

『案外バカなんですね』



 魔王と白魔道師が、同時に同じセリフを口にしていた。


 高名瀬さん。

 僕はあなたをトレースしているわけですが……それにしても息ぴったり過ぎるから。


 さっき言われた言葉をそのままお返ししよう。


 口調が高名瀬さんそのままだから! ちゃんと僕のフリをして!







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― 新着の感想 ―
「ノット、舐めんな」じゃあ、二重否定になってしまうぞ、それでいいのかw かしこい人がいいなさそうな世界ですねw
連国君はおもしれ~やつだなww
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