70 パパラッチ
最初の街。
すなわち、ビギナーが集まる初心者のためのスペース。
そこに、世界ナンバーワンのトッププレーヤーである魔王が現れた。
今日は休日だからか、前回よりも人が多い。
すなわち――
『魔王だ!』
『ウソっ! 本物!?』
『やだ、かっこいい!』
『一緒にスクショ撮ってほしい!』
『まーおーう!』
『まーおーう!』
『まーおーう!』
『まーおーう!』
『まーおーう!』
と、こんな状況になってしまった。
僕『高名瀬さん、人気者だね』
高名瀬 (スタンプ)『アホ言ぃな。そんなわけ……ホンマや!?』
僕『随分余裕だね』
高名瀬『……そこそこテンパっているからこその、現実逃避です』
観衆に囃し立てられても、クールに佇む魔王。
しかし、その裏では、Chainで盛大に慌てふためいている高名瀬さん。
あは、僕だけが知ってる魔王の本性。
なんだろう、この優越感。
悪くない。
『ここは人が多い。場所を移そう』
緑モヒカンが僕たちにそう告げ、それと同時にフレンド申請が届いた。
『フレンドなら、俺の転移アイテムで一緒に連れていける』
そのメッセージがゲーム画面に表示されるとほぼ同時に、高名瀬さんからChainが届いた。
高名瀬『転移アイテムなら、わたしたちがどこへ移動したのか、他のプレーヤーには悟られません。今はオタケ君の提案に乗っておきましょう』
なるほどね。
っていうか、高名瀬さん、文字打つの早いね。
この一瞬でこんな長文打ち込んだの?
高名瀬『フレンド登録しても、アドレス等は秘匿されていますし、正体がバレるような情報を見られる心配はありますん』
僕『………………すん?』
高名瀬『タイプミスをいちいち突かないでください(# ゜Д゜)』
あはは。
タイプミスもするんだね。
ちょっと安心。あと顔文字可愛い。
高名瀬さんからOKが出たので、緑モヒカンからのフレンド申請を許諾する。
すると、こんなメッセージが表示された。
『ノトナメさんをフレンドに登録しました』
ん?
今、なんて表示された?
……のどあめ?
『では、転移する』
緑モヒカンのユーザー名をもう一度確認しようとした瞬間、画面が真っ赤に染まって、先ほどとはまるで違う場所へと転移した。
岩肌が剥き出しの荒野。
誰がどうやって積んだのか分からない、巨大な積み石がアチラコチラに点在している。
20メートル級の巨石が、いくつも積み重なり、塔のようなものがアチラコチラにそびえ立っている。
『ふむ。ゲオル荒野か。悪くない』
『ザッス!』
緑モヒカンが魔王に頭を下げる。
褒められて嬉しいらしい。
尻尾が揺れている。
……あ、尻尾なんか生えてるんだ。
獣人なのかな?
でも、耳も顔も普通に強面のオッサンだし……オッサンが悪ふざけして尻尾つけてるようにしか見えない。
でも、動いてるんだよなぁ。
嬉しそうにぱたぱた、ぱたぱたと。
『えいっ』
『むほぅ!?』
思わず尻尾を掴む。
ムギュッとした質感が視界からもよく分かる、いい感じにもふもふした本物の尻尾だ。
『たっ、高名瀬っ! みだりに男の下半身に触るんじゃない! 恥じらいはないのか!?』
怒られた。
恥じらい…………
『小学生の頃、どこかに落としてきたような……』
『探してこい!』
トゲトゲ鎧で緑モヒカンという厳つい見た目の強面大男に、女子としての恥じらいについて説教されてしまった。
それと同時に――
高名瀬『わたしのフリをしている最中に変なことを言わないでください!(# ゜Д゜)』
高名瀬『落としてきてませんよ!(●`ε´●)』
高名瀬『あと、男性の下半身には今後一切触れないでくださいヽ(`Д´)ノプンプン』
――Chainで高名瀬さんにめっちゃ叱られた。
怒りの顔文字、結構バリエーションあるんだね。
なんてことを思っていると、倫理的な緑モヒカンがびっくりするようなことを言い出した。
『彼氏の前で、他の男に触れるのは控えた方がいい。俺は魔王と敵対はしたくない』
『彼氏じゃない!』
咄嗟に反論したのは魔王。
高名瀬さんなのだが、御岳連国君的には僕が否定したように見えているだろう。
『もしかして、高名瀬の片思いなのか?』
『ちがーう!(# ゜Д゜)』
あ、魔王も顔文字使った。
ちょっと可愛いぞ、魔王。
『付き合っていなくて、高名瀬の片思いでもないのに、なぜ魔王がムキになって反論してくるんだ?』
ワケ分かんないよね。
高名瀬さん。
僕のフリを貫いて。
でないと、すぐにバレちゃうから。
『しかし、モンバスの中ではもう恋人だと認識されているぞ』
『なにぬっ!?』
高名瀬さん落ち着いて!
「なに!?」か「なぬ!?」か迷った結果「なにぬ!?」になってるから!
ちょっと面白いことになってるから!
『フレンド掲示板に画像を貼る。見てくれ』
フレンド同士だと、掲示板を使って画像を送り合うことが出来る。
これで、マップとか暗号とかを共有するんだそうな。
で、その掲示板に貼られた画像は三枚――
――☆――☆――☆――
『すまぬ、待たせたか?』
『ううん。今来たとこ☆』
――☆――☆――☆――
『このローブどうかな?』
――☆――☆――☆――
『ねぇねぇ、似合う? 可愛い?』
『……悪くない』
――☆――☆――☆――
「部室でプレイした時の会話だ!?」
びっくりして声が出ちゃった。
誰かが見てて、それをスクショに撮って、ネット上のモンバス攻略系サイトにリークしたらしい。
『魔王様の恋人現る!』って。
そんなことする人、いるんだね……
『魔王は人気だからな。だから高名瀬、気を付けろよ。お前を潰すと息巻いている魔王ファンが大勢いる。負けるな』
緑モヒカンが言う『高名瀬』=『高名瀬さんのふりをしている白魔導師』、つまり、僕だ。
……はは。
アイドルの彼女って、こんな気分なのかなぁ。
そっとしといてよ、もう。