69 遭遇
改めて、緑モヒカンの大男を見上げる。
一目見て強そうだと分かる。
これが、筋肉の世界。
高瀬さんが好きそうなキャラメイクだ。
あ、そうだ。
高名瀬さんにChainしておこう。
教えてもらったIDにメッセージを打ち込んで送信する。
僕『集合時間前にごめん。今モンバスの中で御岳連国君と遭遇。どうしよう?』
まだ十時だ。
待ち合わせの正午まで二時間もある。
女子の朝は忙しいっていうし、もしかしたら今身支度の真っ最中かもしれない。
朝シャンとかしてたりして……
僕『ごめんね、入浴中に』
高名瀬『入浴なんかしてません』
すぐ返信きた。
僕 (スタンプ)『寝とった?』
高名瀬『……買ったんですか? 大阪ちゃうちゃうのスタンプ』
僕 (スタンプ)『せやで!』
高名瀬 (スタンプ)『さよか』
わぁ、なんか楽しい。
『おい』
『どうした?』
『返事しろ!』
『高名瀬!』
『あ』
『あ』
『あ』
『あ』
『あ』
『あ』
『あ』
あぁっ!?
ゲーム画面で緑モヒカンが大変なことになってる!?
僕『今、目の前に御岳連国君がいて、めっちゃ『あ』って言ってる』
高名瀬『実名で呼ばれてますね?』
僕『ご明察』
高名瀬『モンバス内の暗黙のマナーです』
僕『マナーは暗黙にせず、堂々と告知しておいてほしいなぁ』
高名瀬『とにかく、すぐに向かいます』
僕『大丈夫? まだ集合時間前だけど』
高名瀬『問題ありません。集合時間まで肩慣らしをしていただけですので』
僕『高名瀬さんは、肩慣らしする必要ないと思う』
高名瀬『魔王として恥ずかしいプレイを見せるわけにはいきませんので』
プロだ。
プロがここにいる。
もう、開き直って美少女ゲーマーとして売り出せば、瞬く間に大人気になりそう。
僕『ゲーム上手いし、可愛いし、ちょっと天然だし、胸も大きいし』
高名瀬『おそらくですけど、心に留めておくべきことが文字になって送信されてますよ!?』
おっと、イケない!
僕『ごめん、ついうっかり』
高名瀬『口からこぼれ落ちる人は稀に見かけますが、文字で打ち込んで送信しちゃう人は世界中で鎧戸くんだけですよ』
僕『そんな、オンリーワンの存在だなんて……テレテレ』
高名瀬『褒めてません』
え、そうなの?
高名瀬『あと、先程のメッセージで不服な部分があるので削除を要請します』
不服?
あぁ、あそこか。
僕『ゲーム上手いし、可愛いし、天然だし、胸も大きいし』
高名瀬『削除してほしいところがそのまま残ってます! わたしの「ちょっと」を返してください!』
僕『ゲーム上手いし、可愛いし、天然だし、ちょっと胸も大きいし』
高名瀬『律儀に修正して送ってこなくて結構です! あと、いいかげん「天然」を消してください』
僕『それはそうと、早く来てくれないと、御岳連国君が「高名瀬!ああああああああ」って言い続けてるんだけど』
高名瀬『今行きます!』
僕 (スタンプ)『待っとるで』
高名瀬 (スタンプ)『やかましぃわ!』
急いでいるだろうに、律儀だなぁ、高名瀬さん。
自分のターンで終わらないと「無視したって思われるかな?」って不安になるタイプなのかな?
そんなことを思っていると、僕たちがいる最初の街の広場に、赤いエフェクトが発生し、そこから魔王が現れた。
『貴公らよ。随分と早いではないか』
あ、やっぱり、そのキャラで行くんだね。
『まっ、魔王っ!』
『様』
御岳連国君が魔王を見て感動している。
慌てて敬称を追加しているあたり、彼も律儀なんだろうな。
『たか』
『彼女が先程からしゃべらなくなったのだが』
御岳連国君。また実名言いかけたね?
このゲーム、吹き出しウィンドウとかキャラの頭上とかにユーザーネームが表示されないんだよね。
だから、呼びかける時に名前を呼べないんだよ。
もしかしてあれかな?
個人情報的な?
ユーザーネームくらい公にしてもよくない?
『心配には及ばぬ』
魔王がこちらを向いて、僕を指差すようなジェスチャーを取る。
『その者は、ちょっと天然なのだ』
どやぁ!
って勝ち誇っている顔が容易に想像できるよ、高名瀬さん。
言い返してやったって?
でも残念だね。
『そうか。優等生だと思っていたのだが、天然なのか』
今の発言で、御岳連国君に天然だと認識されたのは君なんだよ、高名瀬さん。
墓穴、掘ってるよ。
そういうところが、ちょっと天然なんだよなぁ、高名瀬さんは。