表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/111

60 折衷案

「いいですか、鎧戸君。敵は10メートルを超える巨大なモンスターなんですよ? こんな貧弱な筋肉では一瞬で喰われます!」

「ヴィジュアルはステータスに直接関係しないはずだよね!?」

「気持ちの問題です!」


 言いながらも、高名瀬さんは慣れた手つきで新たなキャラクターをビルドしていく。

 どこにどんなパーツがあるのかを完全に把握しているように、迷いなく指を動かし続け、物の四十秒で新たなキャラクターが誕生した。


「このようなキャラクターでいかがでしょうか?」


 そこに表示されていたのは、色違いの魔王デスゲートだった。


「じゃ、リテイクで」

「ヒドイです!?」


 有無を言わさずキャラクターをリセットする。

 ヒドイ?

 これで貸し借りはチャラだよ。


「いいかな、高名瀬さん。君が、先日行われたモンバス世界大会の覇者、魔王デスゲートであるということを隠すための作戦なんだよ、これは? なのに、君自らが魔王に寄せに行ってどうするの? むしろ、最初に僕が提示したような、魔王とは真逆のキャラクターを使っていると思い込ませることこそが、君の正体を隠すことにつながるんだよ!」

「それは……そのとおり、なのですが……」


 なんでそんな不服そうな顔してるのかな?

 そんなに筋肉キャラにしたいの?

 どうしても!?


「ミズ・タカナセ! リピート、アフター、ミー!」

「へっ、い、イエス!」

「ノー筋肉! ノーライフ!」

「鎧戸君、それだと、筋肉至上主義になっていますよ」


 あれ、そうだっけ?

 筋肉がなけりゃ人生じゃない――って意味になるんだって、高名瀬さんが若干優しい口調で教えてくれた。

 ……憐れまれた?


「とりあえず、魔王とはイメージがダブらないキャラにしとこうよ」

「では、折衷案として、ムキムキの女性キャラではどうでしょうか?」

「どんだけ好きなの、筋肉!?」


 高名瀬さんの理想の男性ってマッチョなのかな?

 あ、そうか、魔王なのか。


「分かった。高名瀬さんがそこまで言うなら、マッチョは譲りましょう」


 別に、僕がずっとそのキャラを使ってプレイするわけではない。

 次の日曜日、一回だけ御岳連国君とプレイする時に使用するだけのキャラだ。

 ムキムキで妥協しましょう。


「ただし、魔王のイメージからかけ離れるように、語尾には『にゃん☆』をつけるように!」

「なんでですか!? 嫌ですよ、そんなの!」

「『嫌です』じゃない! 『嫌にゃん☆』だよ! はい、リピート、アフター、ミー、『嫌にゃん☆』」

「い、いやにゃん……」

「スパシーボ! ミズ・タカナセ!」

「スパシーボは英語じゃありません!」


 ちょっと赤く染まった頬で抗議してくる高名瀬さん。

 ゲーム内ではチャット機能を使ってプレーヤー間で会話が出来るらしい。

 プレイ中、ずっと高名瀬さんが語尾に『にゃん☆』をつけていてくれると、個人的には物凄く嬉しい!


「……分かりました。鎧戸君の初期案で構いませんので、語尾は普通にします」


 言うが早いか、先程無慈悲にもリセットされ、完全にこの世から消え去ったと思われたネコ耳ロリ巨乳白魔道士が画面上に復活していた。

 え、一回作ったキャラメイクは記録されるの?

 あ、そうなんだ。

 便利だね~。


 ……そんなに嫌かな、『にゃん☆』?


「ただ、ステータスを均等に割り振ると成長が遅くなるので、そこは手を加えさせてもらいます。大丈夫です。守備力など、攻撃をすべて躱せば『0』でも問題ありません」


 などと、自分の所属する隊の部隊長だったら闇討ちしてでもその座から引き摺り下ろしたくなるような恐ろしいことを言って、高名瀬さんは僕のキャラのステータスを変更していった。


 素早さと魔法力を大きく上げ、気持ち程度にHPを増やす。


「これで、ひたすら逃げ続ければデスペナを食らうことはないでしょう」


 デスペナとは、敵にやられてキャラクターが戦闘不能になると、蘇生する代わりにステータスに制限がかけられる『デスペナルティ』の略だ。

 貴重なアイテムをロストすることもあるらしく、プレーヤーはなるべくモンスターにやられないようにプレイするものらしい。


「では、食事をとりながら特訓開始です!」

「いや、食べてからにしようよ!?」


 どちらにせよ、パンを食べながらコントローラーは握れないんだから。


「では、時間がありませんので補給時間は二分とします。開始!」

「どこの特殊部隊なの、ここ!? そして高名瀬さん、食べるの早い! ちゃんと噛んで!」


 鬼の高名瀬教官に急かされ、二分でパンを二つ食べ終えた僕は、予鈴が鳴るまでひたすらゲームの操作を反復練習した。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
高名瀬さんは語尾に「にゃん」を付けた。 私はにやにやした。 高名瀬「にやにやしないでにゃん!」 高名瀬さん、筋肉が好きならおすすめのラノベ(なろう作品)がありますよ。 頼れる兄貴面で上からぐいぐい…
逃げまくるにしたってプレーヤースキル無いと逃げ続けられないじゃんよww
紙装甲の回避型戦闘職。どこかで見たことあるような話だけれど、技術が伴ってはじめて実現できる話ではないのかなw 中身入れ替わっているのだから、語尾にゃんなら、彼がにゃんつけないといけなくなってしまうのだ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ