59 リテイク
昼休み。
僕たちは時間差で教室を出て部室へ向かった。
先に着いた僕は、昨日買ったばかりのアタッチを起動させて、モンバスのステータス画面を表示させておく。
昨夜、「もし高名瀬さんが初めてプレイするなら」という想定のもと、女の子らしさを詰め込んだビルドをした女性キャラが画面に表示されている。
ネコ耳で背が低く、高名瀬さんと同じく胸元にたいそう雄大な膨らみを携える白魔道士の女の子。
初期装備の「白魔道士のローブ」が可愛くて、僕的にはかなりお気に入りのキャラクターに仕上がっている。
はっきりって自信作だ。
最初にもらえるポイントでステータスを自由に伸ばせる仕様だったので、攻撃力、防御力、敏捷性、魔法力を均等に上げておいた。
これで、どんな方向性のプレイスタイルでもやっていけるだろう。
「お待たせしました。購買が少し混んでいまして」
と、袋いっぱいの菓子パンを抱えて高名瀬さんが部室へやって来る。
ちなみに、教室を出たのは高名瀬さんの方が五分早い。
……今日もまた盛大に買い込んできたね。
どんだけゲームしてたの、授業中に。
「違うんです。今日は私もアタッチでモンバスをプレイしていたので、実は充電はそこまでしていないんです」
ペアモンと違い、最新ゲーム機でプレイするモンバスの場合、本体の充電はそこまで頻繁に行う必要はないらしい。
では、なぜそんなにも菓子パンを買い込んできたのか……
「今日は、諸事情により寝坊をしまして。お弁当を作っている時間がなかったんです……」
と、少し膨れて、なぜか僕を睨む高名瀬さん。
僕にはなんの責任もないと思うんだけど?
「それよりも、少しは操作に慣れましたか?」
「それが、キャラメイクに三時間もかかっちゃって、プレイしている時間がなかったんだよ」
時間がなかったというよりか、キャラが出来上がった時点で気力が尽きたという方が正解かもしれない。
「見せていただいて構いませんか?」
「うん。一応、高名瀬さんが初めてプレイするならって想像して作ってみたんだ」
と、昨夜完成したばかりの白魔道士を高名瀬さんに見せる。
――と、高名瀬さんの眉間にシワが寄った。
……おやぁ?
「『高菜SAY』?」
「あ、うん。名前を何にしようかなって思ったんだけど、やっぱり高名瀬さんのキャラだって思い込ませなきゃいけないじゃない? だから、高名瀬さんだとギリギリ分かる程度に共通点を持たせつつ、個人情報をきっちりと秘匿できる名前にしてみたんだ」
「思いっきり高名瀬ですよ、この名前は!?」
「いやいや、『たかなセイ』だよ」
「ドン滑ってますよ」
「そんなことなくない!? それに、お花の名前だから女の子っぽいし」
「自分の使うキャラクターに花の名前を使って女の子アピールするのは自称天然系の地雷系女子だけです」
「それは偏見だよ、高名瀬さん!?」
お花の名前のプレーヤーに何か嫌なことでもされたの!?
「それに、高菜は花の名前ではなくおにぎりの具です」
「決めつけだよ!? おにぎり以外にも使い所はいくらでもあるんだよ、高菜は!」
「たとえば、なんですか?」
「…………混ぜご飯とか」
「ほぼおにぎりじゃないですか。握ってないだけのおにぎりです、それは」
混ぜご飯を握ってないおにぎりだなんて、暴言が過ぎるよ、高名瀬さん!?
「そしてこちらが、高菜のおにぎらずです」
「そんなの売ってるの、ここの購買!?」
市販のおにぎらずって初めて見た!
握ればいいのに!
握っといた方が多少嵩も減るし、輸送の時も安心だろうに!
「そして高名瀬さん、高菜好きでしょ、実は?」
「それは、今はどうでもいいことです」
と、高菜のおにぎらずを袋にしまい直す高名瀬さん。
わざわざ選んで買ってくるくらいには好きなんだよね、高菜?
「鎧戸君の性癖に関しては、この際ですので言及を避けますが……」
「性癖とかやめてくれる!? 何か不都合でもあった?」
すごく可愛くキャラメイク出来たと思うんだけど?
「いいですか、鎧戸君。……ロリ巨乳なんて都市伝説ですよ」
「そこはファンタジーなんだからいいじゃない!」
「えぇ、ですから、鎧戸君の性癖には言及しないと申し上げました」
「敬語のレベルが一段階上がって距離出来てないかな、今!?」
心なしか、高名瀬さんがちょっと椅子を引いた気がする。
「露出好きだけではなかったんですね」
「違うよ、僕の部屋の本棚にあったマンガは、あくまでストーリーが面白くて購読しているものであって――」
「『ハーレム』『奴隷』『うっはうは』」
「タイトルのキャッチーな部分だけ列挙しないで! ……って、『うっはうは』はなかったはずだけど!?」
この人、さらっと捏造してくる!?
しかも、第三者が聞いたらすんなりと信じてしまいそうな巧妙な感じのヤツを!
「とりあえず、キャラメイクはリテイクで」
言いながら、高名瀬さんは容赦なく僕の三時間の結晶をデリートした。
……ヒデェ。