05 高名瀬さんの秘密その6
「それで、高名瀬さんはこの部室で何がしたいの?」
勝ちを確信してほくそ笑む高名瀬さん。
そうまでしてこの部室でしたいこととは?
「とりあえずゲーム機の充電がしたいです」
「そんなにバッテリーのもちが悪いの?」
古くなったゲーム機は、バッテリーの減りが早くなるとはいうけれど。
「プレイ時間に比例してバッテリーが減るのは当然じゃないですか」
顔を背け、視線を逸らし、言い訳するように早口で吐き捨てる。
……その態度。まさか。
「高名瀬さん、授業中もゲームしてる?」
高名瀬さんが大きく目を見開く。
その瞬間、両頬に『ぎ』『くっ』という文字が浮かんで見えた。
「……優等生だと思っていたのに」
「お、思うのは、そちらの勝手です。わたしは、優等生だなんて一度も主張したことはありません」
忙しなくメガネをくいっくいっと上下させる。
やはり、誤魔化しが下手すぎる。
「今度じっくり観察させてもらいます。僕の席、高名瀬さんの斜め後ろですから」
「やめてくださいっ! 視線って、意外と他人に気付かれるんですからね!」
僕が高名瀬さんに注目していると、向かい合って立つ教師が「何事だ?」と高名瀬さんに注目するようになるのだという。
……結構堂々とやってるっぽいな、ゲーム。
常習犯か。
「そ、それからもう一つ」
下手な咳払いで下手くそに話題を変えて、高名瀬さんはもう一つこの部室でやりたいことを挙げる。
「体育の時、着替えに利用したいです」
なぜこんな遠いところで……とは、聞かなかった。
理由は、やはりアレだろう。
「見られたくないから、かな?」
高名瀬さんの胸の谷間には、コンセントがあった。
それは、どこのご家庭にもついているような、縦長の穴が二個並んだ、よく見かける形状のコンセントだった。
「あの、これは決して興味本位とか、からかうつもりで聞くんじゃないんだけど、見ちゃった以上はスルーできないからさ……」
僕が言葉を発する度に、高名瀬さんの表情は険しくなっていく。
なんだか、今にも泣きそうだ。
「……アレって、本物、なの?」
なるべく感情を刺激しないように、優しく聞こえるように声を発する。
僕は、君の身体についてどうこう言うつもりはないよと、伝わればいいなと思いながら。
「……はい。本物、です」
静かな教室の中ででも、うっかりと聞き逃してしまいそうなほど小さな声で、高名瀬さんはその事実を肯定した。
高名瀬さんの胸の谷間のコンセントは、本物である――と。
「それじゃあ……さ」
高名瀬さんの持つゲーム機から伸びるコードをたどり、柱のコンセントに刺さっているACアダプターを引き抜く。
手にすっぽりと収まるほどの大きさではあるが、やはり少々重い。
USB充電が主流になる前の、旧タイプのアダプターだ。
これを教室のコンセントに挿していれば、きっと目立つだろう。
だから教室では充電できない。
それは分かる。
でも、人目を忍んで充電が出来る方法がもう一つある。
「そのコンセントにコレを挿したら、充電って出来ないのかな?」
高名瀬さんの胸の谷間に存在するコンセントは、本物であると本人が認めた。
何をもって本物とするか。
おそらく、多くの人がコンセントを本物と認識するのは、そこから電力を得られた場合だろう。
形だけ同じでも、電力が得られなければ、きっとそれは『ダミー』と呼ばれるはずだ。
ならば、おそらく高名瀬さんのコンセントからは電力が得られるはず。
僕のその推論を肯定するように、高名瀬さんは小さく頷く。
「出来ます……でも」
言って、口をつぐむ。
発言をためらう。
言いたくなさそうに、眉根を寄せて視線を逃がす。
この表情…………あっ!?
「もしかして、胸の谷間のコンセントに異物を挿し込むのはエッチなことなの!?」
「違いますよっ!? この穴はそんな卑猥な穴じゃありませ――何を言わせるんですか!?」
瞬間沸騰したように顔全体を真っ赤に染めた高名瀬さんが、ACアダプターを振りかざして殴りかかってくる。
「待って待って! それはモーニングスターじゃないから!」
鎖に繋がれたトゲトゲの鉄球で敵の頭蓋骨を粉砕する恐ろしい鈍器、モーニングスター。
ゲームではおなじみの強力な武器ではあるが、ゲームの充電用ACアダプターはソレではない!
素晴らしい動体視力で見事に両手キャッチできた自分を称賛してあげたい。
「なんだか、言いにくそうにしてたから、もしかしてソッチ系の理由なのかなって? 胸の谷間にあるコンセントだし」
「場所は、関係ありません。言いにくく思っていたのは、その……このコンセントを使うと、物凄くお腹が空いてしまうからで……」
高名瀬さん曰く、胸の谷間のコンセントから電力を供給すると、その使用量に応じて物凄くお腹が空くのだとか。
大食い女子と思われたくなくて言い淀んでしまったらしい。
またしても、可愛らしい一面を発見してしまった。
「胸の谷間のコンセントだから、胃に影響が出るのかなぁ?」
「あのっ、わざわざ『胸の谷間の』って言わないでください!」
いや、情報は正確に発信した方がいいんじゃないかと思って。
「学校で使うと、大食い女って思われそうで……お菓子の持ち込みって基本禁止なので持ち込むのが大変なんですよ」
「ということは持ち込んでいるわけか……どんだけゲームしてるのさ、日中」
「ぅぐ……っ!? て、適度に、です」
絶対違う。
「3つ目の使用用途として、非常食の保管庫として活用したいです」
「ちょっと調子乗り始めてるでしょ、高名瀬さん?」
【高名瀬さんの秘密その6】
高名瀬さんは、結構したたか系残念女子。