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04 高名瀬さんの秘密その5

「実は……一昨日、鎧戸君が旧校舎に入っていくのを見かけて……」


 それで、後をつけたと。


「僕が旧校舎で何をしていたか、見ましたか?」

「い、いいえ! 入っていくところを見ただけです! 『探さないで』って言ってたから、つけちゃマズいかと思って……その日は、それで帰りました」


 律儀な人だなぁ。


「でも、昨日のお昼休み、ゲーム機の充電がなくなって……それで、旧校舎なら誰にも気付かれずに充電が出来るんじゃないかって……」


 それで、旧校舎へやって来たらしい。


「でも、どの教室も鍵がかかっていて、開いていたのは、この教室だけで」


 旧校舎三階の右端。

 僕の隠れ家となっている、この教室だ。


 基本、鍵はかけないようにしているからなぁ。


 鍵の持ち帰りは禁止になっているので、開ける時は職員室にいちいち鍵を取りに行かなければならず、帰る時も鍵を返しに行かなければならない。

 それが面倒で、開けっ放しにしているのだが……そのせいで高名瀬さんに入りこまれてしまうとは。


「一応、ここ、部外者立入禁止なんだけど」

「……鎧戸君は、関係者なんですか?」


「お前も不法侵入してるんじゃないのか?」と、同じ穴のムジナを見るような目でこちらを見てくる高名瀬さん。


 一応、僕は許可を取ってるんだけどな。


「ここ、部室なんだよ」

「部室? 何部のですか?」

「……何にしよっか?」


 一応、部室という体で学校から使用許可を取ってはいるが、部員を増やす予定も、公表する予定もなかったため部活名を決めていなかった。

 必要なのは部室だけで、実績などなくてもよかったので。


「……嘘なんですか?」

「いや、嘘ではないんだけど……」


 活動実態がないことは確かだ。

 しかし、今後似たようなことが起こって問題に発展すれば、部室を取り上げられることもあるかもしれない。

 嘘でも方便でも、名前をつけておく必要がありそうだ。


「忍び部、とか?」


 世間の目から身を隠すための部室なので。


「では、活動の成果を見せてください」


 追求の目が厳しい!?


「わたし以上に気配を消せますか?」


 そして、気配消しに一家言持ってるっぽい!?

 もしかして、僕が高名瀬さんの名前を覚えてたの、地味に怒ってます?

 クラスメイトの名前を覚えるのって、割と礼儀だと思うんですけども!?


「えっと、忍び部は今適当に名乗りましたが、ここが部室であることは事実です」


 思わず敬語に戻って弁明してしまった。

 出来ることなら穏便に、この場所のことは内密の上で、高名瀬さんには今日のことを黙ったまま明日からも学生生活を続けてほしい。


 叶うなら、もう二度とこの教室には来ないようにして。


「では、わたしも入部させてください」

「えっ!?」

「何か問題がありますか? 学校に認可された部活動であれば、わたしが入部することも可能なはずですが」


 小難しい言い回しと共にメガネをくいっと持ち上げるのその仕草、とっても優等生っぽい!

 下手な反論はすぐさま論破されてしまいそうだ。

 何より、僕はさほど論争が得意ではない。


 なので、理屈ではなく、感情に訴えかける。

 高名瀬さんの方から入りたくないと思わせるような言い訳を――そうだ!


「実は、この部活はとっても卑猥な活動を行う部なんです!」

「では、そのことを教育委員会へ訴えます」


 強い!?

 この人、ディベート滅茶苦茶強い!


「……心配しないでください」


 がっくりと項垂れる僕に、高名瀬さんは優しく語りかける。


「鎧戸君が何らかの理由をもってこの人目につかない旧校舎の教室を利用していることは、なんとなく分かります。それを邪魔するつもりも、誰かにバラすつもりも、わたしにはありません」


 僕のあまりの落ち込みように同情してくれたのかもしれない。

 高名瀬さんはちょっと困ったような顔で、それでも優しく微笑んでくれていた。


「ただ、わたしに弱みを握られていることを自覚し、わたしのやることにも余計な口出しをせずに黙認してくれればそれでいいんです」

「発言が腹黒い!?」




【高名瀬さんの秘密その5】


 高名瀬さんは、優等生な見た目に反して案外腹黒い。







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― 新着の感想 ―
まさかあんなに律儀で可愛い高名瀬さんが実は腹黒だったなんて…… 優しい微笑みでとんでもない人だったんですね、高名瀬さん。 あと、鎧戸君。言い訳のためとはいえ「卑猥な活動を行う部活」だなんて……えっ…
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