02 高名瀬さんの秘密その3
いろいろと聞きたいことはある。
だが、ろくに口も聞いたことがない異性の同級生相手に、いきなり身体のことを尋ねるのは、たぶん、なんか違う、と、思う。
なので、当たり障りのない話題を振ってみる。
「えっと、高名瀬さん。僕のこと、知ってる?」
「え? あ……はい。鎧戸君、ですよね? 同じクラスの」
よかった。
認知はされていたようだ。
それにしても、なんだか驚かれたような?
「逆に、わたしのことを知っていてビックリしました。わたし、存在消せてませんでしたか?」
そんな、忍者じゃないんだから。
「どんなに気配を消しても、教室にいれば気が付くよ。自己紹介もしたしさ」
梅雨も明けて初夏の雰囲気もそこそこに、空気は熱を帯び始めて衣替えをしたシャツ一枚のこの格好でもうっすらと汗をかくような毎日。
高校に入学したのはもう三ヶ月も前だ。
自己紹介が行われたのも、それだけ前ということになり、高名瀬さんがどんな自己紹介をしたのか、申し訳ないけれど僕はもうすっかり忘れてしまっている。
「鎧戸君の自己紹介、覚えてます……『僕が行方不明になったら探さないでください』っていう」
「あぁ、あれは、まぁ……半分ギャグっていうか」
半分は本気なんですが。
「その……自傷願望のある人なのかなって」
「とんでもない! 僕の座右の銘は『いのちだいじに』です!」
おのれでおのれの命を絶つような行為は想像したことすらない。
ただ、日常的に結構な確率で行方不明になると思うから、そんな時は騒がないでくださいねと、そう伝えたかっただけで。
「授業とかを躊躇いなくサボります。――っていう宣言なんです、アレは」
「サボっちゃ、ダメ……ですよ?」
あぁ、さすが真面目っ子。
優しく叱ってくれる感じが、なんかこう、堪んないです。
少し癖っ毛の髪はセミロングで、余り手入れを入念にされていない感じでやや乱れ気味。
前髪は長くて、折角の可愛らしい顔を隠してしまっている。
メガネをかけていることも相まって、高名瀬さんの顔は、こうやって向かい合って少々覗き込まないとその全貌を拝むことは難しい。
せめて、俯くのをやめてまっすぐ前を向いてくれればいいのに。
「目、悪いの?」
「あっ、あの、これは……はい、悪いです」
何かを言いかけてやめた。
「もしかして、ブルーライトカット? 高名瀬さん、ゲームとかパソコンとかよくやる人?」
「そ、……んな、ことは……別に」
と、手に持ったゲーム機を再び背中の後ろへと隠す。
いや、今さら隠すとか、もう無理ですよ。
わぁ、口笛吹き始めちゃった。
誤魔化すの、下っ手!?
で、その口笛、ゲームのBGMですよね、たしか?
どっかで聞いたことあるなぁ、その曲。
なんだっけ……?
「あっ、ペアモンだ」
ペアリングモンスターという、僕が小学生の頃に流行ったゲームがあった。
モンスターと戦闘して、捕まえて、いろいろなモンスターをペアリングさせて子供を産ませるという、ブリーダー系RPGで、当時物凄く流行ってたっけ。
そんなことを思っていると、高名瀬さんが背中に隠していたゲーム機を、今度は胸に抱いて真っ赤な顔でこっちを睨んでいた。
「み、見たんですか? えっち!」
胸元見た時には言われなかった言葉が、ゲーム画面を見た疑惑で飛び出した。
誤解ですし、人聞きが悪いです、高名瀬さん。
でも、その表情と「えっち!」って発言はとっても美味しいです。ありがとうございます。
【高名瀬さんの秘密その3】
高名瀬さんは、眼鏡越しの上目遣いの破壊力がすごい。