110 ハウリングとソナー
姉に、「脱線するから要点だけを掻い摘んで話せ」と命令されて、偉そうに……と反発心が生まれかけたところへ、「ハンバーグが遠のくぞ」と言われ、僕は可能な限り掻い摘んで要点だけを話した。
戸塚さんとオタケ君が「ハンバーグ?」と小首を傾げていたが、そんなものは気にしない!
僕には、美少女クラスメイトの手作りハンバーグが待っているのだ!
こねこね、ぺっちん☆
「というわけで、バッテリーを使って”ひき肉をこねるように”車を追い抜いて、車を”つなぎに食パンを入れるように”持ち上げて、車のフロント部分を『こねこね、ぺっちん☆』したんだよ」
「意識の半分がハンバーグに占領されてる部分を除けば、概ねよくまとまった内容だったぞ、弟」
そこから先は、バッテリーが切れて意識を失ったので覚えていない。
話せることはみんな話したかな。
「あの、鎧戸君」
高名瀬さんが、僕を見つめて……うわ、なんだろう、その目、うるうるしててすっごいキュンってする。
「きゅんっ」
「い、いちいち感想を口にしないでください! 普通に見てるだけです……っ」
顔を逸らされた。
見ててほしいのに。
あ、高名瀬さんのお隣の戸塚さん?
君はこっち見ないで。
なんか、君に見られてると、HPがちょっとずつ減っていく気がするんだよね。
呪いとか、発してない?
「えっと、よくあの短時間で見つけてくれましたよね? 結構奥の路地まで連れ込まれたと思ったんですが」
「あぁ、それは――」
僕は、高名瀬さんが襲われるであろう場所を特定した時の自身の推理を語って聞かせ、そして現場に着いてから高名瀬さんを探し出した方法を教える。
「ハウリングとソナーを使ったんだよ」
「はうりんぐと、そなー?」
わぁ、可愛い。
「きゃわゎ」
「もういいですってば!」
だって、小首を傾げて「そなぁ?」だよ!?
こんなもん、誰がどう見たって可愛いじゃないか!
「話が長引きそうだから、今日のランチはあたしが作ろうか」
「大きな声が出せるのと、小さな囁きも聞き取れる能力です、以上!」
「いや、待て鎧戸! もう少し詳しく、じっくりと話を聞かせてくれ!」
「粘って姉の料理を食べたいのかもしれないけれど、姉の作れるものはレトルトだけだよ、オタケ君!」
「それでも構わん!」
「最悪の場合、店屋物になるよ!」
「手料理には変わらん!」
「その手料理は、店のおじさんおばさんによるものだから、目を覚まして!」
縋りついてくるオタケ君を足蹴にして――えぇい、力が強い! バッテリーオン!
「ずぐゎあっ!?」
オタケ君が吹っ飛んだ。
「バッテリーの無駄遣いをしないでください!」
「こりゃあ、バッテリー切れが頻発しそうだね、今後」
高名瀬さんと姉が呆れてこちらを見ている。
そもそも、姉が不吉なことを言うからこうなったというのに。
あと、戸塚さん。
静かにへこまないで。ちょっと心がチクチクするから。
ごめんね、こんな姉のせいで。
「えっと、ハウリングって言って、体内で音を増幅させて爆音を『発声』する能力があって、それで高名瀬さんに呼びかけたの」
あの近辺にいれば、反応があるかと思って。
「で、その後はソナーに切り替えて、耳を済ましてたんだ。小声でもなんとか拾えるけど、高名瀬さんが頑張って大きな声出してくれたから、すぐに見つけられたよ」
「ちゃんと聞き取ってくれたんですね、わたしの声」
「うん、バッチリ。鎧戸ソナーは地獄耳、ってね♪」
なんか、昔のアニメでそんな歌があったような気がする。
うろ覚えだけど。
「よし、僕が話せる情報は以上だよ! いざキッチンへ!」
「じゃあ、次にポーちゃんから見た状況を聞かせてくれる」
「ハンバァーーーグ!」
「うっさいな! まだ話は終わってないし、まだお昼には早いでしょうが!」
じゃあなぜさっき飯の話をしたんだ、姉!?
僕の口と僕の心は、もうすでにハンバーグ一色だぞ!
「ちゃんっと作りますから、もうちょっと待っててください」
ほっぺの赤い高名瀬さんに睨まれた。
照れ睨み…………いいっ!
そして、これがかの有名な――
「ご飯、もうすぐ出来るからもうちょっと待っててね」
――というヤツか!?
「尊い!」
「いや、まだ作ってねぇから。いいから座れし、鎧戸」
あ、戸塚さんがややギレしてる。
ギャル語戻ってきちゃってるなぁ。
さっきまでの口調の方が可愛くて好きだなぁ~僕ぁ。