104 百聞は一見に
「さて、どう説明したものか……」
と、腕を組んで数秒思考した姉。
「説明が難しいから、とりあえずお尻と乳首出して、二人とも」
「責任ある成人女性の発言とは到底思えないぞ、姉」
バカなのか、ウチの姉は。
あぁ、バカなのか。
非常に残念だ。
「見慣れてる高名瀬さんはともかく、戸塚さんは見たくないと思うよ、僕のお尻なんて」
「異議ありです、鎧戸君! 非常に聞き捨てならない発言がありました! 訂正してください!」
「なるほど、分かったよ高名瀬さん。自分を卑下するのはよくないって言いたいんだね。じゃあ――いくら僕のお尻が可愛いと言えど、戸塚さんが見たいとは限らない!」
「そうじゃないですし、なんかいろいろ違いますよ、鎧戸君!」
「自分なんて」と卑下するのはよくないって言いたいんじゃないの?
あぁ、違うっぽいなぁ、あの顔は。
「でも、戸塚さんもこんなに嫌がってるじゃない。両手で顔を隠して――」
と、姉が尻と乳首を出せと言った直後に両手で顔を隠した戸塚さんを見ると――指の隙間からめっちゃこっちを見ていた。
「興味津々?」
「そっ、そんなこと、な、ないしっ!」
真っ赤な顔で否定してくる、戸塚さん。
その必死さが逆に怪しい。
「ち、違くって! なんていうか、その……そういうの、見たことがないから、興味が、多少……」
「おぉ……、むっつりだ」
「違うわよ!」
「そういえば、りっちゃん。誰よりもわたしの胸を見ようと必死だったような……」
「ちょっと、ポー! ここでそんな情報引っ張り出してくることなくない!?」
真っ赤な顔で高名瀬さんに飛び掛かる戸塚さん。
あぁ、わちゃわちゃしてる。
「こりゃ収拾がつかないね」
と、他人事のように呟く姉。
そもそも、貴様の発言が発端だからな、このわちゃわちゃしい空気?
「分かった。とりあえず、羞恥心というものがないシュウのから見せよう」
「あるわ!」
「羞恥心があったら、ポーちゃんの前で何度もお尻見せられるわけないでしょう?」
「異議あーり! 見てませんから、一度も!」
高名瀬さんが物凄い勢いで反論してくる。
え、一度も?
本当に?
「まぁとりあえず、ちょっと見てて」
とか言いながら、姉が僕のベルトを外し始める。
おいおいおいおい! 何をする気だ姉!?
「前も後もぽろりするぞ!?」
「前はぽろりさせんわ」
僕のベルトを緩めて、ズボンのボタンをはずし、緩んだ腰回りから手を突っ込んでくる。
そんな姉弟の絡みを、女子たち&オタケ君は真っ赤な顔で見つめていた。
見られているこの羞恥!
ほらみろ、姉!
あるから! 僕にも羞恥心あるから!
「ほいっ」
「ぅひゃぅん!?」
姉が強引に僕のコードを引っ張ったせいで、背骨を『ぞわぞわ』が駆け抜けていって、変な声が出てしまった。
……おのれ、クラスメイトの前でなんて声を出させるんだ……姉め!
「シュウのお尻には、このような電源コードがついていて、このプラグをコンセントに挿入すると体内のバッテリーに充電できるのよ。ね、ポーちゃん」
「そ、そこで、こちらに話を振らないでください……っ」
高名瀬さんが物凄い速度で顔を背ける。
顔が限界を超えるくらいに真っ赤だったせいか、夜の高速を流れるテールランプみたいに赤い尾を引いて見えた。
「じゃ、シュウ、しまっといて」
「雑だな、扱いが……」
引っ張り出したコードを僕の手に持たせて、「しっしっ」と手を振る姉。
こいつ、いつか思い知らせてやる……
「それで、次はレン君なんだけど……」
姉が手を伸ばし、オタケ君の頬に触れる。
瞬間、オタケ君は体を硬直させ、置物のようにピクリとも動かなくなった。
「まさか、電源とかスリープボタン的な!?」
「いや、これはただの緊張。純情ボーイなんだよ、レン君は」
ならその純情を弄ぶんじゃねぇよ。
頬っぺたをさわさわすんな!
「みんなに見せてあげても、いい?」
「は、はい! せ、せんせいが、そのほうがいいと、おもわれたのであれば!」
オタケ君がポンコツな兵隊みたいに。
口調だけ兵隊。
他は全部ポンコツ。
「じゃあ、見せるけど……みんな、レン君の症状については――」
そこで、姉の表情が変わり、凄みを増す。
「絶対に、口外しないように」
いつになく真剣な表情と声に、僕まで息をのんでしまった。
「レン君の能力が外部に漏れると、冗談じゃなく……この国が滅びかねないからね」
言いながら、動かないオタケ君のシャツのボタンを手慣れた様子で外していく姉。
というか、なんでそんなに慣れてるんだ?
片手でするするボタンを外していく姉。
貴様、年下のメンズを篭絡してたりしないだろうな?
あっという間にすべて外されたオタケ君のシャツ。
シャツがはだけて、以前シャツ越しに見たスポブラが姿を現す。
「……すぽぶら?」
と、戸塚さんが困惑の声を漏らす。
まぁ、驚くよね。
しかし、こちらの戸惑いなど気にせず、姉の手はそのスポブラに伸びる。
そっとスポブラの下部を摘まみ、それを持ち上げる。
「きゃっ」と、戸塚さんが短く悲鳴を上げて両手で顔を覆い隠し、指の隙間からばっちりとガン見する。
……戸塚さんのむっつり。
「……え?」
顔を真っ赤にする戸塚さんとは対照的に、高名瀬さんは怪訝な表情でオタケ君の乳首を見ている。
僕もそれに倣って視線を向けてみると――
オタケ君の乳首が、非常にメタリックだった。