僕にとっての非日常
僕、黒羽透は春明けの日曜日、最悪の目覚めだった、ここ半年くらい真隣の土地で工事があり、そのおかげで休みの日は良い迷惑だった
(平日は工事が始まる前に家を出るためそれほどでもない)
隣に家でも立つのだろうか、そんなことを思いながら重い体を上げて朝風呂に入る、やはり朝の風呂は最高だ、眠い体を起こしてくれる、今は春休み、次から高校2年生だ、次のクラスはどんなのだろう、どうせ関係ないが、透はそう考えていた。
4月10日、今日は快晴だ、学校が始まりクラス替えが行われて、クラス替えが済みある程度の自由時間が始まるとクラスのみんなは互いに挨拶や変哲のない会話を始める、そんな中、僕はある事に疑念を抱いていた、隣の席が空なのだ、何故?と思ったがもしかして転校生が来るのだろうか、それとも訳ありでここの人がいないのだろうか、そんな事を話す相手も居なく暇だったので綺麗な空を見て物思いに耽っていた、そこから1ヶ月が過ぎた。
5月23日、今日は転校生が来るらしい、予想的中か?そんな事を思っていた、そしてホームルームの時間、担任が生徒に説明し終え転校生が入って来た、その髪は金髪で、思わず見てしまう蒼い目をしていてとても美人な人だった
「ナマエハ、サラ・シュナイザー...デス、
コレカラヨロシクオネガイシマス、
デキレバ、サラ、トヨンデホシイデス
ニホンゴハ、ベンキョウチュウナノデ、
ガンバリマス」
彼女は拙い日本語でそう言った、
その後に続き担任が、
「彼女はドイツ生まれでドイツ育ちだけどどうやら母親が日本人らしくてサラという名前は漢字で書くと沙羅っていうらしいぞー」
担任はそんな事を言った、自己紹介が終わり席を指定された、そこは僕の隣だった、案の定、と言うべきか、透はそんな事を考えていた、放課後、シュナイザーさんはクラスメイトに質問攻めにあっていた、
「なんでこっちに来たのー?」
「この後遊びに行かね?」
などたくさんだった、その度にシュナイザーさんは
「オトウサンノヨウジデ...」
「ゴメンナサイ、キョウハヨテイガ」
など拙い日本語で必死で会話をしている様を見てうっかり笑いそうになったが堪えた、彼女は、まさに高嶺の花という言葉がピッタリだった、とはいえ何もクールでは無くて逆に日本語を話せない分表情が豊かでとても可愛らしかった、透は家に帰ろうと学校を出て電車に乗り最寄り駅に着いた、そこからは徒歩だったが、不思議な事にシュナイザーさんも後ろをついて来ていた、透は疑問符が頭の中に浮かんでいた、
何故ついてくるんだ?もしかして聞きたい事でもあるのか?
と思っていたが違うっぽいので、一旦道を逸れてシュナイザーさんをやり過ごしてその後、尾行する形になってしまった、そして驚愕の事実を知った、どうやらようやく工事が終わったという隣の家にシュナイザーさんが入っていったのだ、透は困惑が隠し切れなかった、だって高嶺の花のシュナイザーさんがお隣さんだったなんて家に帰り母親に話をすると、どうやら母は知っていたらしい透はいつも割と早く学校に行くため家を出るのが早く、そのため透が家を出た後、お隣さんに挨拶として来ていたらしいのだ、透は次の日学校に行こうと家を出ると、偶然なのか、ほぼ同じタイミングでシュナイザーさんも、家を出た、家を出てすぐばったりあった2人は少々気まずくなったが、透は勇気を出してほぼ数年ぶりくらいに女子に話しかけた、
「おはよう、家も隣だったんだね、これからよろしくね」
透は緊張のあまり変になっていないかと思ったがそれは杞憂で、シュナイザーさんも
「アナタハ...エット...トナリノセキノ、トオルクロバ?」
と聞いて来たので、
「そうだよ」
と答えた後、シュナイザーさんと登校する形になってしまった、もちろんそれは透にとっては嬉しかったが、彼女に迷惑ではないだろうか、そう思っていた、その道中
「アナタハ、トテモ、ライクナ、オカシナドハアリマスカ?
彼女の問いに
「グミとかかな?グミはよく食べるよ」
透はそう答えた、
学校に着き授業が始まると、シュナイザーさんは日本語についていけず度々透に
「ココハドウイウニホンゴナンデスカ?」
と聞いて来たりして、そんな時間が心がドキドキしながらもこの時間がとても楽しかった、いつもなら楽しく無かった授業や隣の人との共同作業などがとても楽しく思えた、
放課後、昨日みたいにシュナイザーさんが遊びに誘われていたが
「イソイデ、カエラナクテハナラナクテ」
と答えた、どうやら門限がかなり早く遊びに行ける時間もないとだと言う、クラスメイトは渋々諦めその場をさった、そして僕も帰ろうとして席を立つと
「アノ...!」
その声は彼女の物だった
「どうしたの?シュナイザーさん?」
「トオルサン、NOシュナイザー サラ、ト
ヨンデホシイデス」
「でも海外の人とはいえ名前で呼ぶのは抵抗が」
そう言いかけた時、担任の言葉を思い出した、
「海外では苗字で呼ぶのは失礼に当たる所もあるからサラって呼んであげろよー」
担任はそう言っていた事を思い出し、
「ごめんね、次からはサラって呼ばせてもらうよ」
「それで僕に用があるの?」
「ツレテイッテホシイ、バショガアッテ」
「それなら僕じゃ無くて、さっきのクラスメイトに言えば良かったのに」
そう言ったが
「ミンナ、トテモヤサシイケド、コウイウノハシタゴコロッテイウンデショ?」
彼女はそう伝えた後、
(僕になって下心はある、だけど彼女が出来るなんて思ってないから半ば諦めているだけさ)
透はそう伝えようとしたが勇気が無くいえなかった、その後家の近くのお菓子屋さんに行った、
「何でこんなところに用があるの?」
「オカアサンノ、バースデーナンデスヨ」
サラは色々なお菓子を物色していた、そんな中、透は非常に緊張していた、これではもはやデートでは無いのか?僕が?高嶺の花と?そんな事を思っていた、お菓子を真面目に物色する、そんな一面もまた可愛かった、だが透は
(夢を見るな、そんなことは起こりはしない)そんな事を考えていた、まるで自分に言い聞かせるように、そしてそれが終わると、
「ベリーベリーカンシャデス、コレ、オレイ」
そう言い何かを渡して来た、それはブドウ味のグミだった
「グミガ、スキッテ、イッテタ」
「別に気にしなくて良いのに」
「オレイ、デスヨ」
なんだか断りづらく、渋々受け取ってそれを食べた、いつものグミと同じはずなのにとても美味しく感じた、
それから、
「トオルサン、マタ、アシタモ、スクールニ、イキマショウ」
と、いきなり彼女がそう言った、透は困惑したが、もし道に迷う事があったら困るのでそれを承諾した、
次の日、家を出ると早速隣の家のインターホンを鳴らした、すると、
「ウェイト、ウェイトデスヨ、トオルサン」
と、言われ、少し待つ事になった、そしてその後サラが出てきた
「オハヨウゴサイマス!」
そう言いながら見せる彼女の笑顔にはとても惹かれるものがあった、登校している時、透には薄々感じていた感情があった、それは恋だ、今朝の笑顔を見た時に確信した、自分は彼女の事が好きなんだと、だが、彼は学校でも話す相手がほぼいない、所謂陰キャと呼ばれるスクールカースト最下位に位置していた、そんな彼だったから、恋をしてもそれを告白する勇気を持っていなかった、
透は小学生の時に初恋の人に告白した時にこっぴどくフラれてしまいそこから主に女子と話す事に抵抗を覚えてしまい、次第に男子とも話さなくなっていった結果がこれだった、
もし告白をしてまたこっぴどくフラれてしまったらどうしよう、そんな不安、恐怖ばかりが透を襲った、そんな暗い雰囲気をしていたのか、
「ドウシタンデスカ、トオルサン」
「そんな事ないよ、そんなふうに見えた?」
「ムリシナイデネ」
そんな会話を交わした、なんて彼女は優しいのだろう、透はそんな事を思った、
学校に着き、席に着く、まだホームルームまで時間があったのでサラと少し話す事にした、
「どうして、君は僕にこんなに構ってくれるの?僕は別にイケメンってわけでも性格が特段良いわけでもないし」
「ホームガ、トナリッテイウノモアルケド、ベリーベリーキュートナンデスヨ、トオルサン、マルデ、オトウトッテヤツダネ」
弟...つまり男として見られてないって事か、そんな事実に少しがっかりしながらも、ホームルームが始まった、そして今日も1日が終わる、帰ろうとした時、話しかけられた
「トオルサン、アトデ、ニホンゴヲ、オシエテクダサイ、ヒトリダト、ゲンカイガアッテ」
「なら図書室でやろうか?」
「ワタシノイエ、モンゲンガアッテ」
「ダカラ、ワタシノイエナンテドウショウカ?」
唐突な言葉に透は驚きを隠せなかった、それってつまり僕が彼女の家に行くって事?隣同士とはいえ、透は疑念が無くならなかった、
「それは...嬉しいけど行っても良いのか?」
「トオルサンナラ、カンゲイデスヨ!」
透は困惑しながらも彼女の家に行き日本語をマンツーマンで教えた、その間特に、何も起きなかった、透にそんな度胸は無かったのだ、だが、サラさんの成長スピードは凄まじく、ギネスでも狙えるのでは無いか、と、透は思った、そこから半年もすれば、日本語をほぼマスターしていた、
「透!おはよう!」
そんな声が聞こえた、今はもう聞き慣れたサラの声だ、彼女には日本語の才能があるのかも知れない、半年で片言からココまで成長するなんて、透はそんな事を思っていた、
「何ぼーっとしてるのよ!そんなんじゃ一日中ずっと眠いだけになっちゃうよ!」
...まだ日本語が時々おかしい所はあるがなんと無く意味は伝わった、そうやって、彼女は相変わらず表情が明るく透にそう接する、
「なんでそんなに元気があるのかわからないが、まぁ早く学校に行こうか」
そろそろ文化祭の時期だ、クラスでは出し物は何にするかなどの話し合いがよく起きる、その度色々な案が出されるが、結局
メイド喫茶になった、それにあたって時間帯に分けて男子と女子で分かれることになり両性メイド喫茶になった。
文化祭当日、うちのクラスの男子は始まって速攻、サラさんを見に自分のクラスのメイド喫茶にやってきていた、
「ど、どうかな似合うかな?」
...なんという事だ、僕だけで無くクラスの男子ほぼ全てがそれに目が釘付けになっていた
それほどまでに美しかったのだ、
「ちょっと男子!鼻の下伸びすぎだよ、キモすぎ」
1人のクラスの女子がそう言う、それを聞いた男子は冷静になり
「似合ってるよ!」
そんな事を次々に言う、そこからメイド喫茶を堪能した、この記憶は一生忘れることは無いだろう、そう思った、そして午後になると今度は男子の番がやってきた、基本男子は女子のメイクやらの元、女装したが、本人の希望で執事の格好をした者も居た、正直早く辞めたい、そんな事を思っていたがその時、サラが客としてやってきた、そして僕を見つけて、
「透くん可愛いなぁ」
サラがそう言った瞬間クラスの男子どもが近づいてきて自分のをアピールして来た
「み、みんな似合ってるよ...」
「ちょっと男子!サラを困らすな!」
文化祭ではこのような体験も出来たのか、ずっと1人で回ったりクラスの出し物を淡々とやって来た透にとってそれは初めての出来事だった、
文化祭が終わり各々が帰り支度を始める、
学校が打ち上げを禁止にしていたので帰る事になった、
正直隠れて行ってる人は多そうだけど、僕たちの家がある駅はあまり同じ制服を見ない、
それ故にどうしても2人きりなる事が多かった、
「文化祭楽しかったね!」
「ああ、そうだな一生の思い出だな」
「日本っていいところだね、ドイツと違って日差しは優しいし、急や雨も少ない、しかも冬もそんなに寒く無いんでしょ?こりゃ、人気になるわけだ」
「ってことはサラは、北部の街出身なのかな?日差しが強いって事は」
「あれ?言ってなかったっけ?わたし、ハンブルクから来たんだよ! ハンブルクは、ドイツ最大の港湾都市だから海が近くて街並みも綺麗なんだ!いつか行ってみて欲しいよ!」
彼女は健気にそう言う、金髪の髪が夕陽に映えて、美しく、こちらを見て楽しそうに笑っている、そんな彼女と過ごす毎日は、かけがえの無い物であり、青春であった、これは
高校1年生の時の透には考えつかない事であり、
彼にとっての非日常で、あった
end