第5章: 闇の中の真実
夜の闇が村全体を覆い、静寂が支配していた。時折、風が木々を揺らし、葉が囁くような音を立てていた。陽太は家を出て、誰にも気づかれないように村の外れへと足を運んでいた。彼の心には、村上修一への疑念がますます深まっていた。
「ここに何かがあるはずだ…」
村上の行動を密かに追いかけていた陽太は、夜中に彼がこの村外れの廃屋に向かう姿を何度か目撃していた。この場所には、何か重大な秘密が隠されているのではないかという直感が彼を駆り立てていた。
廃屋の前に立つと、月明かりに照らされたその姿は、まるで長い間誰にも触れられていないように見えた。窓は割れ、屋根は崩れかけ、雑草が茂り、入口は見つけにくい。しかし、陽太は注意深くその中を見渡し、何か異様な気配を感じた。
「何かいる…?」
彼は恐る恐る扉を押し開け、中に足を踏み入れた。暗闇の中で、彼の視線は鋭く動き、耳を澄ませた。そして、微かな物音が聞こえてきた。
「誰か…いるのか?」
陽太の心臓が鼓動を早める。彼はいつも冷静でいられる自信があったが、この夜の不気味さは違った。何か大きな力がこの場所に巣食っていると感じたのだ。
廃屋の奥へ進むと、彼の足元に何かが光っているのに気づいた。懐中電灯を取り出してそれを照らすと、地面には不規則な模様が描かれていた。それはまるで、古代の儀式に使われたような奇妙な紋様だった。
「これは…?」
陽太はその場にしゃがみ込み、指で模様をなぞった。その瞬間、彼の視界に何かがフラッシュバックした。遠い昔、彼が生きていた別の時代、似たような模様を目にした記憶が蘇ってきた。
「まさか…転生と関係があるのか?」
彼の頭の中で、さまざまな仮説が浮かんでは消えていく。陽太は再び立ち上がり、さらに廃屋の奥へと進んだ。そこには地下へ続く階段が隠されていた。
「ここだ…」
彼はゆっくりと階段を降りていった。地下には重たい扉があり、その向こうから何か囁くような声が聞こえてきた。陽太は耳を澄まし、慎重に扉を開けると、驚愕の光景が広がっていた。地下室に足を踏み入れた瞬間、湿った空気とカビ臭さが陽太の鼻を突いた。暗闇の中で彼の懐中電灯の光が、石の壁や古びた家具を淡く照らしている。そして、彼の目に飛び込んできたのは、円形のテーブルに広げられた古びた書物と、奇妙な文様が描かれた羊皮紙だった。
「これは…儀式の準備か?」
陽太は慎重に部屋の中心に近づき、その書物に目を向けた。言語は見たこともないもので、古代の呪文や儀式のようなものが記されているようだった。そして、その横には小さな袋があり、中には黒い砂のようなものが詰められていた。
「これが何かの鍵になる…」
その時、不意に背後から足音が聞こえた。陽太の全身が緊張し、心臓が高鳴る。彼は懐中電灯を消し、物陰に隠れた。階段を下りてくる足音は徐々に近づいてきた。やがて、地下室の扉が開き、足元を淡い光が照らす。
そこに立っていたのは、村上修一だった。彼は手に何かの瓶を持ち、不気味な笑みを浮かべていた。陽太は息を潜め、じっとその様子を観察していた。
「すべてが整った…これで儀式は完成する」
村上は誰かに話しかけているようだったが、その場には彼以外に誰もいないように見えた。陽太は彼の動きに注意を払いながら、地下室の隅に置かれたもう一つの扉に目を向けた。扉の向こうには、さらに重要な何かが隠されているに違いない。
「チャンスは一度だけだ…」
陽太は意を決し、静かにその扉に向かって歩み寄った。しかし、その時、村上が突然振り返った。
「誰だ!?」
村上の声が鋭く響き、陽太は思わず息を呑んだ。だが、すでに手は扉の取っ手にかかっていた。陽太は全速力で扉を開け、その奥へと飛び込んだ。村上の怒声が後ろから追いかけてくる。
「待て!貴様、何を知っている!」
扉の向こうは、さらに暗く狭い通路だった。陽太は懐中電灯を再び灯しながら、細い石造りの通路を駆け抜けた。足元で水が染み出している場所もあったが、そんなことを気にしている余裕はなかった。
やがて、通路の先に光が見え始めた。陽太はその光を目指して走り続けた。そして、通路の終わりにたどり着いた時、彼の目の前には驚くべき光景が広がっていた。
大きな地下洞窟の中に、巨大な祭壇が立っていたのだ。その上には、まるで生贄のように縛られた小さな子供たちの姿があった。4人とも行方不明になっていた子供たちだった。
「ここにいたんだ…!」
陽太の心は一瞬で冷え切った。子供たちはまだ息があるようだったが、その姿は疲れ果てていた。そして、祭壇の周りには、さらに多くの村人たちが集まり、奇妙な儀式の準備をしていた。
「まさか、村全体が…」
陽太は目の前の光景に言葉を失いながらも、すぐに行動を起こさなければならないと感じた。しかし、彼一人ではこの状況を打破することは難しい。それでも、彼には子供たちを救うという決意があった。