第6話 7
……あの日の事は今でも覚えている。
いつものように隊舎に出勤して、新型ロジカル・ウェポンへの騎種転換訓練を受けてるとこだった。
「当時の俺は少佐で、アーム部隊の隊長って立場だったんだ」
この星に逃げ込む時に、上官の多くが亡くなっていたから、その立場まで押し上げられた。
「警報が鳴り響いた時には手遅れだったよ。
空が真っ赤に染まり、上空に中型眷属器五器を連れたEX-Tが現れた」
当時俺らを指揮していた艇長は、即座に応戦を指示。
「俺らは――必死で戦った。もう逃げ場なんてなかったからな……」
「戦艦の支援もなしに、本体と中型眷属器五器ですか。
かなりキツイですねぇ……」
ステラの言葉に、俺は苦笑するしかない。
「しかも本体はバイオ・ウェポンを取り込んで受肉した奴だった。
本体の影響か、眷属器も生物的な性質になっててな……新兵なんかは見た目の気色悪さに、げーげー吐いてたよ」
せっかく築き上げた都市は破壊され尽くし、建造中だった船も壊された。
それでも俺らは戦って……
「絶望的な状況の中、俺を含む何人かの闘士がハイソーサロイドとしての能力に目覚め、眷属器二器を撃破。
けど、そこまでが俺らの限界だった」
「……まあ、戦力的にそうでしょうね。
むしろ戦艦支援による<三女神>の加護――<女神の唱歌>なしで、よく眷属器を二器も撃破できましたね。
目覚めたてとはいえ、さすがハイソーサロイドってトコですか?
――本体はどうしたんです?」
「最上位だった俺らの艇長が突貫を敢行して、その肉体を半壊させ、その隙に残る四隻で停滞場に取り込んだ」
俺の説明に、ステラが目を剥く。
「――時空干渉系機器なんて、よく持ってましたね!?」
「俺らの中に、統合学者が何人か居てな。こんな事もあろうかと――とか言って、艇長らに進言したんだよ。
いざという時の為に、こっそり拵えてたらしい……」
「ああ、あいつらって、そういうトコありますよね。
ウチの賢者委員会もそうでした」
頭の良い奴の考えが読めねえのは、どこも一緒って事か。
「で、どうしたんです?」
「脱出艇はそのままEX-Tを牽引してこの星を離脱。
最後の交信では、船が動く限りこの星から遠ざかると告げていた」
ステラが帝国式の敬礼を見せ――釣られてなのか、涙ぐんだリーリアと騎士の男も同じように敬礼している。
「そこから俺らは、残る中型眷属器の対処に移った」
この頃には上官達がみんなおっ死んじまってて、気づけば俺らが最先任だ。
「もはや俺らに、あいつらを破壊する戦力なんて残されてなかったからな。
それでも必死に知恵を巡らせて……そうして案を出したのも、統合学者だったよ」
常人ならば、思いつきはしても実行しようとは思わないであろう発想。
連中が狂科学者と言われるワケだ。
だが、俺らはもうそれに賭けるしかなくなっていた。
「……SNSの初期化……
本体が居なくなった現状、眷属器はこの星のユニバーサル・スフィアの匂いに惹かれて暴れているのだという予想の元、それを行う事で眷属器が離脱するんじゃないかと考えたんだ」
「……それで空白状態になっていたのですか。
ですがそれだと外部記憶の利用も、交信すらできなくなるでしょう?」
「ああ。この段階で俺達はもう、既知人類圏への帰還を諦めざるを得なかった。
EX-Tに喰われなかった市民達を――再生できた者も含めて十万にも満たなかったが、彼らを守ることを優先したんだ」
ステラが言うように、外部記憶――共有データベースはおろか、個人用にさえアクセスできなくなって、戦闘後の復興にはかなり難儀した。
交信もできなくなり、旧来の伝言や手紙に頼らざるを得なくなったのが、本当に面倒くさかったのを今でも覚えている。
思わず漏れる深い溜息に、ステラは目を伏せて首を振った。
ステラは廃棄処理されてなお、人類会議同盟軍――いや、大銀河帝国の兵である事にプライドを持っているようだからな。
心情的には理解できるが、軍人としては納得できない、といったところだろうか。
「それで、肝心のEX-Tはどうなったんです?」
ステラの問いかけに、俺は再びため息をつく。
「半分は上手く行き、実際は失敗したというところか……
想定では、ユニバーサル・スフィアという目標を失った眷属器は、本体を追ってこの星から離脱する、と俺達は考えていたんだ……」
「……そうはならなかった、と?」
「ああ。連中はその場で地中に潜り、休眠状態になった」
恐らくは本体が停滞場に封印中で感知できない為の、緊急措置的対応なのだと――統合学者は言っていた。
「……つ、つまり眷属器は今も――」
ステラが身を乗り出して訊ねてくる。
「ああ、今も地下深くで休眠状態だ。
そして、それこそがこの星の文明が、この状態になっている理由でもある」
「……やたら低い文明水準。そのくせ高度な魔道技術を持った魔属という種属が存在し、その王がSNSを監視している。
――見えてきましたよ……」
俺はステラにうなずきを返した。
「文明を維持したままだと、いずれSNSが必要になる――いや、使わざるを得なくなる。
意図的ではなかったとしても、人類がソーサル・リアクターを持つ生き物である以上、文明が発展すれば、いずれはその活用法を見つけ出してしまうからな……」
そうなれば眷属器が目覚めてしまうかも知れない。
「文明をより発展させて、眷属器を討伐する案がなかったわけじゃない。
だが、仮に眷属器を倒せたとして、そのあとどうする?
拡大したユニバーサル・スフィアによって、また新たなEX-Tを呼び寄せるかも知れない……
その時、俺らには、新たにやって来た本体をどうにかする力があるとは――思えなかったんだ」
だから、俺達はこの星に引き篭もる道を選ばざるを得なかった。
「再生した多くの市民達は、その再生過程でローカル・スフィアに干渉して記憶を消去した。
足元に眷属器が眠っているという恐怖に耐えられない者も、同じように記憶消去措置を願い出た。
俺達闘士をはじめとする生き残りは魔属を名乗り、この星の文明と霊脈の監視することになった」
ステラが腕組みして、ため息を吐く。
「おかしいと思ったんですよ。
こんな低水準な文明なのに、中途半端にソーサル・テクニックが残ってたり、ユニバーサル・アームが稼働してたり。
要するに、そうあるように仕込んでた事ですか」
「ああ、万が一眷属器が目覚めた時の事を考えると、戦う術を完全に消し去るわけにはいかなかった。
魔属が時折、人の国に攻め入るのは戦闘能力を人から失わせない為――いわば戦闘訓練の意味合いがあったんだ」
本当は人口増加によるユニバーサル・スフィアの拡大を抑制する為という側面もあるのだが、それはあえて口にはしない。
そんな重い話を、目の前にいるリーリア達にまで背負わせる必要はない。
ステラは恐らく気づいただろうが、黙っていてくれた。
「……つまり、ええと、よくわからないんですけど……」
それまで話を聞いていたリーリアが、顔を青ざめさせて発言した。
「この世界は……たった三百年前に始まったって事ですか?」
「ア、アルマーク王国は昨年、建国八百年の祭りを催したばかりですのよ?」
ロザリアもまた、真っ青な顔で訊ねてくる。
この星に生まれて生きて来た彼女達には酷な話だが……この先もステラと共に行動するのなら、知っておく必要がある事実だ。
「ああ、この大陸にあるすべての国は多少の差こそあれ、およそ二六〇年前に始まっている。
各国に伝わるそれ以前の歴史は、統合学者と作家による創作だ」
真実を告げる俺の言葉に、二人は目を見開き、それからうつむいた。
「……そう、だったんですね……」
リーリアの震える声が、室内に響いた。




