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第3話 5

 ホールを後にするご主人様を見送り、私は汎用端末器マルチマニュピレーターに扉を閉めさせて。


「どーですか、ご主人様はっ!」


 スカー達に腕組みしながら胸を張って見せる。


「どうって……とんでもねえの一言でさあ……」


 壁に激突した衝撃で痛むのか、首をひねりながらスカーが答える。


「ステラの姐さん、お嬢は――いったい、なんなんで?

 見た目は普通のお嬢ちゃんなのに……俺の剣を目で追ってやがった……」


「いえ、それくらい誰でもできるでしょう?」


 現に私にも見えていた。


 出会った時からそうなのだけど、スカーは自己評価が高すぎるトコがある。


「――姐さん! お頭はロムレスでも名の知られた剛剣使いなんですぜ!」


 頭をモヒカンにした傭兵の一人が、そう説明する。


「そうでやす! あまりにお頭が強すぎるんで、騎士達の嫉妬買っちまって、俺らぁ国を追われたんだ!」


 スキンヘッドの傭兵が涙ながらに訴える。


「……ふむ?」


 つまりは、だ。


 スカーはこの星では、それなりに上位の戦闘力保有者という事になるのだろうか?


「……だとすれば、本当に人類の退化がひどいことになりますね……」


 思わずため息が漏れる。


「良いですか? 先程のアレはご主人様の本気じゃありません!

 本来のお力の十分の一――いいえ、そのうえかなり手加減していましたから、撫でたようなもんなんですよ?」


「あれで?」


「マジか……」


 傭兵達がざわつく。


「ああ、そうだろうな。お嬢ははじめ、俺が手加減してるのに気づいて、本気を出せとまで言ってきやがった。

 そして全力を出してなお、お嬢は明らかに余裕だった……」


 そこに気づくとは、確かにスカーはそれなりの戦闘力があるようだ。


 ……航宙士官学校の幼年科程度には。


 あるいは騎士家の訓練生見習いくらいか。


「……だが、姐さんよ。お嬢は戦闘訓練なんて受けた事ねえだろ?」


「わかりますか?」


「ああ。構えなんかはできてたが……見様見真似だろうな。実際は運足もなにもできてねえ、デタラメだった。

 それでも負けてるんだから、俺が言えたこっちゃねえが……」


 苦笑しながらボサボサの頭を掻くスカー。


「それがわかるなら、ちょうど良いのでおまえ達でご主人様に訓練を施してください」


「あ? 俺達が? 姐さんのが強えんだから、姐さんがやった方が……」


「いえ、私は私でやる事がありますし。

 それに私は向いてないんですよ」


 基本的に私は兵器であり、兵器使いだ。


 近接戦闘の心得はあるものの、原則として使用者――ご主人様に運用される前提の技術と知識なのだ。


 と、私の言葉をどう勘違いしたのか。


「まあ確かに、アンタじゃお嬢を甘やかしちまって、訓練にはならねえかもしんねえな……」


 そうスカーは苦笑する。


「だが、お嬢に戦闘訓練なんて必要なんかね?

 確かにこの魔境で生き延びるには、戦闘ができるに越したことはねえだろうが……」


 この魔境と呼ばれている森には、原生生物だけではなく、恐らくは大昔に移住した者達が持ち込んだであろう攻性生物の末裔――魔獣が生息している。


 人類が退化している割に、魔獣達は独自進化しているようで、一部の生態は私でさえ脅威を感じるほどだ。


 なんともチグハグさを感じる。


 今後、この地を拡げて行くのならば、その辺りの詳細調査も必要となるだろう。


 だが、私がご主人様に戦闘訓練を積ませたいのは、それが理由ではない。


 私は正直に、それをスカー達に告げる。


「ご主人様に戦えるようになってもらいたい理由はふたつ。

 ひとつは本来のお力をしっかり制御して頂くため」


 戦斗騎としての力を取り戻した時、なんの訓練も積まないままでは、日常生活すらままならなくなってしまう。


 大銀河帝国の――何番目だったかは興味がなかったので記憶していないのだけれど、ご落胤だった皇子が市井で見つかった事があったのだという。


 その理由が、戦斗騎として生まれたゆえに、常人とはかけ離れた身体能力を持っていて、日常生活に支障をきたしたためというものだった。


 騎士団が保護して身体検査した結果、皇族の血を引いている事がわかったのだとか。


 戦斗騎の圧倒的な膂力は、ソーサル・テクニック――この世界では魔法と呼ばれる力によって、筋力パラメーターを操作する事で実現されている。


 見た所、スカーもまた拙いながらも身体強化を使いこなしているようだから、ご主人様に学んで頂くにはちょうど良いと思う。


 今のご主人様は、常時身体強化しているようなものなのだから。


「もうひとつは……」


 私は傭兵達を見回す。


「ご主人様はアルマーク王国の第二王子に狙われているからです」


「――は?」


 傭兵達は驚きに目を見開いた。


「や、いや……確かにお嬢は綺麗だが……第二王子?」


「ええ、そうです。あのドくずは、あろうことかまだご主人様を苛もうとしているのですよ……」


 私はうなずき、ご主人様が味わったひどい境遇を説明する。


「……堕女(おとめ)ゲームだぁ!?」


「女の子にとって、将来を誓う言葉(プロポーズ)は一生モノだろう!?」


「そいつ、頭おかしいんじゃねえか!?」


「マ、ママンが女の子には優しくって言ってたんだナ!」


 傭兵達は口々に怒りの言葉を発した。


 ……よかった。


 正直この星は文化水準が低すぎて……あのドくずの価値観こそ、この星の常識なのかもしれないと疑ってる部分もあったのだ。


 その場合、現存人類の文化水準を一度退行させて、イチから文明を築き直させる事も視野に入れなければいけなかった。


 すごく面倒だけれど、ご主人様の為ならそれもアリだと思っていたのだ。


「……フ。命拾いしましたね。人類……」


 私の呟きは誰にも聞き取れなかったようだ。


 なにはともあれ、スカー達の反応を見るに、ドくずの価値観は傭兵達からしても異常なものらしい。


「つまり、最悪はアルマークと戦争になるって事か?」


 スカーの問いに、私はうなずく。


「……向こうの動き次第では。

 まあ、この森には魔獣も居ますし、すぐすぐには攻め込めないでしょうから、その間に防衛設備を構築するつもりです」


「ああ、アンタがやることってそれか……」


「ええ。ですが、いつまでも籠もっているつもりはありませんよ?」


 そう告げて微笑むと、スカー達は顔を青ざめさせて息を呑んだ。


 失礼な!


 私の躯体は究極の美を追求してデザインされてるんだ。


 そこは見惚れて顔を赤らめるところのはずだ。


 まあいい。


 私は言葉を続ける。


「あのドくずはゲームがお好きなようですからね。

 この<万能機(オーバードールズ)>たるこの私が、最高のゲームにご招待してやるのですよ!」


 拳を握り締めて、傭兵達に告げる。


「――BL(戦闘生存)ゲームっ! おまえ達には我が軍の尖兵となってもらいます!」


「――へいっ!」


 高らかに告げた私に、傭兵達は頭を下げてうなずいた。


「……ふふふ、ドくずにはしっかり愉しんでもらいましょうねぇ」


 ここまでが3話となります。


 次回は魔境での日常を交えつつ、お話を大きく動かそうかと!


「面白い」「もっとやれ」と思って頂けましたら、ブクマや★をお願いします~

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