35話
「へぇ、そうなんだ……って、えっ!? そうなの!?」
「うん、そうだよー。 あはは、前にも言ったじゃん? アタシのバイト先は飲食系だってさー」
確かに水瀬さんは飲食系のバイトをしてるって言ってたけど、クレープ屋さんでバイトしてたのか。
「実はアタシも矢内君と一緒でさ、甘い物がめっちゃ好きなんだよね」
「え、そうなんだ?」
「うん。 それでさ、ちょっと前にここのクレープ屋さんのクレープを食べたら物凄く美味しくて感動しちゃってさ。 それでここのクレープ屋さんで働きたいなーって思ってすぐにバイト募集の張り紙を見て電話したんだよね」
「へぇ、そうなんだ。 あはは、それにしても水瀬さんは行動力が凄まじいね。 それじゃあこのクレープ屋さんが初バイトだったの?」
「うん、そうそう。 このクレープ屋さんがアタシにとっての初バイトだよ。 バイトを初めたての頃はもう色々と初めての経験ばかりで大変だったっけなぁ……」
水瀬さんはふふっと微笑みながら手に持っていたクレープを食べていった。
「でもそのおかげで今では自分でも美味しいクレープが作れるようになったし、それに割引券とかクーポン券も時々貰えるから本当に良い事尽くしだよ」
「あぁ、だからクーポン券が余ってたんだ。 それにしても水瀬さんも甘い物が好きなんだね。 それじゃあ家でも何か甘い物とか作ったりするの?」
「うん、もちろん。 クッキーとかパンケーキとか手軽に作れる物は色々と作ったりするよ」
「へぇ、それは凄いね!」
俺は自宅でお菓子作りをしている水瀬さんの事を軽く想像してみた……うん、めっちゃエモいな。 それにしても水瀬さんって凄い万能な女子だよね。 優しくて見た目も凄い可愛いし、陽キャでコミュニケーション能力高いし、さらに料理まで出来るんだよ? これは確実に水瀬さんは将来とても良いお嫁さんになりそうだな。 そしてそんな水瀬さんの将来の旦那さんがメチャクチャ羨ましいわ。
「あはは、そんなでもないけどねー。 そういえば矢内君はどうなの? 甘い物が好きなら自分でもそういうのを作ったりするの?」
「え? あ、あぁいや、俺も料理はする方だけどさ、お菓子作りだけは苦手なんだよね、あはは……」
「え、そうなの? それは意外だね? でも何でお菓子作りは苦手なの? あんなにお弁当作るの上手だったのにさー」
俺が苦笑いをしながらそう言うと水瀬さんはきょとんとした顔でそう尋ねてきた。
「いや、俺が料理を作る時はさ……食材とか味付けとかはいつも目分量でテキトーに作っちゃうんだよね。 もし味が薄かったらあとで濃くすればいいし、逆に濃かったらその分白米を沢山食べればいいかなっていう雑な感じでいつも作ってるんだよね、あはは」
家事を始めたての頃は料理本とかクック〇ッドに乗っている分量をキッチリと測って料理をしてたんだけど、今はもう大体こんなもんでいいや! っていう感じでしか最近は料理を作ってなかった。
「あはは、そうなんだ! それはあれだねー、ザ・男の料理って感じだね」
「あ、あはは、まぁそんな感じかもね。 まぁそんでさ、炒め物とかそういうのは大体の目分量で何とかなるんだけどさ、でもお菓子作りは目分量じゃ絶対にヤバイ事になるでしょ?」
「あー、まぁ確かにお菓子作りは分量間違えると大惨事になりやすいね」
「だよね? やっぱりキッチリと分量を測らないと美味しくならないよね。 だからお菓子作りはちょっと苦手なんだ、あはは」
「あぁなるほどね。 でもやっぱり何だか意外だなー。 矢内君ってもっと全体的にキッチリしてるタイプなのかと思ってたんだけど、意外と大雑把な一面もあるんだねー!」
「あぁ、うん、それは友達にもよく言われるよ、あははー」
友達とゲームの協力プレイとかを一緒にやってると「もっと慎重に行動してくれ!」ってしょっちゅう言われたりもするしさ。 いやもしかしたら俺ってただのせっかちなタイプなだけかもしれないな。
そしてその後も、水瀬さんと一緒にベンチに座りながら他愛ない話を続けていった。 だけど気づいたらクレープを食べ終えてしまっていた。
「……あ、忘れてた。 クレープごちそうさま、本当に美味しかったよ! 今度ここのショッピングモールに立ち寄る事があったらこのクレープ買って帰ろうかな」
「おっ、それはバイトしてる身からしたらとてもありがたい話だー! ふふ、まぁそれだけ気にいってくれたようで何よりだよ。 それでどうかな? 気分転換にはなったかな?」
「え? 気分転換?」
「あはは、もう今日の目的忘れちゃったのー? 矢内君があまりにも疲れてそうだったから甘い物を食べに来たんじゃないのー! ふふ、でも矢内君がその事を忘れられてるって事はさ……ちゃんと気分転換になったって事かな?」
水瀬さんは食べかけだったクレープをモグモグと食べながら俺にそう言ってきてくれた。 あぁ、そういえばそうだった。 今日は俺の気分転換のために水瀬さんはここまで連れてきてくれたんだったな。
「……うん、そうだね。 すっごい気分転換になったよ。 本当に色々とありがとうね、水瀬さん」
「いやいや、そんなに気にしないでいいよ。 正直アタシもクレープが食べたくなってたってのもあるしね、あはは」
「あはは、そっか。 うん、それでも……ありがとね、水瀬さん」
俺がそう言うと水瀬さんはいつも通りニコっと笑ってくれていた。




