14話
「おいおい、つれない事言うなよなぁ。 俺とお前との仲じゃん?」
「はぁ? 何がお前との仲よ。 ってか二度と話しかけるなって言ったよね?」
イケメン男はおちゃらけた表情でそう言ってるのに対して、水瀬さんは冷ややかな目つきでそのイケメン男を睨みつけていた。 しかしイケメン男は水瀬さんに睨まれても全く気にせずに話を続けていった。
「まぁまぁ、そんなに怒んなくたっていいじゃん。 ってかさ、コイツは誰なん?」
俺が水瀬さんに近づいた事で、イケメン男は俺の存在に気が付いたようだ。 そしてそのままイケメン男は水瀬さんに俺の事を尋ねてきた。
「彼氏に決まってんじゃん」
イケメン男の質問に対して水瀬さんは即座にそう答えた。 ってか水瀬さんがあまりにも堂々とそう言い放ってきたので、俺は内心ちょっとだけ誇らしげな気持ちになっていた。 まぁ嘘の彼氏ですけどね。
「は、はぁ? コイツが??」
イケメン男は水瀬さんの彼氏発言を聞いて酷く驚いた表情をしていた。 いやお前なんかじゃ水瀬さんと釣り合ってないだろと言いたげな様子だった。 うるせぇ、そんなん俺だってわかってんだよ。
「え、由美どうしたんだよ? そんな根暗そうな奴お前のタイプじゃないだろ? え、もしかして……俺に振られて自暴自棄になったのか??」
「えっ?」
イケメン男から衝撃的な発言が飛んできた。 え、振られた……って、じゃあもしかしてこのイケメン男は……??
「……え、えーっと、その、そちらの方は一体?」
「んー? あぁ、どうもー由美の元彼氏でーす」
「あ、あぁ、どうも……って、えっ!?」
俺がそう尋ねてみるとイケメン男はヘラヘラと笑いながら水瀬さんの元カレだと自己紹介をしてきた。 つまりこれは水瀬さんの元カレと今カレ(偽)がバッタリと遭遇した瞬間なのであった。
(あ、あれ? も、もしかしてこれは俗に言う修羅場ってやつか??)
い、いや何それ、まるでドラマとか漫画の世界の話じゃん! まさかそんな出来事が現実で起きるなんて……これはちょっとテンションが上がっちゃうよ! いや本来ならイケメンな元カレと出くわすなんて戦慄する場面でしかないんだけどね?
まぁでも修羅場に巻き込まれるなんて二度と味わう事は出来ないと思うし、俺のテンションが上がるのも少しはわかってほしい。
(んー、それにしても……)
そんな状況にテンションが上がっている俺なんだけど、でも水瀬さんの冷たい表情をしている事も気になっていた。 いや何というか……目の前のイケメン男の事を本当に毛嫌いしているような雰囲気がヒシヒシと伝わってきた。
俺は改めて目の前のイケメン男を観察してみた。 身長は大体170台後半のシュっとしたタイプのイケメンで、髪型は黒髪ロン毛でチラっと見える耳にはピアスが空いてるのも見えた。 あとは口調からして割とチャラい雰囲気は感じ取れた。 まぁ総じて俺と真逆のタイプの男だなこれは。
「……はぁ、もういい? 用事が無いんだったら早く帰ってくんない?」
「いやいや用事ならあるよ? 由美と楽しくお喋りしたいなーってさ?」
「アタシはしたくないんだけど?」
「あはは、まぁまぁいいじゃん」
水瀬さんはそのイケメン男の事をはっきりと拒絶しているのに、イケメン男は全く悪びれた様子もなく水瀬さんの肩をぽんぽんと触りながら笑っていた。 その仕草に俺はちょっとだけイラっとした。
「あはは、いやでもゴメンな由美。 由美が自暴自棄になってそんな根暗な奴と付き合ってるなんて思いもしなかったわ。 ってかそんな落ちぶれた由美を見たくないしさ、今からでも俺とやり直さないか? 今なら俺もフリーでちょうど良いし、由美も俺と寄りを戻せて嬉しいよな?」
「は、はぁ?」
そのイケメン男からあまりにも傍若無人な発言が飛んできたので、流石の俺でもムッとしてしまった。 でもそれは俺が貶されたからではなくて、水瀬さんの事を貶してきたからだ。