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11話

 俺は緊張で震える手を頑張って抑えながら箸で生姜焼きを掴んで、そのまま水瀬さんの口に近づけた。


「は、はい、ど、どうぞ」

「あーん……んぐ、もぐもぐ」


 俺がそう言うと水瀬さんは近づけていた生姜焼きをパクっと口に入れ、そしてそのままモグモグと食べ始めた。


「……うん、凄く美味しいよ!」

「そ、そっか。 う、うん、それなら良かったよ……」


 水瀬さんがそう言ってくれたのは普通に嬉しいけど、でもそんな事よりも初めての“あーん”があまりにも衝撃的すぎて俺の頭の中は真っ白になりかけていた。 いやでもこんな超貴重な体験をさせて貰えるなんて……うん、たとえ今日水瀬さんに振られたとしてももう悔いはないわ。 今まで本当にありがとうございました。


「いやー矢内君は料理も出来るなんて凄いね。 でもそういう特技があるんだったらもっとアピールしていけばいいんじゃない?」

「……え? アピールって?」


 俺が心の中でそう思っていると唐突に水瀬さんがそう言ってきた。 俺は何の事かよくわからなかったので慌てて聞き返した。


「あぁ、いやさっきも言ったけどさ、料理が出来る男子って結構ポイント高いと思うんだよね。 だからそういう事が出来るってもっと女の子にアピールしていけば、今までにも普通に彼女とか出来たんじゃないのかなってさ」

「あ、あぁ、なるほどね、あ、あはは……」


 水瀬さんにそう言われてようやく意味がわかったので、俺は苦笑いをしながら誤魔化した。 要するに今までお前に彼女が出来なかった理由はただのアピール不足だぞと何重にもオブラートに包んで指摘してくれたのだ。


(いやそれが出来たら苦労しないんだって!)


 いやまぁ水瀬さんの言う事はわかるんだけどさ、でもそれは陽キャ的思考だ。 異性にしっかりとアピールしろって言われても、そんなん陰キャ的思考の持ち主にはハードル高すぎなんだよ。 それにアピールの加減を間違えたら“カッコつけようとしていてキモい”って女子に思われたら嫌だしさ。


(……いや、そういう事を延々と言ってるから彼女が出来ないんだろうな)


 でもそう考えてみると、今の俺達の関係って凄い奇跡みたいだよな。 だって水瀬さんはスクールカースト上位に君臨するコミュ力高めな陽キャ女子なのに対して、俺はどちらかと言えば陰キャ寄りの普通な男子学生だ。 周りの友達だって水瀬さんは陽キャなギャル達に囲まれてるのに対して、俺は自分に近しい感じの大人しい男子と一緒に行動している。


 こんな真逆な二人は本来なら会話などする事もなくこのまま卒業していくはずだったのに……まさか水瀬さんとこうやって二人きりで会話が出来る日が来るなんて思いもしなかった。


(いやまぁ水瀬さんにとってはただの罰ゲームなんだけどね)


 もちろん、この関係は水瀬さんにとっては単なる罰ゲームの延長線上だという事も理解している。 というか水瀬さんが罰ゲームで嫌々俺と付き合ってくれてるってわかってるからこそ、俺はそこまで緊張せずに水瀬さんとお付き合いが出来ているのかもしれない。


 もし俺が何も知らずに水瀬さんとお付き合いしてたら……絶対に挙動不審な態度をしながら何も話せない日々を過ごしてたんだろうなぁ。


「うん? どうかした?」

「……えっ? あ、あぁいや、えっと……」


 俺は黙りながらそんな事を思っていると、水瀬さんはきょとんとした表情で俺の顔を見てきた。 俺は焦りながら何て返事を返そうか悩んだんだけど……まぁでもせっかくなので今日も俺はしっかりと調子に乗る事にした。


「あぁ、いや、俺も水瀬さんの作るお弁当を食べて見たかったなぁって思ってさ」


 という事で俺は調子に乗って水瀬さんにお弁当を作って欲しいと直で要求してみた。 待ってるだけじゃ駄目だ、ちゃんとアピールしなさいって水瀬さんに言われたばかりだしね。 いやさっきとは意味合いが全然違うけどさ。


「あ、そうだったの? んー、まぁ……それじゃあ気が向いたら作ってあげるよ」

「え、本当に!? うん、全然それでいいよ! 楽しみにしてるね!」

「ふふ、矢内君ってやけに素直な所があるよね。 うん、じゃあアタシも矢内君の次のお弁当を楽しみにしてるよ」

「あぁ、うん、もちろん! 次も水瀬さんに美味しいって言って貰えるように頑張るよ!」


 俺はテンションを上げながら水瀬さんに向かってそう返事を返した。 これってつまり今後も気が向いたらお昼を一緒に食べてくれるって事だよね? うん、やっぱりちゃんと調子に乗って水瀬さんにアピールしてみて良かったわ。


「それじゃあ今度はもう少し大きめのお弁当にしないとだなぁ……って、あ、そうだ。 そういえば水瀬さんって好きな食べ物とかはあるの?」

「あぁ、うんそうだね、アタシは――」


 という事で今日のお昼休みはその後も二人でご飯を食べながら軽く雑談をしながら過ごしていった。

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