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オチ無い落ちるトリ

作者: ぽんこつ

第一志望最終選考2回落ちた人生が始まるだけ

 越えない。私は、越えない。あと一歩「そっち側」へ。行くやつは何を持ってる? 私は何を持っていない?

 そっち側の人間が言った。

「人生これからだよ! 若いんだから!」

「そうそう! ここじゃなかっただけだよ!」

 分かるよ、頭では。時の流れに身を任せていれば今の気持ちなんて忘れて、のうのうと飯食って糞して寝るんだよ。冬の採用選考だってそんな感じだったし。人間らしくていいじゃない。可愛いじゃない。そんなもんでしょ、人なんて。知ってるよ、人だから。

 観客席に座る私。名前のない、どこまでもモブな男A。いや、Aなんてもったいないくらいだ。輝くスクリーンに手を伸ばし、じたばたして観ているだけの客のよう。

 隣の人が言った。

「全部無駄だよな」

「ええ。少なくとも今はそう感じます」

「同情より答えくれよってな」

「また間違えました。何度目かも分かりません」

「変わらないな」

「変えられないのでしょうか」

「生まれた時から決まってるのかもな」

「クソゲーですね」

「知らなかったのか?」

「いえ、改めて」

 美談にしたかった。するつもりだった。冬落ちて夏に受かるみたいな黄金エピ。かっこいいでしょ、主人公みたいで。主人公の振る舞いをする準備は万端だったんだよ。

 なんで? なんで? ってさっきまでのたうち回っていたのに。気持ちが薄れてきて、何もかもがどうでもよくなってくる。時間の治癒能力は凄まじく、抗う術を知らない。良い意味でも悪い意味でも、その時の感情を殺すのが時間の流れというもの。

 だってさ? あんなに好きだったあの子も今となっては興味ないし、あんなに恥ずかしかった出来事も今となっては笑い話、あんなに涙を流した最後の夏の大会も今となっては思い出。この短時間で気持ちが変化してきてるのに、感情や想いを薪にして心燃やし続ける人ってすごいな。

 前の人が言った。

「人生なんて死ぬまでの暇つぶしなんだから」

 そうかもしれない。生きることが大事、自分は大切にって言うけれど、生きるってそんな価値のあるものなのか。もちろん死にたくはない、怖いし。だが、人間1人死んだところで世界は何も変わらない。そう考えると、少し楽だ。故に寂しいが。

「第一志望、二回落ちた人生が始まるだけですよね。はは」

 このまま指をくわえて終わっていくんだ。ふとそう考えた。あーこれだ。モブをモブたらしめる考え方。そっち側の人間は失敗を失敗のまま終わらせない。美談にして笑うんだ。

そっち側の人間が言った。

「君、また見てるだけ?」

「だって、どうせ」

「それが君のオチなの? だから落ちるんだよ」

 ああ。

「前を向いて頑張っていこう!」

 ああ!


見て頂いてありがとうございます!

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