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学園に通うまでの準備期間を、エステル達は用意してくれた。

その準備期間の中で、ウカノは様々な事を叩き込まれた。

文字の読み書き等や計算などの一般的なものから、名門校に通う生徒達なら知ってて当たり前の教養や知識まで。

それらを、まるで乾いたスポンジのようにウカノは吸収していった。

結果、


「それじゃ転校生。この詩を古代語で言ってみろ」


などという、一部嫌な教師として有名な人物の授業でも難なくこなす事が出来た。

ちなみに、この時の問題は大学でやる内容である。

また別の魔法学の授業では、


「ここで、この術式を使う。

さて、ここまでで質問は?」


「はい。質問いいですか?」


「どうぞ、えぇと、ウカノ・フール君」


名前を呼ばれ、ウカノはつかつかと黒板に歩み寄る。

そこには、デカデカと魔法陣が描かれている。


「ここと、ここの部分。

教科書でも同じように書かれてますが、これだと魔力の流れが途切れて上手く発動出来ないと思うんですけど」


「うん?

あ、本当だ。

これは教科書のミスだね。

このまま使ったんじゃ、大爆発を起こすところだ。

実験前に気づけて良かった。

あとでクレームをいれておくよ」


「へ?」


大爆発とは、危険極まりない。

そういえば、この授業では時折実験もすると言うのは聞いていたな、とウカノはぼんやりと思い出した。


「ところで、正しい術式は書けるかな?」


「あ、はい。

ここと、ここをこうするんですよね?」


「おお、正解!」


クラスメイト達がどよめいた。

賞賛する視線が向けられる。

席に戻るよう言われ、ウカノはそのまま教壇から離れる。

席につくと、隣から舌打ちが聴こえてきた。

かと思うと、


「調子のってんじゃねーぞ」


という、セリフ。

見れば、アールがウカノを睨みつけていた。

これがウカノではなく、普通の生徒だったなら恐怖ですくみ上がっていただろう。

しかし、ウカノは違った感想を持っていた。


(クロッサみたいな子だなぁ)


クロッサと言うのは、ウカノの弟の一人である。

四番目の兄弟だ。

クロッサはとにかく、ウカノ含めた三人の兄たちに反抗的でよくケンカを仕掛けてくる弟だった。

そんなクロッサを思い出したがために、ウカノはついついこう言ってしまった。


「……あー、やりたかったのか。

ごめんな、次はやらせてやるから」


兄としての上から目線なセリフだった。

いつもの癖で頭を撫でなかっただけ、まだ良かった。

しかし、アールにはそんなこと関係なかった。

馬鹿にされたと思ったらしい。

さらに怖い顔で睨みつけられた。

かと思ったら、アールにいきなり胸ぐらを掴まれ、ウカノは殴りかかられた。

机と椅子が倒れ、教室に悲鳴が上がった。

しかし、男兄弟でこんな喧嘩は慣れっこなウカノは飛んできた拳を難なく受け止める。

そして、アールの腹に蹴りをいれて吹っ飛ばした。

弟達だったなら、すぐさま立ち上がって殴りかかってくるところだ。

そのため、戦闘態勢は崩さない。


「ぐっ、ゲホゲホっ!」


けれど、当たり前だがアールは弟ではない。

吹っ飛んだアールは床を転がって咳き込んだ。

今まで授業をしていた教師が、何事かと振り向く。

同時に他のクラスの教師が騒ぎを聞きつけてやってきた。

そして、ウカノとアールを見た。

教師は二人は顔を見合わせる。

クラスメイト達も驚いている。

しかし、それはいきなり始まった喧嘩に対する驚きでは無かった。

誰かが、呟いた。


「アールが負けてる」


その呟きが聴こえていたのだろう。

アールがギロっと声のした方を睨みつけた。


(なにをそんなにイライラしてるんだか)


思えば、朝からこの子はイライラしていたなとウカノは思い出した。

軽く挨拶した時もそうだったし。

アールはウカノを変わらず睨みつけている。


(勉強のしすぎで、寝不足とかかなぁ)


睨みながら、アールは腹を抑えつつ立ち上がった。

そして、ゆっくりと空いている方の腕、左腕をあげたかと思うと指先で魔法陣を描き始めた。


「っ!!」


これには、ウカノも顔色を変えた。

それは、つい先程教師が説明していた魔法陣だった。

教師達が慌てて、生徒達を避難させようとする。

生徒達が逃げ惑う。


「吹っ飛べ」


明らかな殺意を向けられたウカノだったが、構わずその魔法陣へダッシュする。

そして、その魔法陣へ手を突っ込んだ。

魔法陣を、なんとかするためだ。

脳内に、エステルの声が蘇る。


――本来なら、このやり方はしない――


エステルの笑顔が脳裏に閃く。


――でも、お前の身体は神様の先祖返りでアエリカより頑丈だから――


だから、この方法を教える。

と、エステルは言っていた。

そうして教わった、魔法陣をなんとかする方法を実践してみる。


「!!??」


魔法陣の中に平気で手を突っ込んできたウカノを、アールは理解出来なくて動きを止めた。

普通はしない。

こんなことをすれば、腕が吹っ飛ぶ。

あるいは、それこそ術者を巻き込んで全身が吹き飛んでしまうからだ。

【自爆】の文字が、アールの脳裏を過ぎった。

生存本能が働いてアールがその場から逃げようとする。


「あ、おい馬ーー」


そんなアールにウカノが声を上げた途端。

爆発が起こった。

その時には他の生徒達は教室から避難出来ていた。

なので、爆発に巻き込まれたのは、魔法陣を直に書き換えて【無効化(キャンセル)】しようとしていたウカノと。

その場から逃げようとしていたアールの二名だった。


爆発で床に叩きつけられたアールの意識が遠のく。

そんな彼が最後に見たのは、


「ケホケホっ。

あー、ビックリした」


あの爆発の中心にいながら、なんて事ないふうに立っているウカノの姿だった。


「ば……け、もの」


そんな呟きに、ウカノが呆れた顔になる。


「酷い言われようだなぁ」


しかし、ウカノの言葉はアールに届いていなかった。

アールは気絶していた。

ウカノ、どうやったら痛めつけられるんだろう。

つーか、死ぬんだろうかこの人。

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