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真新しい制服に身を包んで、彼は黒板の前に立った。

名前が書かれ、担任から簡単な紹介をされる。


「どうも、ウカノと言います。

よろしくお願いします」


人好きのする笑顔を浮かべて、ウカノは短く挨拶した。

向けられる視線は、さまざまだ。

好奇心のそれだったり。

また、侮蔑だったり。

後者は仕方ない。

なぜなら、彼は元農民としてこの学園に来たのだから。

この世界で、農民は嫌われている。

下賎な存在として、嫌われている。

そんな彼が、何故、名門校として名高い学園の一つ、【聖エルリア学園】に通うことになったのか。

理由は1つだ。

世界を救うためだ。

家族を取り戻すためだ。


ウカノは指定された自分の席へ向かいながら、この半年間のことを思い出していた。



【半年前】

この世界は唐突に滅んでしまった。

壊れて、滅んでしまった。

そんな世界の中で、唯一の生存者がウカノだった。

そんなウカノを保護した者達がいた。

その者達の力を借りて、ウカノは世界を救うことになった。


「色々わかってきた」


そう言ったのは、ウカノに世界を救おうと持ちかけてきた少女だった。

ピンク色の髪をした、女神かと思われるほどの美貌をした少女だ。


「唐突に毒がばらまかれて、生きものが死滅したかに見えた、最初の攻撃な」


少女の名前はエステル。

エステルは、手にした紙を見ながらウカノへ説明してくる。


「どうやら、少しずつ仕込みをしていたらしい」


「仕込み?」


「そ、より効果的に世界を滅ぼせるように、事前に世界のあちこちを調べあげ。

さらに生き残りそうな連中もこの時にピックアップして、事前に殺してた可能性がある。

ついでにこの時、毒を世界のあちこちに仕込んでおいたらしい」


「つまり、計画的だった、と」


「そういうことだな。

あちこちの世界を滅ぼしつつ、より効果的に世界を滅ぼせるよう学んでいったんだろうな。

お前のいた世界は、1番効率的に滅ぼされたと言える。

まぁ、お前という存在を見落としていたのは致命的なミスだったけどな」


「…………」


「お前は運がいい」


「それで、どうやって滅んだ世界を救うんですか??」


「そうだな、まずは時間を巻き戻す」


「時間を?」


「簡単に言うと、そういう能力者がいるんだ。

それこそ、神様に選ばれ、神様に一番近い存在である能力者がな」


簡単に、その能力者についての説明を受けた。

それは、【言霊使い】という能力者で、簡単に言ってしまえば言葉ひとつで人を死なせたり、生き返らせたりできる。

それこそ、世界そのものを滅ぼせる力すら持っているらしい。


「でもな、強すぎる力には相応のリスクが伴うんだ。

今はアイツのレベルが上がったから、そのリスクが多少軽減されたけどな。

それでも、1つの世界に干渉する度にアイツは千年の眠りにつくことになる。

その眠りについては、魔法でなんとかしてるからせいぜい1ヶ月くらいで済んでるけどな」


滅ぼされた無限の世界。

その世界に干渉する度に、その能力者は千年眠らなければならない。

その期間を魔法で1ヶ月程度に抑えられてる。


「それでも、無理やりやってるからいつかどこかで歪みが出てくる。

誤魔化し誤魔化しでどこまで出来るか。

でも、やらないとアイツの大切な存在も戻って来ないから頑張ってる」


聞けば、その能力者の大切な存在は、他世界が滅ぼされた影響をもろに受けて消えてしまったらしい。

ある日突然、煙のように消えてしまったらしい。


「まぁ、つまり、だ。

そいつの能力で、お前の世界に干渉して時間を巻き戻す。

過去に戻り、世界に歪みが出た時点まで行ってその歪みを正す。

そうすれば、あとは世界の自然治癒能力で自動的に過去が変わり結果、未来が変わるって寸法だ」


そこまで言って、エステルはにっと笑って見せた。



そして、現在。

その巻き戻しは上手くいった。

ウカノは、エステル達の手によって表向きはその能力を見込まれたことになり、大富豪へ売られる形で実家を出ることになった。

大富豪とは、エステルやその仲間の馬と、黒いおっさんのことだ。

ウカノは、彼らの家族となったのだ。

一度全滅して、もう会えないと思っていた家族。

その実家の面々から大反対にあったけれど。

弟や妹達も大泣きして反対したけれど。

それでも、ウカノは実家を出た。

この場所を、本当の意味で元に戻したかったから。

ここから先の未来を変えるためだ。

全てが元に戻ったら、この出来事さえ無かったことになる。

そして、ウカノはここに戻ってくることになるのだから。

そう、説明を受けていた。


「ウカノ君の席は、アール君の隣だ」


担任からそう指示を受ける。

そして、示されたのは不機嫌そうな男子生徒だった。

その男子生徒の名前は、アール・ディギンスというらしい。


「よろしく」


席に座りつつ、ウカノはアールに声をかけた。

アールは、ウカノを睨みつけた。

そして、


「肥やし臭い能無し野郎」


そう小さく言われてしまう。

向けられていたのは、敵意だった。

でも、ウカノは気にしない。

瞼を閉じる。

そこに蘇るのは、全てを失ったあの時の光景だ。

クラスメイトに嫌われようと。

世界から蔑まれようと。

それでも、ウカノには取り戻したい、ウカノだけの世界があるのだから。


だから、気にしなかった。


瞼を開ける。

生徒達と担任が視界に入る。

この学園の生徒達を、教師たちを守る。

侵略者達に殺させない。

それが、ウカノの最初の役目なのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 若かりし頃のクソ担任かw ウカノは知らない、お隣がかつてなの過去の先なのか弟の洗濯機を質に脅す可能性を秘めているということを。
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