表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/40

後編

そこからまた、言われるがまま用意された服に着替え、別の部屋に案内された。

身体検査が行われ、結果がすぐに出た。

この時、いろいろ予防注射とかもされた。


「あー、やっぱりそうだ。

お前、神様の血引いてるわ。

俺たちの世界だと天使――神族とか本来の魔族とか、そっちの血が入ってる」


結果がプリントされた綺麗な紙に視線を落としつつ、ピンクが言った。

見てみるか、と言われ紙を受け取った。


「他の世界のやつでも読めるようになってるはずだ」


しかし、ウカノには文字が読めなかった。

ウカノがいた世界でも義務教育が普及しつつあったが、父親と祖父母の無理解により学校よりも、畑仕事をしろと言われていたからだ。

これは、他の兄弟姉妹も同じだった。

そのことを説明すると、ピンクは、


「じゃぁ、覚えなきゃだなぁ」


なんて言った。

あまりにも、簡単すぎるほど簡単に言ってのける。


「どうした??」


「バカは何してもダメだから」


滑らかに、その言葉はウカノから滑りでた。


「きっと何しても無駄に終わりますよ」


それは、何度も向けられてきた言葉だ。

父親から。

祖父母から。

同じ部落の人間から。

街からきた、赤の他人から。

言葉はちくちくと、それでも確実にウカノの中から何かを削り取っていった。


「んー、どうだろうなぁ」


ピンクは、どこか楽しそうに言い返してきた。


「俺たちは、これでも子育て経験は豊富なんだぞ?」


「はぁ」


「色んな子がいた。

でも、何をしても無駄になった子はいなかったし、1人としてバカもいなかった。

あえて言うなら、得手不得手、向き不向きがあっただけだ。

お前の言うところのバカはいなかった」


「……お子さんは今何歳なんですか?」


「んー、一番上の子はお前と同い年だ。

んで、俺たちにとって記念すべき初の卒業生でもある」


「何人お子さんを作ったんですか」


農民でない限り、せいぜい五人くらいだろうとウカノは予想した。


「んー、俺が産んだのはゼロだな」


「捨て子ですか」


「それでも、俺たちの子供だ」


「で、いったい何人いるんですか?」


「たくさん。

まさに八百万(やおよろず)ってやつだ。

でも、今はお前のことだ。

話を戻そう。

お前には、滅んだ世界を救ってもらう。

今、そのプロジェクトが進行中なんだ。

そうだな、さしずめ【救世主(ヒーロー)プロジェクト】ってところか」


そこで、さらに楽しそうにピンクは笑みを深める。

そして、続けた。

どこか芝居かかった調子で、続けた。


「お前、家族を取り戻したいだろ?」


ウカノはピンクを見る。

ピンクは続ける。


「以前の日常を取り戻したいだろ?」


ピンクが手を差し出してくる。


「この手を取れ、少年。

そしたら、お前は、お前の家族も、今までの日常も全て取り戻せる」


その何もかもが芝居がかっていた。

しかし、生憎ウカノは生まれてから部落を出たことはなく。

時折外から齎される僅かな、そう本当に微々たる知識くらいしか持ち合わせていなかった。

だから、ピンクのそれまでの言動が、ただただ胡散臭く感じてしまった。

なにしろ、芝居すら見たことがなかったのだから、仕方ない。


ウカノはピンクの手を見る。

差し出された、その手を見る。

その手へ、ウカノは自分の手を差し出そうとする。

あのキラキラと輝いているように見えた手へ、自分の手を伸ばす。

そんなウカノへ、


「さぁ、世界を救おうじゃないか、少年♡」


ダメ押しとばかりにピンクが言った。


壊れた世界を救う。

滅んだ世界を救う。


「違う」


ウカノはけれど、それを否定する。

救うのは。

救いたいのは。


「俺が取り戻したいのは――」


続いた言葉に、ピンクは頷く。

そして、始まった。

こうして、始まったのだ。

世界を救って。

壊れた世界を取り戻す、旅が始まった。

何もかもを取り戻す。

ウカノ・サートゥルヌスの、永い永い旅が始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 『馬』。 馬はどっかいった。←ウケましたw 私が予想してる馬の人なら、いると色々と引っ掻き回す(※例のあの)人かな?って(苦笑) [気になる点] 気になるお名前が。 今書かれてるお話…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ