9
朝、ライドが様子を見に来た。
「あー、まだ熱高いですね」
「だいぶ下がった。
動けるから問題ない」
「またそんなこと言って。
今日くらい学園休んだらどうです?」
「すでに七日謹慎食らってるんだよ。
それに、解熱剤もあるし平気だって。
俺の母さんなんて、弟や妹産んですぐ畑仕事してたし。
熱出ても、働くのが普通だったし」
「いや、ウカノさんのお母さんは関係ないですよね?
昨日の今日だし、足の怪我悪化しますよ」
「動くような授業は見学しとけば問題ない」
事実、そのようにするよう、保険医から言われていた。
それに、大愚から送ってもらった薬のおかげか、足の痛みは引いていた。
昨日のように妙な歩き方もしなくていい。
登校すると、またもクラスメイトの視線が突き刺さった。
「ウカノ君、怪我、大丈夫??」
教室に入ると、女子生徒の一人が聞いてきた。
どうやら、昨日のことは学園中の噂になってるらしい。
「うん、平気平気」
ウカノは適当に答えて、自分の席に向かう。
クラスメイト達は、そんなウカノを見てコソコソと言葉を交わす。
さすが、Aランク冒険者だなんだと話している。
席に着く。
隣の席には、アールがいた。
アールは昨日以上に気まずそうにしている。
「おはよ」
初日、一昨日、昨日と欠かさずにいる挨拶をする。
「…………」
変わらず、アールの反応は無視だった。
かと思いきや、
「ほんとに平気なのかよ?」
そんな事を聞いてきた。
「?」
「怪我」
「うん、こうして歩けてるから」
ウカノが正直に答えると、アールは嘲笑した。
「はっ、さすが化け物だな」
「えーと、それほどでも?」
ウカノはさして気にした風もなく、そう返した。
その反応に、アールは忌々しそうに舌打ちをする。
ウカノの何もかもが気に食わない。
昨日のことも、その前の叱咤のことも。
謹慎するに至った喧嘩のことも。
そして、今、ウカノがアールに向けている目も。
その全てが気に食わなかった。
こうして煽れば、普通は気分を害するはずだ。
そうして向こうから喧嘩を吹っかけてくるものだ。
けれど、ウカノはアールのことを全く相手にしていない。
「ちっ」
また舌打ちをして、アールはそれ以上はなにも言ってこなかった。
一方、ウカノはといえば、今日の時間割を確認していた。
(魔法の実技は、中止か。
まぁ、昨日の今日だしな。
あとは、体育か)
体育の授業について、知識として知ってはいるものの、出席するのはこれが初めてだ。
内容からして、見学にしてもらった方がいいだろうと考えた。
体育教師は厳しいと、アエリカから聞いたことがある。
授業が始まる前に、話を通しに行こうと決めた。
(それにしても、化け物、か)
ウカノは不機嫌な顔をしているアールを見た。
そして、思い出す。
実家の兄弟達のことではない。
ウカノが化け物なら、世界にはそれ以上の存在がいるのだ。そう、たとえば、エステル達の長男。
彼らが育て上げた息子であり、最初の卒業生であり、ウカノが1度も勝てたことの無い相手。
ウィン・アキレア・フール・キングプロテア、という長ったらしい名前の少年だ。
なんなら、ウカノが訓練という名目でボコボコにされまくった相手でもある。
(俺が化け物なら、ウィンは神だよなぁ)
なんてことをウカノは思うのだった。
さて、そうそう都合よく行かない。
午前の授業が終わり、昼休みとなった。
体育の授業は、午後からだ。
昼休みが終わってすぐである。
しかし、ウカノは見学とはいえその授業に出ることは叶わなかった。
何故なら、校内放送で職員室にこいと、呼び出されたのだ。
名指しで指名されては知らん顔はできない。
ウカノは弁当をさっさと食べ、解熱剤を飲んでから職員室に向かった。
そこには、冒険者ギルドからの使いが来ていた。
話を聞くと、どうやら昨日ウカノが倒したものと同じモンスターが現れたのだということだった。
なんでも、昨日ウカノが倒したあのモンスター、その分析を学園は複数の研究施設に依頼していた。
冒険者ギルドは研究施設ではなかったが、新種か突然変異のモンスターかもしれないということで、分析を買ってでたのである。
その矢先である。
新人、中堅冒険者達が犠牲になったらしい。
ベテラン、Sランク冒険者も出てきているが、倒せないらしい。
魔法が効かないのだという。
そこで、ウカノに白羽の矢がたった。
今のところ、ウカノだけがあのモンスターを倒している。
だから、それは当たり前といえば当たり前のことだった。
ウカノは足を見た。
包帯の下には、昨日よりよくなったとはいえ、まだ爛れたままの傷があった。
体育の授業とは違って、こっちは仕事だ。
それに、
(倒したら、その死体の一部が手に入るな)
大愚に頼まれていたこともあって、ウカノはモンスター退治に出かけることとなった。
ちなみに、授業は出席扱いにしてくれるらしい。
見学予定だったが、少し見てみたかったなと思いながら、ウカノは教室に戻って、帰り支度を始めた。
クラスメイト達が、不思議そうな視線を向けてくる。
それに構わず、ウカノは鞄を持って教室を出たのだった。




