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アールは今朝から機嫌が悪かった。

謹慎があけて、今日からまた登校が許された。

謹慎期間中、三日ほど入院していた。

その後四日間は、寮に戻って生活していた。

アールは、名門ディギンス家の子供である。

代々優秀な魔法使いを輩出してきた家だ。


アールはその中でもとくに優秀で、神童と呼ばれた。

誰も彼もが、彼を特別だと言った。

魔法だけではなく、彼は戦うことにも才能あった。

父や祖父、そして家庭教師をコテンパンにしたのは五歳の頃のことだ。

皆がそれを喜んだ。

天才だと、喜んだ。

持て囃した。

まだ幼い彼が、自分を特別だと思うことにそう時間はかからなかった。

ただ、母親だけがいつも悲しそうにしていた。

皆が認めてくれているのに、母親だけは彼を認めなかった。


いつも、叱っていた。

他人を殴るな、虐めるな。

いつも口を酸っぱくしてそう言っていた。

そして、母親は彼を注意する度、父親や祖父に怒られていた。

どちらが正しいのか明白だった。

だって、弱いのがいけないのだ。

自分以外は皆、弱いのだ。


そうして十年が経過した。

名門校の一つである、聖エルリア学園に入学が決まった時。

やっぱり母親は、悲しそうな顔をするだけだった。

上辺だけのおめでとうを口にして、それ以上はなにも言ってこなかった。


今回の件については、学園から実家に説明があった。

父親と祖父からは、家に泥を塗るなという旨の手紙が届いた。

喧嘩相手が、元農民の子だと知ってそんなやつに負けるなという内容の手紙だった。

お前は優秀なんだから、と書かれていた。

優秀なやつが、農民のような下賎なやつに負けるなと書かれていた。

その手紙をクシャクシャに丸めて捨てた。

寮に戻ってからは、寮生達も寮母も腫れ物を扱うような態度だった。

それは当然といえば当然のことだった。


彼の機嫌を損ねて、いつクラスで起こしたようなことをされるのかわからない。

ビクビクするのは当然だった。


しかし、それ以上にアールをイラつかせているのはクラスメイトの誰かが口にした、


『アールが負けてる』


という言葉だ。

負けてる。

負けていた。

アールは五歳の頃から一度だって負けたことがなかった。

大人をボコボコにできた。

いつだって、倒れ伏しているのは相手で、立っているのは自分だった。

それが普通だった。

負けないのが、普通だった。

立っているのが、普通だった。

けれど、あの日。

一週間前のあの日。

転校生(ウカノ)によって、その普通が壊された。

ウカノは、アールを見下していた。

あの目が気に入らなかった。

頭はいいらしいが、それよりもなによりも、自分を下に見ているあのウカノの目が、なによりも気に入らなかったのだ。


だから、思い知らせてやろうと考えた。

その結果が、喧嘩両成敗で二人とも謹慎。

アールがウカノを本気で殺そうと展開した魔法陣、それをウカノは無効化しようとして、大爆発を起こした。

しかし当のウカノは無傷、アールは三日間の入院となったのだった。


初めて、得体の知れない化け物と遭遇した気分だった。


ウカノは化け物だ。

その考えに、そんな風にウカノへ恐怖を抱いてる自分にイライラしているのだ。


さらに校舎に向かう途中、聞こえてきた噂話がそのイライラを加速させた。

曰く、謹慎中にウカノは冒険者活動をしていたらしい。

そして、賞金首の盗賊を捕まえたのだという。

ちょっとした英雄のような扱いになっているらしかった。


聖エルリア学園は名門校だ。

そして、あまり知られてはいないが実力主義である。

謹慎中のこういった活動は褒められたことではないが、そのウカノの功績を認めない訳にはいかなかった。


教室に着くと、アールの登場に一瞬シンと静まった。

その様子にアールが、


「ちっ」


と舌打ちする。

彼は自分の席に向かい、腰をおろした。

続いて、また何人かクラスメイトが登校してきた。

朝礼ギリギリになって、ウカノが駆け込んできた。

息が上がっている。

寝坊でもしたのだろう。

アールはそう考えた。

クラスメイト達の視線が、ウカノに集中する。


「え、と?

おはよう。

え、間に合わなかった?

俺、遅刻??」


ウカノはクラス中の視線を受けて、そんな事を口にする。

近くにいた女子生徒が、


「大丈夫だよ」


そう言った。

それを聞いて、ウカノはホッとしていた。


「よかった」


ウカノが自分の席にむかう。

ハラハラと、クラスメイト達が二人の動向を見ている。

また喧嘩するんじゃないかと不安なのだ。

そうでなかったら、話題になっている盗賊退治について質問攻めにしているところだ。


「…………」


アールがムスッとウカノを睨みつける。

そんなアールに向かって、ウカノは何も無かったかのように挨拶した。


「おはよ」


その目に、態度に、またイラッとした。

怒気が教室中に伝わる。


「…………」


しかし、アールもそこまで馬鹿ではない。

睨みつけただけで、終わった。

挨拶は返さない。

無視されたことに、ウカノはとくに何とも思っていないようだ。

仕方ないなあ、という苦笑を浮かべただけだ。


(ほんと、クロッサに似てる子だなぁ)


これはあとで、仕返しに来るなと予想しながらウカノは席についた。

弟のクロッサと違うのは、一週間も怒りが持続するところだろう。

クロッサは精々、二日しか持続しなかったからだ。


(いや、謹慎があったから続いてるだけかな)


そんな事を考えていると始業を告げるベルが鳴った。

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