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それから、さらに数十分後。

二人は盗賊に捕まっていた。


「良かったわね、殺されなくて。

私の口添えのお陰よ。感謝してね」


「でも捕まったじゃないですかぁぁあ!!

それに、あんな口添えするなんて!!」


縄でぐるぐる巻きにされ、値踏みされた。

あわやライドは殺されるところだったが、


「でも、こういうの好きな人いないんですか?

需要があるって聞きましたけど」


というウカノの言葉に、あっさりとライドも生きたまま連れていかれることとなったのだった。


「しっかし、嬢ちゃん肝が座ってるなぁ。

まるで嬢ちゃんが、護衛みたいだ」


荷台に乗せられた2人のやり取りを聞いていた、盗賊の一人がそう声をかけた。


「あら、そうですか?」


ウカノは声を作って、答えた。


「これでも男に混ざって仕事をしてますので。

殿方の怖さはこれでもかと身に染みてるんですよ」


「とてもそうには見えないけどな」


「ふふ、これはただの虚勢です。

これでもいつ首をはねられるか、とビクビクしてるんですよ」


「ははっ!

そんなことしねーよ!!

嬢ちゃんみたいな別嬪さんは、頭に差し出すって決まってるんだ」


「そうなんですか?

てっきり売られるのかとばっかり」


「頭は、綺麗な物は愛でたいらしいぞ」


「へぇ。

どこまで尽くせるかわかりませんが、優しい方だと嬉しいですね。

なにせ、そうは見えないでしょうけど、私初めてなもので」


ウカノの言葉に、盗賊たちはゲラゲラ笑った。


「あら、その笑い。

ということは、手酷くされるのかしら?」


「さぁ?

どうだろうな??

なにせ、頭は気分屋だからなぁ。

精々うまく酌をしてご機嫌を取っておいた方がいいのはたしかだ」


「お酌なら得意ですよ。

あぁ、そうだ。

ついでに、聞きたいんですが。

そのお頭さんの、お酒の好みはわかりますか?

ご機嫌を取るなら、やはり上等なお酒をすすめたいので」


「おいおい、そう言って飲ませる酒に毒でも入れるんじゃないのか?」


「まさか。

怪しいと思ったら、この泣き虫護衛に毒味でもさせればいいでしょう」


それもそうだ、と盗賊達はまたゲラゲラと笑った。


「あんた何言ってんすかぁぁああ!!??」


「え、美味しい酒の味見、したくないの?」


ライドの叫びに、ウカノは淡々と返した。


「どれもこれも絶品なのよ。

王室御用達のやつも選んできたのに」


「そういうことじゃなくてぇぇえええ!!!!

俺、女の子とすらまだなのに、それよりも先に男となんて」


わーわー喚くライドを見て、ウカノは盗賊たちには聞こえない声で、


「下剤も用意しときゃ良かったな。

男って大変だよな」


などと呟いた。

盗賊達には聞こえていなかったが、ライドにはバッチリ聴こえていた。


「アンタが言うなーー!!!!

っていうか、なんの話しっすか?!」


「え、聞きたい?」


ウカノがガチトーンで訊ねた。


「うぇっ!?

や、やっぱりいいです!!」


「綺麗にしなきゃって話なんだけど、聞きたいの??」


「だからいいですって!!

聞きたくないです!!」


そんな馬鹿なやり取りをしてる間に、街に着いた。

盗賊達が占拠しているため、他の住人たちは家に閉じこもっているようだ。

二人は、一番立派な家へと連れていかれる。

そして、目的の人物――ヴェリルハーフバルトと顔を合わせることとなったのだった。


ウカノの横でライドがガタガタと震えている。

一方、ウカノはニコニコと笑みを貼り付けていた。


「お初にお目にかかります、お頭さん。

行商人をしているミタマと申します」


ウカノは、偽名を口にする。

ライドにも、偽名のことは伝えてある。

ヴェリルハーフバルトは、ウカノを見るとニヤニヤと笑った。

どうやら、ウカノのことを気に入ったようだった。


「といっても、今はこのような状態です。

是非とも縄を解いていただけたら、私どもが運んでいたお酒の酌をするくらいはできるかと」


ウカノの言葉に、ヴェリルハーフバルトは豪快に笑って見せた。


「ガッハッハッ!!

活きがよくて結構だ!

それに、中々の上玉だなお前」


「そんな、お恥ずかしい」


そんなやり取りを見て、まだほんの数時間の付き合いでしかないが、ライドは心の中でツッコミを入れた。


(いや、あんた誰だよ??)


ウカノはかなりの演技派だということはわかった。

少なくとも大根役者には見えない。

なんなら、こうしてやり取りしてるウカノは本物の少女に見えてしまう。


(というか、何者だこの人??)


ステータスの職業は農民らしいと聞いた。

そして、ウカノもそれを否定していない。

それどころか、かなりド田舎から王都に出てきたということも聞いた。

ド田舎の農民が、こんなプロ顔負けの演技ができるのだろうか?

ライドは目の前の光景が信じられずにいた。

そんなライドの疑問はよそに、あっという間にウカノが用意した酒が運ばれてくる。

宴の用意がされる。

そして、気づいた時には酒盛りが始まっていた。

どんちゃん騒ぎである。

変わらず縄でぐるぐる巻きになっているライドには、誰も意識をはらわない。


盗賊達は上機嫌で、酒をドンドン飲んでいく。

やがて一人、また一人と酔いつぶれていった。

ウカノは、ヴェリルハーフバルトへどんどん酒をついでいく。

様々な酒をちゃんぽんさせる。

その顔は真っ赤で呂律もまわっていない。


(そろそろかな)


ウカノは頃合を見計らって、ヴェリルハーフバルトへ声をかける。

すでに、日が変わっている時刻だ。


「お酒の味はどうでした?」


呂律のまわらない口で、ヴェリルハーフバルトが、最高だと答えた。

それを優しい、まるで女神みたいな笑みで受け止めると、ウカノはトン、とその大男の体を軽く手のひらで押した。

ふらり、とヴェリルハーフバルトの体が倒れる。


男の体に跨って、ウカノは妖艶な笑みで彼を見た。

酷く性的で、興奮を覚える笑みだ。


「おいおい、大胆な女だな」


「あら、見られながら、というのは中々興奮するでしょう?」


スラリ、とウカノは忍ばせていた小さなナイフを取り出す。


「それに、ダメですよ。

身体検査はちゃんとしなきゃ、な?」


ここで、ウカノは少年の顔になった。

ヴェリルハーフバルトは、一瞬理解が遅れた。

そして、理解する頃にはその喉へナイフが滑って、なにもかもが手遅れとなったのだった。

血が吹きだす。

その返り血を、ウカノは浴びる。

ナイフには毒が塗ってあった。

失血もそうだし、酒も手伝って、さらに即効性の毒のお陰であっという間にヴェリルハーフバルトの首をとることができた。

酒盛りに参加していた、他の盗賊達もなにごとかとそちらを見たが、酒で前後不覚に陥っているもの達など、赤子の手をひねるより簡単に殺せてしまった。


他にも見張りはいるが、中が静かになったところで酒がまわって寝たのかなとしか思っていないだろう。

それに、そもそも見張りや他の仲間たちにも酒を振舞ってやらないか、とウカノはそれとなくヴェリルハーフバルトへ言い、そうするように動かしたのだ。

事実、誰も駆け込んで来ない。


ウカノは顔にかかった血を、適当な布を見つけて拭く。

それから、呆然とその光景を見ているライドへ近づき、その縄を切ってやる。


「お前なぁ、ビビりすぎだろ。

こういうことやんのが、仕事じゃねーの?」


「だ、だってだって~」


血と酒の臭いが充満した、地獄のような世界が広がっている。

これを、ウカノが作り上げたのだ。

それを見て、ライドは彼に畏怖を覚える。

尊敬と羨望と、そして畏怖。

同じ歳の、ド田舎から出てきた少年。

でも、これだけの違いがある。

実力に、これだけの違いがある。


ウカノがライドへ手を差し出してくる。


「ほら、立てよ。

帰るぞ」


「あ、はいっ!」


ライドは、ウカノの手をしっかり握って立ち上がる。

それから、二人はこっそりと街を抜け出す。

その際、町外れにあった馬小屋で馬を1頭失敬する。

幸いにも、鞍も近くに置いてあったのでそれを手際よくつけて、飛び乗ると街から出た。

そして王都へと戻ってきたのであった。

ウカノの魔法袋には、ヴェリルハーフバルトをはじめ、数人の盗賊の首が入っている。

夜闇の中を、月明かりだけを頼りに街道を進む。

しかし、来た道とは別の道だ。

念の為、回り道をしたのだ。

王都が見える頃には、日が上り始めていた。

審査の時に、拭いたとはいえまだ血まみれだったウカノの姿を見た衛兵が、怪我でもしたのかと質問攻めにしてきた。

正直に話すと、それ以上は聞いてこなかった。

マニュアル通りの審査を終えると、ウカノ達は馬を走らせて冒険者ギルドへと駆け込んだのであった。


すでに冒険者はギルドは開いていた。

受付嬢は、昨日と同じ人物だった。

彼女はウカノ達に気づくと、衛兵と同じく血塗れな彼の姿に目を丸くした。


そして、クエスト完了の報告をする。


「終わりました。

首級もあります。

確認お願いします」


その報告は受理される。

そして、


「今頃、他の残党達が二日酔いで倒れてると思います。

捕まえるなら、今ですよ」


残党狩りもすすめておいた。

そして謝礼を受け取ると、ウカノは自宅へ帰ろうとした。

けれど、せめて体を洗って行った方がいいと言われ、言葉に甘えることにした。

水を張った桶をうけとって、隅の方で布を桶にひたす。

それで体を綺麗に拭いた。

着ていた女子用の服から、いつも着ている服に着替える。

桶を返して礼を伝えると、今度こそウカノは冒険者ギルドを出たのだった。


「あー、寝みぃ」


その後ろをライドが着いてくる。


「で、お前も帰れよ」


「いや、だって俺なんにもしてないし。

なんか悪いかなぁって。

なんならご飯くらい作りますよ」


「いらない。

俺は帰って寝る。

じゃあな」


ヒラヒラと手を振り、欠伸をする。

その背を、ライドは追いかける。


「じ、じゃあ!

起きたら打ち上げしましょうよ!!」


「しない」


ガシッと、昨日のようにライドはウカノの腕を掴む。


「やりましょーよー!!」


「疲れたんだよ!!

俺は寝る!!」


「お願いしますー!!」


「ああああ!!うっせー!!」


結局、ズルズルとライドを引きずって家まで来てしまった。


「ほほぅ、ここがウカノさんの仕えてる人の家ですか!

立派ですねぇ。

お手伝いさんとかいるんですか?」


「いない。

一人暮らしだ。

お前、もう帰れ」


「え」


ウカノはライドを置いて、そのまま家に入っていく。

そして、パタンとドアを閉めたのだった。

外でライドがしばらく騒いでいたが、やがて静かになった。

ウカノは、自室に行ってベッドに倒れ込むとそのまま眠ってしまった。

疲れもあったのか、夢もみずに泥のように眠ったのだった。

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