表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/40

前編

その日、世界は滅んだ。

なんの前触れもなく、あっけなく、滅んだ。

いきなりだ。

本当に、唐突に、それは起こったのだ。

彼は呆然と、周囲を見回した。

見慣れた光景が広がっている。

畑があって、田んぼがあった。

十五年、見続けてきた光景が広がっている。

でも、実った作物は枯れている。

それだけじゃない。


「母さん、親父、じいちゃん、ばあちゃん……」


泣くのを必死に堪え、彼は倒れ伏して動かない家族を呼んだ。


返事はない。

返事はない。

返事はない。

返事はない。


さっきまで、普通に生きていた。

動いていた。

それなのに、今は死んでいる。

血を吐いて、白目を剥いて、動かない。

彼は、生きているものがいないか、探し回る。

口にするのは、


「フェイ、カイ、クロッサ……」


弟たちの名前だ。

妹たちの名前だ。

順番に名前を呼んでいく。

しかし、誰も返事をしない。

倒れて動かない。

誰も彼もが動かない。

それは、地獄だった。

死が溢れている、地獄の光景。

訳が分からなかった。

彼――ウカノ・サートゥルヌスは、訳がわからなかった。

ただ一つ、理解出来たのは。

彼だけが、ウカノだけが生きているということ。


やがて、


「シン、シンノウ」


産まれたばかりの弟の名前を口にした。

まだ、産まれたばかりで、小さくて、壊れそうなほど小さくて。

でも、声はない。

泣き声すら、ない。

1番末の、まだ赤ん坊の弟はカゴの中で目と口、そして鼻から血を流して死んでいた。


「あ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛っ」


理解できなかった。

どうして、皆死んでいるのだろう?

何故、自分は生きているのだろう?


わからない。

わからない。

わからない。


だから、声を出すしかなかった。

取り残されたこの世界で、たった一人声を出して、幼い子供のように泣きじゃくるしかなかった。

頭がおかしくなりそうだ。


そんな彼に、声が届いた。


「あっ、おーい!!

こっちこっち!!

生きてる奴、居たぞー!!」


声の方へ、振り向く。

まず、ウカノの目に入ったのは、綺麗なピンク色だった。

続いて、黒が現れて。

最後に、馬が現れた。

何を描写しているのかわからないだろうが、この時ウカノの見た光景を描写するとこうなってしまうのだ。

ピンク、黒、馬。

ピンクは髪の色だった。

ピンク色の髪をした、女神のような美しい少女だ。

黒も髪の色だ。

こちらは、自分の父親よりも上だろうと思われる男性だった。


そして、馬。

頭が馬で、体は人間のよくわからない生き物が少女に促され、ウカノを見ていた。

ウカノの顔は涙でぐちゃぐちゃだった。

でも、それは仕方の無いことだった。

だって、なんの前触れもなく、世界が壊れて滅んだのだ。

そして、家族まで全て亡くしたのだ。

あまりの毒親ぶりに、いつか絶対ぶっ殺す、と決めていたクソ親父ですら、呆気なく死んだのだ。

世界にただ一人、彼だけが取り残されていた。


馬と黒が何やら言葉を交わしている。

そして、ピンクがウカノへと近づいてくる。


「さてさて、ふむ」


ピンクはウカノを見て、なにやら思案しているようだった。

やがて、


「災難だったなぁ、お前」


なんて言って、ウカノへ手を差し出してきたのだった。


「とりま、俺たちと一緒に来い」


こんな地獄のような光景の中で。

壊れてしまった世界の中で。

滅んでしまった世界の中で。


その手はあまりにもキラキラと輝いて見えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ