5年ぶりの恋にうかれる
晴れてカップルになれたことを、会社の友人である千佳ちゃんに報告したくて、その日の夜に『明日飲みに行きたい』と連絡した。
『明日!?急だね。月曜日だよ?』
『いいの、お願い!』
『まあ、わかった。飲みすぎ注意ね』
時刻はすでに0時をまわり明日のために早く寝なければいけないのに、嬉しすぎて眠れない。あんな素敵な人が私の彼氏なんて。どうしよう!私の人生にこんな幸せなことが起きるなんて!年齢も年齢だし、いつかは結婚も…。
そんなことを考えていたら結局朝方まで眠れず、その日の仕事は身が入らないまま終わった。
「千佳ちゃん、早く行こう!」
終業と同時に千佳ちゃんを捕まえていつもの居酒屋に入る。
まだ17時半。人はほとんどいない。
千佳ちゃんは何も喋らず真剣な顔をして席に座り、私の言葉を待った。
「ねえ、聞いて!昨日告白されて、付き合うことになったの!!」
「えっ、そっち!? なんだあ、良かった」
「え?」
千佳ちゃんには、最近いい人がいると言っていたけれど詳しい報告はしていなかった。私が何も言わないからてっきりダメになったと思い、今日はやけ酒だろうし、しっかり話を聞いてやろうと意気込んでいたようだ。ありがとう、千佳ちゃん。
「えー、私詳しく聞いてないんだけどそもそもどんな人なの?」
「身長は175あるかないか。36歳で黒髪・短髪・視力良し」
「他は?」
「やせ型かなー」
「見た目の話ばっかりじゃん。中身はどうなのよ」
いつの間にか届いていたビールを飲みながら、枝豆をつまむ。
「すごく優しそうな感じ。一緒にいて楽しいし、すごく落ち着くの。あとはそうだな…、なんか大人の男って感じ!」
「大人の男…」
「そうそう!あと、二人とも出不精かな!」
「……出不精」
千佳ちゃんは少し微妙な顔をする。
「菜月ちゃんが嬉しいのは私も嬉しい。すごく幸せそうだしそれも嬉しい。でも浮かれすぎてる!」
ビールをドンっと勢いよくテーブルに置き、菜月ちゃんは少し身を乗り出す。
「いいんだよ?幸せな恋、大歓迎!!菜月ちゃんには幸せになって欲しい」
「うん」
「でもよく考えて。菜月ちゃん30でしょ?」
「29……」
「細かいことはいいの! 菜月ちゃんも相手の人もいい年なんだし、もし結婚も視野に入ってるのなら、この先ずっと一緒にいられる人か良く見極めてね!一生のことだからね!?」
「うん」
「お節介でごめんね。でも菜月ちゃんには幸せになって欲しいの。親友だし」
「千佳ちゃん……」
私なんてってずっと思ってきたけど、私の隣にはこんな素晴らしい友人がいた。そう思うとなんだか涙で視界が滲んで、うまく話せない。
「ありがとう、千佳ちゃん。頑張るし、幸せになるよ」
「うんうん。結婚式楽しみにしてるから!」
「うん」
千佳ちゃんの言うことは正しかった。私はもっと冷静でなければいけなかったのだ。でなければ、あんな結末を迎えずにすんだのに。