年上で余裕のある男
「いやーなんか緊張するな。カップルになれたの初めてで」
お手軽なイタリアンレストランに入り席に座ると、彼は照れくさそうに笑いながら頭を掻いた。
「私は何度かカップルになったことがあるんですが、食事は初めてです」
「そうなんですか!ちなみに婚活歴とか聞いてもいいですか?」
「6カ月です」
「僕は3カ月なので、似たような感じですね」
食事をしながらたわいもない会話した。
最近の天気、仕事のこと、好きなこと、行ってみたいところ。
その一つ一つが楽しかった。目の前にいること人に好かれたいと思った。
「二宮さんは土日お休みなんですか?」
「はい。カレンダー通りです」
「もし良かった、空いている日曜日にどこか出かけませんか?」
「えっ!私とですか!!」
「嫌ですか?」
「いいえ、嬉しいです。 ぜひ」
余裕のある大人の男に見えた。
初めてのデートもわざわざ車で迎えにきてくれて、飲み物まで用意してくれた。
それだけで価値がなかった自分が、少し価値のあるもののように思えた。
「前もいいましたけど、僕36歳なんですよ」
「はい、知ってます」
「売れ残り感がすごいでしょ?訳ありに見えます?」
「そんなことないですよ。仕事に打ち込んでいたり、職場が男性ばかりだったら出会いもないですし。今は晩婚の人も多いみたいですしね。普通です」
「ありがとうございます。 …二宮さんは素敵な人ですね」
恋に落ちた瞬間なんてなかった。
会っている一秒一秒で、彼を好きになっている。
彼が好き。彼女になりたい。
そしてその願いは、4回目のデートで叶った。
その日は映画を見て、近くの居酒屋で初めて一緒にお酒を飲んだ。
お酒は大好きだけど私は緊張で酔えなくて、だけど酔った彼はいつもと違って少し陽気だった。
「ラストオーダーです」
「あ、もうそんな時間か」
楽しい時間なんてあっという間で、次も会えるかな、会えるとしたらいつかなと考えながら、鞄から財布を取り出す。
「いくらですか?」
そう言って顔を上げると、彼は真剣な顔をしていた。
「二宮さん…、菜月ちゃんて呼んでいい?」
「え? あ、はい。どうぞ」
「俺、菜月ちゃんのことが好きなんだ」
「えっ!」
「付き合いたいと思ってる」
「えっっっ!!」
驚いて、一瞬言葉に詰まった。
付き合いたいとは思っていたけど、私本当にこの人と付き合えるんだ。
胸が高鳴って、私の言葉を待つ彼を見つめた。
「…私もお付き合いしたいです」
その言葉だけで精一杯だった。